2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻を受けて,3月31日に外務省からウクライナの首都などの呼称を変更するという発表がありました.

これをうけて,ウクライナ首都の呼称はキエフからキーウに変更されたほか,原子力発電所の事故で有名だったチェルノブイリはチョルノービリに,ガンダム好きにはおなじみだったオデッサはオデーサと呼び方が変更されました.

HUFFPOSTの記事によれば,Twitterなどでもキーウの利用率があがったとのことですが,実際どの程度「キーウ」が一般化したのかを分析してみましょう.分析の対象は,2022年3月1日から4月29日までのニュース記事での利用頻度,GoogleTrendによる人気度,Twitter上でのツイートに含まれる頻度です.

ニュース記事における利用頻度

まず,ニュース記事ではキエフとキーウがどの程度使われていたのかを,CEEK.JP NEWSを使って調べてみます.

ただし,ニュース記事の中では両方を併記している場合もあるので,併記しているものと,キエフ,キーウそれぞれが単独で出現しているものに分けて分析しました.その結果は以下の通り.

キエフ,キーウのニュース利用率(CEEK.JP NEWSより著者が作成)
キエフ,キーウのニュース利用率(CEEK.JP NEWSより著者が作成)

この結果より,3月31日まではキエフの利用が圧倒的に多かったのに対し,4月1日以降はキエフ単体で使う例はほとんどなくなり,キエフ,キーフの併記かキーウのみの表記となったことが分かります.95%以上のニュースがキーウ,または両方の併記を行っています.

ただ,キーウのみよりも併記の方が多いことから,キーウが完全に浸透したとは判断されていないであろうことが推測されます.

比較のためにチェルノブイリ・チョルノービリについても同様に調べてみました.

チェルノブイリチョルノービリのニュース利用率(CEEKZJP NEWSより著者が作成)
チェルノブイリチョルノービリのニュース利用率(CEEKZJP NEWSより著者が作成)

この結果から,4月1日以降チョルノービリの利用率は一瞬増加したものの,50%には到達しておらず,4月20日以降はチェルノブイリの利用が増加しているように見えます.大きなニュースがないことも原因かもしれませんが,そもそもすでにチェルノブイリという呼称が完全に浸透しているため,ニュースとしてもチョルノービリは使いづらいのかもしれません.

グーグルトレンドによる人気度

GoogleTrendを使ってキエフとキーウの人気度について3月1日から4月27日までで分析してみました.その結果がこちら.

キエフとキーウの人気度(GoogleTrendより)
キエフとキーウの人気度(GoogleTrendより)

これを見ると,検索数としてキーウがキエフを超えたのは4月4日と5日だけであることが分かりました.検索としてはキエフを使っている人が未だに多いようです.割合で見るとこんな感じ.

キエフ・キーウの人気度の割合(GoogleTrendより著者が作成)
キエフ・キーウの人気度の割合(GoogleTrendより著者が作成)

キーウの検索率は外務省による発表がある以前の3月24日から増加していることが分かりました.しかし,その後キーウが過半数を占めるところまではなかなかいかず,4月4日にいったん到達した後もキエフが巻き返していることから,検索においてはキエフがまだ多数派であることが分かります.

ちなみに,チェルノブイリ-チェルノービリだとこんな感じ.

チェルノブイリチョルノービリの人気度の割合(GoogleTrendより著者が作成)
チェルノブイリチョルノービリの人気度の割合(GoogleTrendより著者が作成)

この結果より,チョルノービリについては,従来のチェルノブイリの検索が圧倒的に多いことが分かりました.チェルノブイリほど浸透した名前だとなかなか一気に変化するというわけにはいかないのかもしれません.

ツイートの変化

最後に,ツイッター上でのキーウとキエフの利用状況を見てみましょう.ただし,リツイートを含めた分析をすると,特定の拡散したツイートの影響が大きくなりすぎるため,オリジナルツイートのみを対象としました.その中で,キエフまたはキーウを含むツイートの割合を計算します.

ツイッター上のキエフ・キーウの割合(著者作成)
ツイッター上のキエフ・キーウの割合(著者作成)

これを見ると,大きく変化が起きたのは3月31日であることが分かります.やはり外務省の発表が大きな影響を与えているようです.

ただし,ニュースでは4月1日以降はキエフ単体の利用はほとんどなかったのに対して,20~30%程度はキエフという呼称が残っていることが分かりました.

とはいえ,チョルノービリと比較してみると,キーウの利用は大幅に増加したとは言えそうです.

ツイッター上でのチェルノブイリとチョルノービリの割合(著者作成)
ツイッター上でのチェルノブイリとチョルノービリの割合(著者作成)

チェルノブイリについては,80%くらいがチェルノブイリを使い続けており,4月1日以降チェルノブイリの利用率が上がっているようにも見えます.チョルノービリという呼び名が浸透するにはまだ時間がかかりそうです.

浸透度の比較

最後に,ニュース,検索,Twitterにおけるキエフの利用率の変化を見ることで,キーウ浸透具合を比較してみましょう.

キーウの浸透度の違い(著者作成)
キーウの浸透度の違い(著者作成)

これより,検索では4月1日以降も概ね50%以上がキエフでしたが,Twitterでは60~80%が,ニュースにおいては95%以上がキーウを使っていることが分かりました.ただ,Twitterの利用を見ても時間を追うごとにキーウの浸透率が上がっているというわけではないため,使っている人は使っているが使っていない人は使っていないという二極化が進んでいる可能性もありそうです.

おわりに

HUFFPOSTの記事では,

ツイートで他者に情報を伝えるという能動的な行動を取るユーザーには、関連する情報に敏感なユーザーが多いのではないか

なんてコメントをしてしまいましたが,キーウについては成り立ちそうでしたが,チョルノービリの利用率を見る限りそこまで言えるほどではなかったかなと思います.今回の件では,ニュースの方が先行しているようにも見えます.呼称の言い換えはそのものは進んでいるとは言えそうですが,HUFFPOSTの記事で出した「能動的だから」という仮説は否定されそうです.

いずれにせよ,ニュースではキーウと呼称することが主流となっている中今後どのように浸透していくのかを分析してみるのは面白そうです.特に,深く浸透しているチェルノブイリがチョルノービリに変化していくとしたら,その変化の過程は興味深いものになりそうです.

なお,時間の関係で今回はキエフと書かれているツイートとキーウと書かれているツイートで内容に違いがあるかの分析までは手が届きませんでしたので,気になる方はぜひ分析してみてください

Web Tweet Crawlerなどでツイート収集して分析していただければ何か傾向が見えてくるかもしれません.