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Xのコミュニティノートを分析してみる

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
erだけのこったTwitter(写真:ロイター/アフロ)

ツイッター・・・じゃなくてX(慣れない・・・)にコミュニティノートという機能が追加されました.これは,特定のツイート(でいいのか?)に補足説明を載せられる機能となります.

NHKが公開した記事のタイトルが「タイトル詐欺ではないか」という疑いがもたれた際にコミュニティノートで解説が入ったことで注目されたため,見たことのある方も多いのではないでしょうか.

日本でも3月から利用が開始されたので,その利用について分析してみましょう.

コミュニティノートは,ノートの付与と,その評価から成ります.コミュニティノートを投稿しただけでは反映されず,そこに一定の評価が与えられ,十分評価されたノートだけがツイートに付随して表示されるようになります.

このコミュニティノートは透明性のため,すべてのデータが公開されています.そこで,折角なのでデータを分析してみることにしましょう.今回は,7月26日にダウンロードしたデータを使っています.

登録されていたコミュニティノートの総数は146,951,与えられていた評価総数は6,689,428ありました.

そこで,まず2021年にコミュニティノートが作られてからのノート数の遷移を見てみます.

1日当たりのコミュニティノートの投稿数(筆者作成)
1日当たりのコミュニティノートの投稿数(筆者作成)

青い線が全体,オレンジが日本語のコミュニティノートの投稿数です.2021年からそこそこ使われていたようですが,2022年10月ごろからコミュニティノートの数が増加し,さらに3月ごろから増加傾向にあるようです.

日本では2023年3月ごろからサービスがスタートしたようで,そのころから日本語のコミュニティノート数が増え,7月以降1日当たり100件近いコミュニティノートが投稿されています.とはいえ,前述の通りすべてのコミュニティノートが表示されるわけではありませんが.

そこで,次に評価について見てみます.評価は,各コミュニティノートに対してつけることができます.「このノートは役に立ちましたか?」という質問に対して「はい」「少し」「いいえ」を選ぶことができます.さらに,その内容について詳細に答えることが可能です.

コミュニティノートへの評価
コミュニティノートへの評価

コミュニティノートへの評価数はこちらのようになります.

コミュニティノートへの評価数(筆者作成)
コミュニティノートへの評価数(筆者作成)

コミュニティノート数に比べると当初は利用が多くなかったことが分かります.その後2022年10月に入ってから一気に利用が加速しています.日本においてはノートの増加とほぼ同時に増加しているようです.

ところで,コミュニティノートは一つのツイートに複数書かれることがあります.コミュニティノートが書かれたツイートは,どのくらいのコミュニティノートが書かれていたのか見てみます.

ツイートごとのコミュニティノート数
ツイートごとのコミュニティノート数

横軸にコミュニティノートの数,縦軸にそれだけコミュニティノートがついたツイートの割合を示しています.これを観ると,全体では67%がコミュニティノートが1つだけついており,日本の場合は76.7%が1つだけついています.コミュニティノートが2つまでのツイートが,全体で86.5%,日本語では94.3%となっており,コミュニティノートはおおよそ2つくらいまでしか書かれないという事が分かります.ただし,ものすごい量のコミュニティノートが付く例もあります.今のところ日本語の最高記録となっているのは,18個コミュニティノートがついているこちらのツイートです.

コミュニティノートの中身を見ると賛否両論存在してますが,評価はいずれも100程度しかつけられておらず,評価不十分という事なのかコミュニティノートはツイート上には表示されていないようです.

それでは,コミュニティノートにはどのくらい評価がつくのでしょうか?

まず,全体では平均43個の評価が,日本では平均51個の評価がついているようです.

コミュニティノートにつく評価数(筆者作成)
コミュニティノートにつく評価数(筆者作成)

上図は(あんまりいい図ではないのですが)評価数ごとのコミュニティノートの割合です.全体では13%程度,日本では20%程度のコミュニティノートには評価がついていない一方で,どちらも10%程度は100件以上の評価がついていることが分かります.

基本的に評価数が少ないコミュニティノートは表示されない傾向にあるようですので,かなり厳選されたコミュニティノートが表示されているのではないかと考えられます.

ところで,評価がたくさんついても「役に立った」割合が少ないと表示されないようです.そこで,各コミュニティで何パーセントくらいが「役に立った」と評価されているのでしょうか.100回以上評価がついたコミュニティノートについて見てみましょう.

「役立った」評価の割合(筆者作成)
「役立った」評価の割合(筆者作成)

これを観ると,日本語では役立ったの割合が80%以上のコミュニティノートが80%以上であることが分かり,高い評価を受けるコミュニティノートが多く投稿されていることが分かります.なお,全体では80%以上が役立つとしたコミュニティノートは全体の25%程度なので,大きな差があります.

なお,全体では少なくとも1回の評価がついたコミュニティノートでの役に立った平均が53%であるのに対して,日本語では67.6%ですので,評価が少ないコミュニティノートでも高い評価が与えられていることが分かりました.

というわけで,コミュニティノートについて簡単な分析を行ってみました.データを見ると分かるのですが,コミュニティノートを書いたユーザや評価をしたユーザが誰だかは分からないようになっています.また,様々な視点で評価されたコミュニティノートが公開されるということで,色々工夫されているようです.

自分の意見に他の人から意見があると条件反射的に「攻撃されている!」と判断してコミュニティノートに反対している方たちもいるようですが,評価機能はそれなりに機能しているのではないでしょうか.知らんけど.

逆に気に入らないコミュニティノートを非表示にする方が簡単にできそうなのは気になりました.

というわけで,ツイッターじゃないXのデータが手に入りづらくなってきた今,コミュニティノートから社会を見ていくことができたら,面白そうです.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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