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嵐のSNS本格解禁は、日本のネットの地位を根本的に変えるかもしれない

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:ARASHI ツイッター公式アカウント)

アイドルグループの嵐が11月3日にSNSの公式アカウントを一斉に公開、大きな注目を集めています。

参考:嵐 5つのSNS解禁 公式アカウントは「オフィシャルが全部…」

嵐については、10月9日にYouTubeのアカウントを開設し、11月1日の予告動画で、活動開始から20周年にあたる11月3日の11時にYouTube Liveを実施すると発表しており、今回の発表内容が注目されていたのですが、予想を上回る大発表だったと言えるでしょう。

■たった1日の間にさまざまな記録を更新

ジャニーズ事務所といえば、ながらくネットにアイドルの写真すら表示しないほど、インターネットと距離を取っていたことで有名な事務所。

その所属アイドルの中でも、最も人気のあるグループの1つである嵐がSNS全面解禁と言うことで、それぞれのSNSは公開当初から嵐ファンを中心に大きな盛り上がりを見せています。

11月3日に出てきた話題の数だけでも並べてみるとこんな感じ。

■11時半からYouTube生配信を実施して怒濤の発表を実施

・ツイッター、インスタグラム、Facebook、TikTok、Weiboの5つのSNSのアカウントを開始。

・全65のシングル曲を音楽配信開始(3日公開の新曲含む)。

・アジアツアーを含めたライブのスケジュールを発表。

・ライブツアーの12月25日の最終公演には、全国500館以上の映画館でのライブビューイング実施を発表。

■上記のYouTube生配信は同時視聴最大77万人で日本記録を更新

■16時 YouTubeチャンネル登録者数200万人突破、日本の最短記録を更新

■19時 インスタライブをゲリラ的に実施

 ファンがスクリーンショットを撮るためにポーズを取ったり、質問に直接答えるなど神対応。

 ゲリラ実施にもかかわらず20万人以上が視聴した模様。

■21時 YouTubeで新曲「Turning Up」のミュージックビデオを公開

 最大51万人が同時視聴。

 嵐のメンバーもチャット欄にコメントする神対応で話題に。

■記事執筆時点

ツイッター公式アカウントのフォロワー数は120万超。

 最初の投稿は17万リツイート。MVは110万再生。

インスタグラム公式アカウントのフォロワー数も120万超。 

 最初の投稿は60万いいね。MVは50万再生。

Facebook公式ページのファン数は10万超。

 最初の投稿は約5万いいね。6000を超えるシェア。

TikTok公式アカウントのフォロワー数は43万超え。

 最初の投稿は20万いいね。

Weibo公式アカウントのファン数は14万超。

 最初の投稿は10万いいね。4万シェア。

LINE MUSIC TOP 100のリアルタイムの65位までが嵐に独占される。

 

まぁ、凄いです。

ジャニーズ所属の有名アイドルのSNS登場と言えば、2年前にSMAPから独立して話題を集めた稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんの3人による「72時間ホンネテレビ」が記憶に新しいところです。

参考:元SMAP72時間テレビで振り返る、SMAPファンの凄さ

この時は、香取さんのインスタグラムが3日で120万超え、三人のツイッターのフォロワー数が大体80万人前後だったようですので、今回の嵐のSNS解禁がそれを超えるインパクトだったことが分かると思います。

■従来ジャニーズはネットと距離を取ってきた

もちろん、個人でアカウントを開設して運用している元SMAPの3人と、あくまでARASHIの公式アカウントとしてSNSアカウントを運用している嵐では、アカウントの位置づけも今後投稿される内容も大きく変わることが想像されます。

ただ、これまで全くSNS上には非公式でも写真すら公開されなかったジャニーズのアイドルが、公式でSNSを運用してファンと直接交流するというのは非常に大きな変化といえます。

冒頭にも書きましたが、ジャニーズ事務所といえば、日本を代表する芸能プロダクションでもあり、日本の男性アイドルグループをリードしてきた存在でもあり、インターネットに対して最も厳しい姿勢を見せる芸能プロダクションとしても有名でした。

特に厳しいのがタレントの肖像権に対する姿勢。

複写等の悪用を防止するために、インターネット上に所属タレントの顔写真や動画を使用することを徹底的に制限。

一般人がジャニーズの所属タレントの画像をネットにアップするのがNGなのは当然のこと、記者発表会などでのメディアが撮影した写真ですらジャニーズのタレントは写真がアップされないのが普通。メディア向けのフォトセッションは、ジャニーズタレントがいるパターンといないパターンを分けていたという話もありますし、過去には何度かその不自然な写真の加工が話題になったことがあります。

また、ドラマなどの出演者情報においても、ジャニーズのタレントは写真ではなくイラストで表現されていたり、昔はテレビCM等でタレントと契約した広告主ですら、ウェブサイトにタレントの画像を転載することが禁止されていたと聞いています。

参考:ジャニーズはなぜインターネットをガン無視するのか?

