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川淵会長に気づいて欲しい、スポーツにおけるツイッター活用のあるべき姿

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
スポーツ選手によるSNS活用には、選手と喜びを共有できる新しい可能性があるはず。(写真:ロイター/アフロ)

 日本がコロンビア相手に2対1で勝利を収めるという、歴史的な出来事の興奮が冷めやらない今日この頃。

 4年前の試合が苦い思い出として鮮明に脳裏に焼き付いている方ほど、昨日の試合の勝利がまだ現実として受け止められていない方も少なくないのではないでしょうか。

 個人的にも、昨日は本当にほぼ完璧な一日として記憶に残っているのですが、どうしても一つだけスルーできないネガティブな出来事があったので、まとめておきたいと思います。

 それは日本トップリーグ連携機構の川淵会長のこのツイートです。

 

 世紀の一戦を控えた朝7時59分に投稿されたこのツイートは、瞬く間に多くの人の批判を集めることになり、様々なネットメディアで炎上事例として記事化される流れに至りました。

参考:W杯初戦目前、川淵元会長のツイートが炎上

 

 

 正直、なぜこのタイミングでこんな発言をするのか、意味が良く分かりませんし、一部の方々の中ではこのアカウントがそもそも偽物なのではないかと疑う声や、アカウント乗っ取りかと思ったという声もあったほどでした。

 ただ、これだけ一部ネットメディアで取り上げられていても、発言が削除されたり訂正される気配はありませんし、そもそもこのアカウントは日本トップリーグ連携機構の公式アカウントから3月に紹介されている背景もありますから、御本人による本音の投稿という可能性が高そうです。

(出典:日本トップリーグ連携機構)
(出典:日本トップリーグ連携機構)

 実際に川淵会長が、なぜこの投稿をあえて決戦当日の朝に投稿したのかは想像の域を出ませんが、おそらくは川淵会長なりの西野監督へのエールということなのでしょう。

 

 川淵会長が自分で全ての投稿をされているのかどうか分かりませんが、3月にツイッターアカウントが開設されたばかりの頃に「自分のスマホでツイート第一声!」や「今迄は首都大か協会に出勤した時しかツイート出来なかったけど、今度はスマホから直接出来るよう手続きしてもらったのでなんか気楽!」と投稿していることを踏まえると、今回の投稿も、ご自身でスマホを操作して投稿している可能性はかなり高そうです。

 

 初投稿後からの一連の投稿をおってみると、徐々に川淵会長らしい歯に衣着せないコメントが増えており、そのコメントがメディアに頻繁に取り上げられたり、プチ炎上したり、批判コメントが集まったりという歴史を経ながら、今回の炎上発言に到達しているように見えます。

参考:川淵三郎氏、日大選手の会見なければ「指導者はそのまま…ゾッとする」

 ある意味、日本企業の多くの経営者がツイッターどころかFacebookやLINEも使っていないケースがまだまだ多いことを考えれば、川淵会長の年齢で自らツイッターに挑戦するという姿勢は素晴らしいと思いますし、本来は個人としてのアカウントでの発言であれば批判されるコメントをするのも川淵会長の自由なので、部外者で1ブロガーの私ごときが記事で批判する話ではないのですが。

 やはりどうしても気になってしまうのは、川淵会長のツイッターの使い方の方向性が、いわゆるダークサイドの方に振れつつあるのではないかという点。

■ツイッター初心者がはまりやすいリアクション数の罠

 ツイッターをはじめたばかりの人であれば誰でも経験したことがあると思いますが、多くの人が初期にはまるのがリアクション数の罠です。

 最初の頃は一つコメントがついたり、一ついいねをもらったりするだけでも十分楽しかったはずが、一度たくさんリツイートやいいねをもらう経験をすると、次から同じような反応を求めてしまう傾向になりがちです。

 ツイッター上では、歯に衣着せぬ断言型の発言が、賛否を集めて反応が多くなりがちなのもあり、注目を浴びつづけるためにはどうしても過激な発言に寄り気味になるわけです。

 当然、通常の会社員や組織人は、実名での過激な発言にはリスクの方が大きいですから、どこかで歯止めがかかります。

 そうなると、実名で過激な本音トークが展開できるのは、フリーランスかオーナー社長のような自分で組織を代表した発言ができる一部のトップの人間だけ、という結果になるわけです。

