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ファミマ CMO 足立光氏に学ぶ「アイデアは、発見よりも実行のほうがはるかに重要」という視点

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:アジェンダノート)

「マーケティングアジェンダ2023」というイベントが、「アイデアの発見」をテーマに開催されました。

非常に参考になる話がたくさん聞けましたので、一部をご紹介したいと思います。

初日のオープニングキーノートは「顧客を動かすアイデア発見を考える」というテーマで、ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)の足立光氏、元ユニ・チャーム 常務執行役員である木村グローバルマーケティング 代表/アルダ CMOの木村幸広氏、小林製薬 執行役員 CDOの石戸亮氏が登壇し、マーケティングにおいてアイデアを発見するために重視していることをプレゼンしました。

(出典:アジェンダノート 左から 筆者、木村氏、石戸氏、足立氏)
(出典:アジェンダノート 左から 筆者、木村氏、石戸氏、足立氏)

筆者は、このキーノートのモデレーターを担当しましたが、木村氏の経験を元にした「アイデアは現場にある」という信念や、石戸氏の「決断経験値を蓄積するための思考モデル」には大変刺激を受けました。

その中でも、やはり3泊4日のマーケティングアジェンダを通してキーワードとなったのは、足立氏が強調していた「アイデアは発見よりも実行のほうが大事」というポイントでしょう。

一般家庭用ロボットをつくりたいという信念

2日目のキーノートでも「アイデアの発見」というテーマに沿って、「毎日の生活をアップデートするアイデア創生の技術~常識の盲点に着目し、幾多の困難を乗り越えた3年間~」と題して、家庭用ロボット「カチャカ」を開発したPreferred Robotics 代表取締役CEOの礒部達氏、Preferred Networks / SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏が登壇し、「新しいモノを世に出す、ということ」について話をしました。

(出典:アジェンダノート 左から 磯部氏、富永氏)
(出典:アジェンダノート 左から 磯部氏、富永氏)

「カチャカ」は、声やアプリで操作することで人の指示通りに自動で家具の場所を変えられる「スマートファニチャー」というコンセプトで開発された家庭用ロボットです。

ただ、「カチャカ」が発売まで辿り着くには、さまざまな障壁を乗り越える必要があったそうです。

Preferred Networksは2019年CEATECで「すべての人にロボットを。」というビジョンを打ち出すとともに、全自動お片付けロボットを発表しました。

これを皮切りに、多くのロボット開発者が採用され、社内では色々なロボットプロジェクトが立ち上がっては壁に当たっていました。

その中で残ったのが、カチャカでした。

プロジェクトに関わった10人ほどのメンバーを中心にロボット開発にフォーカスした子会社Preferred Roboticsが設立され、礒部氏が社長に任命されました。

親会社が求めた外部出資を、礒部氏が調達できたことが決め手となりました。設立後も決して道のりは平坦ではなく、協業予定だった家具メーカーが途中で離脱したり、円安や半導体不足が重なってコスト構造が悪化したり、苦悩の連続でした。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

結果的にさまざまな困難を乗り越えられたのは、「一般家庭用ロボットをつくりたい」という礒部氏の強い信念だったのではないかと、富永氏は言及しています。

この「カチャカ」が今後、一般家庭に普及し、製品として成功するのかどうかはまだ分かりません。これまでになかったアイデアから生まれた製品だけに、まだまだ多くの困難が待ち受けている可能性もあるでしょう。

ただ、今回のセッションを聞いていて改めて感じたのが、こうした革新的なイノベーションを引き起こす可能性があるアイデアや製品というのは、業界関係者から否定されることが多いという事実です。

大ヒットにつながるアイデアが眠っている可能性

私は、本田技研工業の「オデッセイ」の開発に携わった人の話を聞いたことがあります。

オデッセイは、当時の日本にミニバンブームを巻き起こし、経営面で苦境に陥っていた同社を救った車と呼ばれることもあります。

ただ、実はオデッセイの開発プロジェクトが立ち上がったとき、社内でも国内でも「ミニバンは売れない」という意見が主流で、何度もプロジェクトは閉鎖されそうになったそうです。

実は、開発初期段階では社内関係者から否定的に受け止められていた製品が、その後、驚くほどの大ヒットにつながるというケースが歴史上に多数存在します。

あまり知られていませんがサントリーのハイボールや、SUBARUのアイサイトなどもそうです。

そのような意味で、今回のセッションで改めて痛感させられたのが、冒頭で紹介した「アイデアは発見するよりも実行のほうが大事」という足立氏の発言です。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

画期的な新商品が生まれ、大ヒットにつながると、必ずといっていいほど「私もそのアイデアを考えていた」「過去に似たようなアイデアに私も挑戦していた」と言う人が出てきます。

ただ、実はアイデアを思いつくこと自体は、大抵の場合、それほど難しいことではありません。

そのアイデアを具現化し、実行し、成功につながる形で実現できるかどうかこそが、本当に大切なことと言えるでしょう。

多くのマーケターが、何かしらのアイデアを提案したものの否定されたり、承認されずに断念してしまったりした経験があるはずです。

ただ、実は業界関係者に否定されるような画期的なアイデアのほうが、他の企業が挑戦しない分、大ヒットにつながる可能性があるとも言えます。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

もし発見したアイデアを本当に信じているのであれば、1度否定された程度で諦めずに、礒部氏や富永氏と同じく信念を持ち続け、いかに成功につながるために実行に移すかどうかがポイントになると言えそうです。

(※この記事は、2023年6月16日付アジェンダノート寄稿記事を加筆・修正のうえ転載しています。)

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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