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廃棄前提おじさん騒動で考える、巻き込み炎上の唯一の対処法

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:万座亭ウェブサイト)

今週、群馬県にある温泉旅館の万座亭が、1件のツイートから炎上騒動に巻き込まれてしまうという騒動がありました。

参考:“廃棄前提”炎上ツイートで注目の温泉旅館 オンラインサロン運営者の「炎上マーケティング大成功」発言を「事実無根」と否定

簡単に言うと、宿泊客が料理の多さに不満をツイートしたら、その投稿が思いのほか注目されて炎上してしまった「だけ」の話。

世界中が新型コロナウイルス感染拡大で揺れている中、こんな話題が注目されるなんて日本は平和だな、とも思えるニュースではあるのですが、今回最も残念なのは、万座亭自体は特に何も悪いことはしていないにもかかわらず、文字通り巻き込み事故的に、投稿者とその周辺による炎上投稿の連鎖に巻き込まれてしまった点です。

1つのツイートが「廃棄前提おじさん」命名で大きな話題に

今回の騒動を時系列で見てみましょう。

■8月10日夜  よりかね氏が、旅館に泊まった際の夕食の感想をツイート

■8月11日  投稿内容に賛否の声があつまり、ツイートが徐々に話題に。

■8月12日  上記の投稿をテンプレにツイッター上で大喜利的展開に。

■8月12日  「廃棄前提」がツイッターのトレンド入りしてネットメディアも取り上げる流れに。

参考:「ちょっと高い旅館」で出てきた夕食の量で議論に 「廃棄前提」というワードがTwitterのトレンド入り。

■8月13日早朝  よりかね氏が「廃棄前提おじさん」 と命名され、さらに注目を集めることに。

■8月13日午前  「廃棄前提おじさん」がツイッターのトレンド入り、関連してよりかね氏が田端大学のメディアを運営していることから「田端大学」もトレンド入り。

■8月13日午前9時 田端氏が、田端大学のトレンド入りを見て、「燃えないゴミは、ただのゴミだ。炎上できることは才能なんだ」と燃料投下。

■8月13日午前9時  田端氏が「田端大学で請け負った万座温泉の炎上マーケティングだよ」や「なんか、このご時世にあの温泉旅館、半年先までいっぱいになったらしいですよwww」と旅館側が仕掛けたと誤解しかねない発言を連投。

■8月13日午後4時  万座亭がウェブサイトで「SNSで取り沙汰されている件につきまして、当宿で宣伝目的の依頼などは一切しておりません」と公式に否定する結果に。

(出典:万座亭ウェブサイト)
(出典:万座亭ウェブサイト)

くどいようですが、本来であれば今回のケースは、あくまで、よりかね氏の発言が炎上したのであって、万座亭は直接影響を受ける話ではありませんでした。

よりかね氏の最初のツイートは単純に言うと、旅館の料理が多すぎて食べきれなかったという「だけ」の話。

その後の関連情報などを見ていると、よりかね氏はあまりこうした典型的な日本の旅館の夕食に慣れていなかったようですから、これだけの量が出てくると事前に予想ができていなかったということでしょう。

その体験を、「Go To」というそもそも可燃性の高いテーマに、「大失敗」という言葉を加え、食料廃棄問題とからめた上から目線の投稿にすることで、多くの人の賛否の意見を集めることになったという「だけ」の投稿でした。

それが昨今の、ポテサラおじさんからはじまる、やたらと怒っている不合理なおじさんがツイッター上でネタにされるという流れで「廃棄前提おじさん」というパワーワードにつながって、大きく注目されてしまったわけです。

参考:ポテサラおじさんに「信念」はあったか。暴言に潜む心理

不運な顧客とサービスのミスマッチ

今回のよりかね氏の投稿自体には、古くからの旅館の習慣の問題点を指摘するコメントも散見され、意見が分かれやすいテーマであることは良く分かります。

ただ、通常のツイッターの投稿はいいね数の方がリツイート数より多くなるのに対し、該当のツイートは現時点でリツイートが5万を超えているのに、1.5万しかいいねがついていません。

