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「エビデンスが無いと駄目ですか?」という記事に対しては批判的な意見が多かったというエビデンス

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
エビダンス(ChatGPT DALL-E3により筆者作成)

最初に結論

批判が多いエビデンス?→あるよ.

はじめに

朝日新聞デジタルに「エビデンス」がないと駄目ですか? 数値がすくい取れない真理とはという記事が掲載され話題になりました.

新聞記事にエビデンスが無くてもいいのかということで,大きな話題となりました.記事に付与される朝日新聞が選出したコメンテーターによるコメントも9件つくなど,議論を呼ぶ記事となっていました.

データ概要

ネット上でもエビデンス重視に疑問を投げかけた記事に対する反論などが多数見受けられました.そこで,ネット上でこの記事に対してどのような意見があったのか,11月2日20時~4日17時のX(旧ツイッター)上で「エビデンス」を含む97273ポストを収集し分析を行いました.なお,記事は10月31日に出ているので,少しタイミング的には遅れていることにご注意ください.また,ベストエフォートで取っているので全部とれているわけではないことにも注意が必要です.

まず,1時間おきのポスト数を見てみましょう.

1時間ごとのエビデンスを含むポストの数(筆者作成)
1時間ごとのエビデンスを含むポストの数(筆者作成)

おおよそ2日,3日に盛り上がって4日には下火になりつつあることが分かります.

賛否両論だったか?

次に,リポストアカウントに基づくクラスタリング手法を使ってポストの分類を試みました.賛否両論だった場合は二つのクラスタが抽出されるはずです.その結果がこちら.

クラスタリング結果(筆者作成)
クラスタリング結果(筆者作成)

この結果からクラスタはほぼ1つしか存在せず,賛否両論が同じくらいあったとはいえないという状態でした.基本的に巨大な塊は当該記事に対して批判的なポストの集合となっていました.

批判ポストの割合

拡散したポストのほとんどが記事に対して批判的な内容だったことはわかりましたが,拡散はしていなくても肯定的意見もあったかもしれません.そこで,ランダムに100ポスト抽出して,記事に対する態度を判別してみました.

なお,判別はGPT-4にお願いしました.GPT-4のやることなので多少間違いはあるかもしれませんが,ざっと見た限りおおむねあっているのではないかと思います.

その結果がこちら.

記事に対するポストの態度(筆者作成)
記事に対するポストの態度(筆者作成)

これをみると,65%が否定的なポストであり,肯定的なポストは6%しかありませんでした.実際のところ目で見ると「肯定的か?」と思うものもありますが,そこは誤差範囲と考えましょう.いずれにせよ,ほとんどのポストは記事に対して批判的な内容だったと言えそうです.

ちなみに,念のため私自身でも100ツイートを自分の目で見てラベリング(通称根性マイニング)をしてみましたが,結果はほぼ同じでした.

政治的傾向

では,ほとんどが否定的なポストだったということが分かりましたが,これらのポストを行ったのが政治的に偏った人たちだったのかどうかも確認してみましょう.

朝日新聞はいわゆる保守系の方からは好かれていないということもありますので,そういったものが影響しているのかを確認してみます.

ポストをおこなったアカウントの政治的傾向(筆者作成)
ポストをおこなったアカウントの政治的傾向(筆者作成)

この結果,25%のアカウントは保守系のアカウントだったようですが,ほとんどのアカウントが政治的傾向は不明のアカウントでした.

したがって,今回の件は政治的偏りが強いアカウントだけが批判した結果ではないと言えそうです.

結論

朝日新聞デジタルに「「エビデンス」がないと駄目ですか? 数値がすくい取れない真理とは」という記事が掲載されましたが,X上では批判的なポストが多かったということに,一定のエビデンスが得られた結果になったかと思います.

もちろんエビデンスというのは一定のデータや数値から得られるものであり,すべてをカバーしているものではない点には注意が必要です.例えば,X以外のプラットフォームではどうかといった事はわかりませんし,

エビデンスという道具を使って、他者をたたきたいという暗い欲望が蔓延(まんえん)している

かどうかも今回の分析からは分からないため,そこが否定されるものではないという点にはご注意ください.

なお,本件に関する個人的な意見はすでに朝日新聞デジタルのコメントプラスに書いているので割愛いたします.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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