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映画「バービー」はどう炎上したのか

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(提供:イメージマート)

背景

2023年7月21日にアメリカ合衆国で『バービー』と『オッペンハイマー』が同日公開されたことを受けて,バービーとオッペンハイマーを組み合わせたbarbenheimerというミームが誕生しました.

これに対して,アメリカの映画「バービー」の公式アカウントがTwitter(X)上で好意的に反応したことで,原爆を揶揄するような対応は不謹慎であると日本では批判の声が相次ぎました.

その結果.ワーナーブラザースジャパンが2023年7月31日「バービー」日本公式アカウントを通じて謝罪を行い,アメリカのワーナー・ブラザースも全世界のプレス向けに声明を発表しました.

時系列データ分析

2023年7月22日~8月5日までにbarbenheimerを含む投稿をTwitter(X)から収集して分析を行いました.得られたデータは398,594アカウントによる614,695ツイート,オリジナルツイートは109,318です.なお,アメリカの公式アカウントがbarbenheimerに反応した7月21日のデータは取得できなかったので,分析には入っていません.無念.

この中でも,#barbenheimerとそれに抗議をする#nobarbenheimerに注目してみましょう.それぞれの投稿数はリツイートを含めて131,934ツイート,103,679ツイートでした.ツイートの遷移は以下の通りです.

ハッシュタグの遷移(筆者作成)
ハッシュタグの遷移(筆者作成)

この結果を見ると,#barbenheimerの盛り上がりは7月23日あたりがピークで,それ以降は下火になっていましたが,7月30~31日あたりで再び上昇しています.ただ,これは#nobarbenheimerと同期したものでした.

一方#nobarbenheimerは7月30日から爆発的に拡散されましたが,3日ほどで収まっているようです.

利用言語分析

次に,これらのハッシュタグがどこで使われたのかを確認してみましょう.

#barbenheimerと,#noberbenheimerを以下のようにそれぞれ時期に分けてみました.

ハッシュタグの利用国(筆者作成)
ハッシュタグの利用国(筆者作成)

これより,#barbenheimerタグの利用は英語と日本語で80%を占めていることがわかります.

7月29日以前は#barbenheimerは70%は英語圏で使われていたおり,7月30日以降は日本語が60%を占めています.英語での#barbenheimerは30%程度で,数としても7月29日以前の半分程度しか使われていませんでした.

また,#nobarbenheimerは7月29日以前は使われておらず,7月30日以降は82.6%が日本語のツイートにつけられていました.

この結果から,#barbenheimerはアメリカを含む英語圏で用いられ,#nobarbenheimerはほぼ日本で用いられていたことがわかります.映画バービーの公式アカウントは結局ツイートを削除するくらいでそれ以上の反応はしていないのは,影響力は限定的という判断をしているからだと思われますが,これらのデータを見てもその判断は間違ってはいなそうです.

まとめ

というわけで,バービーと原爆を組み合わせるという日本人には受け入れるのが難しそうなミームが流行ったため分析を行いました.

その結果,そもそもこのミーム自体は3日ほどで収束しており,それほど盛り上がってはおらず,このミームへの反対も3日ほどで収束していることがわかりました.

瞬間的な盛り上がりは#nobarbenheimerのほうが大きかったといえそうですが,一方でミームへの反対は日本でのみ盛り上がっており,アメリカのSNS利用者にはあまり届いていないように見えました.

実際,映画「バービー」は全世界興行収入が10億ドル突破したとのことで,少なくとも興行収入にはそこまで大きな影響を与えていない可能性が高そうです.

一方,日本での公開は8月11日とのことですが,日本でもすでに話題としては下火になっていることから,大きな影響はない可能性が高そうです.

インターネットミームは時にSNS上で大きな話題になったりしますが,なかなかSNSの外にまで影響を与えるところまではいかなそうといったところでしょうか.実際に公開されてみないとわからないところではありますが.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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