そういう意味では、明らかにこの投稿には賛成よりも批判の声の方が多く、あくまで炎上したのは万座亭の料理ではなく、よりかね氏の発言や姿勢だったのは明らかです。

料理の多い少ない、美味しい美味しくないというのは、人によって感じ方が違いますから、意見が分かれるのは、ある程度は仕方がない話。

万座亭の夕食も、感動する人もいれば、よりかね氏のようにガッカリする人がいるのも、ある程度は仕方がない話です。

最終的にどちらの嗜好のお客さんを向いてビジネスをするかは、企業側が判断すべき話ですから、よりかね氏の投稿はあくまで一顧客の一意見でしかありません。

万座亭からすれば、ちょっと面倒なツイートをする客が、たまたまGo Toキャンペーンきっかけで来てしまった、という話で済んだはずでした。

巻き込み炎上の被害者となった万座亭

ただ、万座亭にとって不幸だったのは、よりかね氏が田端大学のメディアの編集長で、一連の田端氏の発言に見て取れるように、炎上を恐れないどころか、炎上を歓迎する雰囲気すらある組織の人だったことでしょう。

通常であれば、こうして個人の投稿が思わぬ形で拡散してしまった場合、一般の人はあわてて投稿の意図の補足をしたり、思わぬ形で波紋を広げたことに謝罪をしたり、投稿の削除をするのが普通です。

しかし、今回のケースでは、謝罪も削除もされないどころか、よりかね氏は「クソリプは好きに送ってもらっていいですよ」や「誹謗中傷や嫌がらせには法的対処を検討します」と燃料投下を繰り返し、田端氏がさらに誤解を招きやすい発言を重ねることで、火に油が注がれつづけ、しまいには万座亭のステマではないかと誤解される展開になってしまいました。

コロナ禍で甚大な被害を被っているであろう旅館の方々からすると、正直、今回の騒動は全く笑えない騒動だと思います。

万座亭の方々も、おそらくはGo Toキャンペーンに合わせて、わざわざ来てくれた旅行客に、できる限りのおもてなしをということで用意をしたフルコースの料理のはず。

それが、こんな形で食料廃棄問題のシンボルとして批判されるとは想像もしてなかったと思いますし、まさかステマの疑いをかけられるなど、ショックとしか言えない展開だったと思います。

万座亭の担当者の方々が、今回の一連の騒動でどんな思いで問い合わせ対応やメディアの対応をしているかを想像するだけで、やりきれない気持ちになってしまうのは私だけでしょうか。

田端氏とは、私も古くから面識がありますし、炎上マーケターとしての能力や覚悟は、個人的に尊敬もしていますが、正直、今回の一連の発言には全く共感できません。

冗談とはいえ、万座亭がステマをしているような誤解をおこす発言はすべきではなかったと思いますし、万座亭がウェブサイトで弁解をするような形ではなく、もっと万座亭や関係者の人たちがクスッと笑えるようなフォローの仕方が、田端氏の能力ならできたのではないかと思います。

よりかね氏も、仮にもメディアの編集長を名乗るのであれば、自分の発言が万座亭の中の方々に与える影響に、少しは配慮があるべきだとも思います。

正直個人的には、騒動の後半の一連の投稿は、業務妨害にあたりかねないのではないかと思いますが、少なくとも弁護士ドットコムの記事によると、今回の一連の投稿で法的責任を問うのはかなり難しいようです。

参考:旅館の夕食「廃棄前提」ツイートが波紋 田端信太郎氏「炎上マーケティング」投稿に法的問題は?

そういう意味では、違法なことはしてないのだからと、2人がツイッター上の批判に開き直れる背景は良く分かります。

ただ、万座亭の方々がコロナによる観光客減少で苦しんでいる上に、こんな炎上騒動に巻き込まれて、余計な心労を重ねることになっていると想像すると、せめて万座亭に対しては、お詫びの言葉の1つぐらいあって良いのではないかと感じるのは、私だけではないはずです。

炎上を恐れる企業と炎上を恐れない個人の分断

しかし、万座亭をはじめとする企業の方々にとって、残念なお知らせになってしまうのは、今回の騒動が最終的にどうなろうと、こうした炎上上等の人たちは今後も消えてなくなることはなさそうだ、ということです。