■ジャニーズのネット解禁のシンボル的事例に

それがここ数年、徐々にインターネット上の肖像権の扱いについて緩和がされ始め、今年の1月にはジャニーズから写真のネット一部解禁が発表になりメディア関係者の間で話題になっていました。

参考:ジャニーズ写真、ウェブ一部解禁 “第1号”錦戸亮は映画会見出席

今回の嵐のSNS解禁は、そうしたジャニーズ事務所による一連のネット対応の大きな一歩と言えるでしょう。

そもそも、今までであれば、私の記事の中にこうやって、嵐の写真や動画が挿入されることなどありえなかったわけです。

もちろん、嵐については2020年末をもって活動休止をすることが発表されており、今回の大転換は、あくまで活動休止をなげくファンのためのファンサービスとしてのSNS解禁と見ることもできますので、同様のSNS解禁がジャニーズの他のタレントにも適用されるのかは現時点では分かりません。

ただ、今回の嵐のSNS解禁が、これまでの芸能界とインターネットの関係の大きな分岐点になることは間違いないように思います。

■日本におけるインターネットの扱いが変わるかも

これまでの日本において、既存のマスメディアで事業を行ってきた方々からは、インターネットという場所やネット企業は、主に既存メディアの秩序を壊したり市場を奪いに来る存在として、受け止められがちでした。

特に、一時期ライブドアや楽天などのネット企業が、敵対的買収を既存メディアグループに仕掛けたことは、既存メディア企業の方々に大きなネガティブな印象を与えてしまったそうで、既存メディア企業の年配の方の中では「メディアとネットは融合しない」とネットを敵対視する方が、つい数年前まで少なくなかったと聞きます。

ジャニーズや吉本興業のような大手芸能事務所にとっても、当然テレビなどの既存マスメディアの事業が本丸であり、インターネットは新しい市場と捉えつつも、あくまでおまけであったり、肖像権侵害をしてくる敵であったり、マスメディアよりも儲からない安いメディア市場として、長い間ネットの市場としての地位は低く受け止められていたと言えます。

直近では、吉本興業と京都市が実施した宣伝企画が、ネット業界ではステマと認定される基準で実施されているにもかかわらず、吉本興業側が自社の基準ではステマではないと反論して注目されていますが、こうした認識の違いも、既存の芸能界からはネット業界の基準が軽く見られている象徴と言えるかもしれません。

参考:ミキ「京都市盛り上げ隊」問題から読み解く、ステマに手を染める企業とインフルエンサーの本音

ただ、今回の嵐のメンバーの神対応にも見られるように、実は1人1人のタレントにとってのインターネットは、ファンと直接コミュニケーションを取ることができる新しい可能性に満ちた場所でもあります。

こうした神対応は、従来のアイドルやスポーツ選手の常識では、ありえない対応だったかもしれませんが、今回の嵐のメンバーや最近のダルビッシュ投手のツイッター対応のように、有名人側がその気になれば気軽に実施できる行為でもあるわけです。

参考:ダルビッシュ投手の神対応に学ぶ、有名人とファンの新しい関係の形

特に今回の嵐のSNS展開で印象的なのは、ツイッターの投稿が日英併記になっていたり、中国向けにWeiboも展開したりと、確実にグローバル市場を意識したものになっている点です。

これまで、ジャニーズがネットやSNSを解禁していないことが、世界を席巻するK-POPに対して日本のアーティストの存在感がうすい要因の1つになっているのではないかという議論がありましたが、今回の嵐のSNS解禁が世界でどう受け止められるかも注目したいところ。

もし、今回の嵐のSNS解禁が、ジャニーズ事務所のビジネスに対しても良い影響をおよぼすという結論が出れば、日本最大規模の熱いファンを抱え、素晴らしいコンテンツを多数保有しているジャニーズ事務所が、インターネットに本格的に取り組む展開になる可能性は高いと言えるでしょう。

本来、タレントや有名人にとって、インターネットがファンと直接つながれる場所と考えたら、ネットを敵と考えたり、他のメディアよりも低い地位と考えるというのも、おかしな話。

それにより、ジャニーズ事務所におけるインターネットの位置づけが変われば、日本におけるインターネットの位置づけが大きく変わるはず、と考えてしまうのは大袈裟でしょうか?

いずれにしても、吉本興業がステマ騒動に揺れる中、ジャニーズ事務所の嵐が、SNS活用を理想的な形でスタートさせたというのは、日本の芸能界によるインターネットの取り組みを考える上で、非常に象徴的な出来事と言えるかもしれません。

インターネットならではの素晴らしいタレントとファンのコミュニケーションの成功事例を、今後も嵐のメンバーが生み出してくれることに期待したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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