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松屋カレー終売騒動で考える、炎上と話題化の境界線

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:松屋フーズ ウェブサイト)

先週水曜日に、松屋のオリジナルカレーが終売というニュースが、大きな注目を集めました。

参考:松屋、オリジナルカレー終売の真相は? 「創業カレーの定番化」でした。

実際には上の記事にあるように、蓋を開けたら「オリジナルカレー」は終売になる一方で、「創業ビーフカレー」が定番化されるという、カレーメニューの差し替えだったというオチだったのですが。

この発表に対して、一部で批判の声があがり、メディアが「賛否の声」や「炎上」というキーワードを入れたタイトルをつけた記事を公開する流れに展開しました。

まぁ、正直な話として「日本は平和だな」と思わせられる典型的なニュースではありますが、現在の企業の炎上騒動を考える上で今回の一件は非常に象徴的な面もある話題でしたので、少しポイントをまとめてみたいと思います。

まず、今回の騒動を時系列にまとめてみます。

■11月27日22:27  松屋の公式ツイッターアカウントから、オリジナルカレー終売が発表

このツイートは1万リツイートを突破

■11月27日22:39  松屋の公式ツイッターアカウントが、本当に終売です、とダメ押し投稿

このツイートも1万リツイートを突破

■11月27日~28日  深夜にもかかわらずメディアがオリジナルカレー終売を次々に記事化

例:この産経新聞の記事は11月28日0:39配信

参考:松屋、カレーやめるってよ 牛丼の松屋、公式ツイッターで告知(産経新聞)

 

■11月28日 6:56  ヤフートピックスが上記の産経の記事を紹介

参考:松屋 オリジナルカレー終売へ

 

■11月28日 朝  「#松屋カレーショック」がツイッターのトレンド入り

■11月28日10:00  松屋の公式ツイッターアカウントが、創業ビーフカレーの定番化を発表

■11月28日  ネタばらしを受けて、一連の流れを、さらに多くのメディアが記事化

 テレビのニュースでも取り上げられる

参考:松屋の「オリジナルカレー」終売で「創業ビーフカレー」定番化 煽るような終売ツイートには賛否の声

 

参考:松屋 ツイッターで発表、「オリジナルカレー」販売終了で波紋

 

■11月30日 zakzakが「大炎上」と題した記事を公開

参考:「松屋」カレーで大炎上! ツイッターでの「商品切り替え」告知が「廃止」連想させ…非難の声相次ぐ

 

前半の記事化に対して、後半の記事化は、ネガティブな取り上げ方が多いのがポイントです。

ある意味、ツイートにのせられたメディア側が、ネタばらしによって冷静になって賛否両論を並記するようになった面もあるように見えます。

■松屋カレー終売商法は、9年前のラ王と同じか?

今回のようなメニュー差し替えの際に、終了を大きくうたって商品リニューアルをしたケースとして有名なのは、日清食品の「ラ王」でしょう。

参考:「追湯商法にしてやられた」怒ったり、あきれたり 「ラ王」1か月足らずでリニューアル「復活」

 

これは2010年の事例ですが、日清食品が2010年8月末で同社のカップラーメン「ラ王」の生産を8月末で終了することを発表。

大々的に「ラ王追湯(ツイートウ)式典」なるキャンペーンも実施し、20万件以上のメッセージを集めて盛り上がった後に、1ヶ月も経たずにノンフライ麺で復活したため、賛否の声が上がる結果になったものです。

今回の松屋カレーの終売ツイートを見て、ラ王の時と同じ手法だなという批判の声もいくつか見ましたが、今回の松屋のカレー終売騒動は少し趣が違うように感じています。

■深夜のツイッター投稿が翌朝にニュースになる時代

今回の騒動でポイントになるのは、公式アカウントでの終売ツイートから、創業ビーフカレー定番化のツイートまで12時間足らずという点です。

しかも、終売ツイートを行ったのは夜の22時半近く。

普通の人の睡眠時間を考えると、話題にするための時間は数時間しかないことになります。

本気で話題にしたいのであれば、ネタばらしまで時間が短すぎると考える人の方が多いはずです。

zakzakの取材に対して、松屋フーズの広報担当者は「SNS担当者は、ここまで話題になるとは思っていなかった。」と回答していますが、おそらくこれは本当でしょう。

もし今回のオリジナルカレー終売を本気で大きな話題にしたかったのであれば、普通の企業担当者なら、せめて前日の15時とかにリリースをして、夕方までのメディアの記事化を狙うはずです。