そこには現在のSNS利用の立場の「分断」の構造があります。

通常、企業や企業に所属する組織人からすると、ネットやSNSの「炎上」というのは最も恐れ、避けるべき出来事として考えられています。

ただ、今回の騒動を見て分かるように、田端氏や田端大学のメンバーにとってはそうではありません。

実はネットの「炎上」というのは、あくまで世の中から注目が集まっている状態、とシンプルに考えることができます。

その瞬間に発生する批判や誹謗中傷に精神的に耐えられるのであれば、その際に集まる注目の結果、知名度を増やしたりファンを増やすことができるからです。

今回も、多くの人は、よりかね氏の発言に批判的でしたが、それでもよりかね氏の発言に賛同する人も何割か存在しました。

その人達に自分のことを知ってもらえるなら、誰にも知ってもらえないよりはマシ。

だから、炎上も「アリ」と考えることもできるわけです。

当然、こうした批判は、組織が大きくなればなるほど別の部署や担当者が受け止めることになるため、炎上に対する抑止力が働くのですが、個人の毒舌キャラを売りにしているネット有名人にとっては、自らが耐えられる批判であれば気にならないという判断ができてしまいます。

田端氏自身も、過去にLINEやZOZOに在籍していた際に、何度も炎上騒動を起こしている炎上上等のシンボル的存在。

なにしろツイッターのプロフィールに「趣味は炎上」と明記するほど。

LINE在籍時には、さすがに行き過ぎた発言に組織から厳重注意を受けることもありましたが、その頃からすでに「炎上マーケティングのフォロワー増施策」と言い切っていました。

参考:「憲法って、ただの紙の上に書かれた文章」 役員の“過激ツイート”にLINEが厳重注意

それがいまや、田端氏は企業に所属する組織人ではなく、自らが運営する田端大学というオンラインサロンのトップであり、組織から厳重注意をされるサラリーマンではありませんから、どれだけネット上で炎上しても、本人が気にしないのであれば、痛くもかゆくもありません。

特に田端大学は「大学」とはついているものの、200人ほどの有料のオンラインサロン。

仮に10万人に嫌われても、200人に尊敬されれば継続できるビジネスモデルですから、今回の炎上騒動で田端大学に入りたいと思う人が少しでも増えればそれで良い構造。

だからこそ、田端氏は趣味は炎上と言い切れるほど、炎上に強いわけです。

ここに、普通の人にとっての炎上は「リスク」でしかなくても、一部の炎上上等の人たちにとっては炎上は「チャンス」になる構造があります。

そのため、今回のケースでも、初期の炎上を意に介さず、匿名アカウントからの批判に対して、さらに燃料投下をするような発言で、切り返せてしまっているわけです。

この構造は、言葉を選ばずに言えば、普通の人からすると、ある意味、成人式で悪ふざけをしてテレビに映ろうとする若者や、深夜に度胸試しの暴走行為を繰り返す暴走族と、同じ構造に見えるかもしれません。

万座亭の方々からすると、こうした炎上上等の立場を取る人間の炎上騒動に巻き込まれるのは、普通に路上を走っていたら暴走族に囲まれてしまったのと同じような状況でしょう。

しかも暴走族のリーダーの発言によって、自分達も暴走族の一味と誤解されかけたわけですから、本当に不幸と言えます。

唯一の対処法は、自分の意見を表明すること

では、はたしてこうしたネット上の炎上上等の暴走族集団に巻き込まれてしまったら、企業や組織人はどうしたら良いのでしょうか?

現在のところ、解決策は1つしかありません。

それは万座亭がおこなったように、素早く自らの意見をネット上で表明し、誤解を否定することです。

今回も、田端氏が炎上マーケティングの発言をした後、結構な数の人が、万座亭のステマを疑う投稿をしていました。

もし万座亭がすぐにホームページ側で明確に否定をしていなければ、どこかのネットメディアに「田端氏の発言によると万座亭のステマの可能性がある」とか適当な記事を書かれていたリスクもあったわけです。