公式アカウントの担当者が、最初の投稿に「夜分ですが皆様には早めに伝えたくて」と書き、その後のツイートには「#ホームページでは明日まで非公開事項」と書いているように、おそらくはツイッターフォロワーに対するサービスネタとして、オリジナルカレーの終売ネタを半日前倒しで投稿したものと思われます。

まさかその投稿が、その夜の数時間のうちにネットメディアだけでなく、産経新聞のような大手メディアにまで取り上げられ、10時のネタばらしの投稿の前に、ヤフートピックス入りしたり、ツイッタートレンド入りしたりすることまでは、想像してなかった可能性は高いでしょう。

そもそも、従来の常識で考えたら、夜の22時半に投稿した公式アカウントのネタが、早朝に新聞に取り上げられるなんてことはありえなかったわけです。

■メディアで話題になるという意味

逆に考えると、今回の騒動から私たちが学ぶべきは、ネット上の話題がメディアの記事化やテレビで報道されるまでのサイクルが恐ろしく短縮化しているという事実です。

ツイッターのオススメツイート機能により、話題のツイートがあっという間に数千リツイートされるのは珍しくない時代になりました。

ネットメディアも既存メディアも、注目されているツイートが、アクセスが稼げそうな話題であれば、休日でも深夜でもすぐに記事化する時代なのです。

さらに今回一部のメディアで見られたように、こういった賛否を呼ぶ話題の仕方は、メディアに「賛否の声」「波紋」「炎上」などとネガティブに取り上げられるリスクがあります。

実際に松屋の創業ビーフカレー定番化のツイートには、終売ツイートに対する批判の声も多数投稿されているものの、喜びの声も多数ありますし、そもそもコメント数は数百件であり、見た感じ「大炎上」というほどの状況にはなっていません。

ただ、通常のカレーメニュー差し替えで、批判の声が多数集まることがないことを考えると、メディアや記者の視点からすると「大炎上」と書かれてしまうことになるわけです。

当然、zakzakの記事のタイトルだけ読んだ読者は、松屋が大炎上していたという印象だけを受けてしまうわけで、企業イメージが悪くなったという人も少なからずいるでしょう。

本格的な炎上騒動の際には、こうしたメディアによる炎上報道の記事を読んで腹を立てたユーザーが、さらに重ねて批判の投稿を行うことで、本当の炎上サイクルが始まってしまうのです。

もちろん、今回の騒動に関しては、zakzak以外のメディアはあまり炎上としてはとりあげていませんし、これだけカレーメニューの変更が話題になったことを考えれば、炎上の被害は小さく、広告効果の方が大きかったと考えることもできます。

松屋のコミュニケーションが成功だったのか失敗だったのかは、本日10時から発売が開始される創業ビーフカレーの売れ行き次第とも言えるかもしれません。

特に食べものに関しては人によって好き嫌いがありますから、「美味しい」「美味しくない」「高い」「安い」など、何かしらと賛否が分かれるリスクがあるのは、実はコミュニケーションにおいては当然のリスク。

話題の商品を食べてみたけど人によっては美味しくないとか、話題の映画を見に行ったけど人によってはつまらなかったとか、話題になった商品ほど、賛否の声が分かれるというのは、実は良くある話です。

そういう意味で、企業の宣伝活動においては、全く批判をされないけれど全く誰にも知られないという結果になるよりは、多少の批判や賛否両論に分かれるリスクがあっても、知られるメリットの方が大きいと考える人がいるのも事実です。

■企業が賛否両論を巻き起こすことのリスク

丁度並行して議論を巻き起こしている厚労省の人生会議のポスターも、ある意味そういった文脈での企画だったのかもしれません。

参考:「人生会議」PRポスター騒動で、厚労省が気づかない本当の失敗

ただ、結局、人生会議のポスターが批判を集め、自治体への発送中止に追い込まれてしまったように、話題を呼ぶためにあえて賛否を呼ぶようなコミュニケーションの仕方には、一歩間違えるとあっという間に炎上状態になってしまうリスクもあります。

実は炎上と話題化の間には明確な境界線が存在するわけではないのです。

話題になればなるほど、批判の数も増えますし、話題になったことでターゲット外の人に知られて思わぬ角度で批判されるリスクも増えます。

会社の看板でツイッターなどのSNSを運用する公式アカウントでは、ユーザーとフラットなコミュニケーションが求められる一方で、企業を代表しているアカウントの発言として、常に炎上のリスクをはらんでいるという面もあります。

今後は、身内であれば許してもらえる冗談でも、外部の目から見たときに不謹慎と思われないかどうかを見極める目が大事になってきそうです。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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