そうなると、その記事で誤解をした人たちがまた集まってくることになりかねません。

冗談が本当になって拡がるなんてそんなバカな、と思う方もおられるかもしれませんが、ネット炎上の過程で生まれた誤解が事実かのようにメディアで拡散されてしまうのは、100日後に死ぬワニの炎上騒動における電通案件疑惑記事を見れば明らかです。

参考:100日後に死ぬワニの「奇跡」から、あらためて考えるべき平凡な1日の重み

8月13日の田端氏の炎上マーケティング発言から、一気に万座亭に誤解による批判の矛先が向きかねなかった際に、すぐに数時間でHP側にコメントを掲載できた万座亭の判断と対応は素晴らしかったと言えると思います。

もし、ネット上の騒動を無視したり、無言を貫いていたら、ネット上でさらに誤解が広がっていたかもしれないわけです。

この迅速な対応ができるのであれば、万座亭は今回の騒動をプラスのエネルギーに変えることも可能かもしれません。

よりかね氏が、廃棄前提おじさんとからかわれているように、料理の量のミスマッチは、そもそもこんなに料理が出てくると思わないほどのリーズナブルな料金設定が誤解を生んだ可能性はあります。

実際に、今回の騒動で万座亭を認識して行きたくなったという発言はツイッター上に散見されます。

今後、今回の騒動で万座亭に同情的な人たちに、万座亭がリーズナブルであると応援してもらうための、アプローチを取ることも可能でしょう。

また、もし万座亭がツイッターを運営していたら、なにも宿泊客全員が見に来るホームページのトップに疑惑の否定コメントを書かなくても、公式ツイッターで否定すれば済んだ話でもあります。

また、ツイッターアカウントがあれば、早期によりかね氏や田端氏の発言に積極的に反応するという選択肢もありました。

ツイッター上ではアクティブサポートと呼ばれているアプローチですが、あえてよりかね氏の投稿に、料理の量の事前の説明が足りなかったことをお詫びする投稿をすることで、ネット上のクレームにも真摯に対応する企業という姿勢を明確に出すこともできます。

田端氏の誤解を生みかねない投稿に対して、迷惑であることを明確に伝え、田端氏の投稿姿勢を変化させることも可能だったかもしれません。

弁護士ドットコムの記事では、名誉毀損の可能性はないとしているものの、業務妨害の可能性については否定していません。

もし田端氏の投稿により、誤解によるクレームや問い合わせが増加し、スタッフがその対応に追われるようなことになっていたのであれば、明確に田端氏に業務妨害の可能性がある旨伝えることで、田端氏に早期に発言を撤回させることもできたかもしれません。

ひょっとしたら、田端氏やよりかね氏とツイッター上でやり取りした結果、意気投合して、田端大学のメンバーがお詫びに万座亭のマーケティングを手伝うというマンガのような展開も、ありえない話ではないわけです。

ネット炎上が起きると、ネットは怖いとネットから距離を取る企業が少なくありませんが、実はネットから距離を取ってしまうと、逆にネット炎上上等の人たちによるデマやガセネタが、真実のように出回るリスクが増えることになります。

実はネット炎上に対応するためには、自らもネット上の発信手段を持っておくことが重要なのです。

騒動をコロナ禍を乗り越えるための力にかえて

万座亭は、今回の騒動を受けて、事前に食事の量を顧客に丁寧に聞くことにするなり、食事の量を予約の際に分かりやすく可視化するという宣言をすることも可能でしょう。

そうした対応を通じて、騒動の犠牲者ではなく、騒動を次につなげた成功事例になることもできるはずです。

今回たった1人の宿泊客の投稿が、これだけ大きな騒動を巻き起こしてしまったように、逆に宿泊客が万座亭や万座温泉についてポジティブな投稿をしてくれれば、万座に観光客が戻るきっかけになることがありえます。

そうしたネットの新しい使い方を見つけられれば、万座の皆さんが現在のコロナ禍を乗り越えるための力にきっとなることもあり得ると思います。

万座亭や万座温泉の方々にとっては、今回の騒動は災難でしかなかったと思いますが、コロナ後に笑い話として振り返れるようになることを祈っております。

参考:料理 | 群馬・万座温泉 白鐵の湯 万座亭

※追記

 記事の締め方にご指摘をいただきましたので、修正しました。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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