 多くのツイッター有名人が、短文での断定言い切り型の投稿を多数投稿する傾向にあるのは良く言われる話ですし、ある意味トランプ大統領は、そのシンボル的な存在と言うことができるかもしれません。

 ただ、スポーツの、特に日本のスポーツ界においてスポーツ選手が期待される人物像と、このツイッター論客的立ち位置は非常に相性が悪いのが実際です。

■スポーツ選手による過激発言はリスクが高すぎる

 ファンやサポーターがスポーツ選手に期待するのは、スポーツマンシップにのっとり正々堂々と試合で勝負する姿であり、ツイッター上で毒を吐くことではありません。

 そのため、例えば長友選手は「年齢で物事判断する人はサッカー知らない人。」と投稿しただけで、多くの賛否コメントが集まって、ネットメディアに炎上とまとめられてしまう結果になっています。

参考:長友佑都のTwitterが大炎上! 炎上のきっかけとなったツイートとは!?

 この程度の発言でも批判が集まるわけですから、今回の川淵会長のスポーツ関係者を名指しで批判するような投稿に批判が集まるのは当然です。

 もちろん、川淵会長はスポーツ選手ではなく、いまはどちらかというとビジネス側や政治側の人なのかもしれませんが、日本トップリーグ連携機構という、Jリーグ、Bリーグを初めとした9競技12のトップリーグの競技力の向上と運営の活性化を目指した活動を行う組織の会長をされているわけで、ある意味日本のスポーツマンの頂点に立っており、その背中でスポーツマンとしての姿勢のお手本を見せなければいけない方だと思います。

 その立場の方が、一般のツイッターユーザー同様に、感情の赴くままにツイッターで他のスポーツ関係者を批判するのはやはり避けるべき行為なのではないかと感じます。

 前述の長友選手の炎上に限らず、スポーツ選手による不適切な発言は炎上に繋がりやすいのは明らかですし、過去にはオリンピック選手がSNSで不適切な投稿を行って代表選手の地位を剥奪された事例もあります。

参考:ギリシャ代表アスリート、人種差別的ツイートにより代表チームから排除

 川淵会長の投稿を見て、こういう投稿もして良いんだと思った若い選手が、その不用意な投稿によって選手生命をふいにするようなことになるのは、川淵会長自身も本意ではないはずですし、ファンやサポーターが川淵会長の投稿を真似して「勝てる可能性がない」と平気で批判するのが当然になる未来は望まれていないはずです。

 ましてやスポーツの未来を支える子どもたちが、スポーツ観戦中に選手に誹謗中傷の言葉をなげかけてしまって、警察沙汰になるような未来は全力で防ぐ必要があるはずです。

参考:平昌オリンピックの炎上騒動から、東京五輪を迎える私たちが学ぶべきこと

■スポーツ選手だからこそできるSNS活用を

 今回の騒動は、個人的には、まだボヤ程度の小さな炎上騒動だと思っていますが、ここから川淵会長のツイッター運営が、トランプ大統領的何でもありのダークサイド側に加速して進んでしまうのか、今回の炎上騒動をきっかけに日本のスポーツマンとしてのSNS投稿のあるべき事例の一つに舵を切り替えられるのか、非常に重要な分岐点になるのではないかと思います。

 スポーツ選手のSNS活用というのは、我々ファンやサポーターにとっては、テレビの向こうやスタジアムの遠くに見える遠い存在の選手と直接つながることを感じることができる素晴らしい可能性を秘めた新しいツールだと思っています。

 

 代表選手の歓喜の投稿に、いいねをしたりコメントをすることで、より選手の喜びを我がことのように感じることができるサポーターが世界中にたくさんいるはずです。

 試合が終わって一日経った今この瞬間も、私たちは選手のSNS投稿の一つ一つに改めて歓喜の瞬間を思い起こすことができますし、選手しか表現できない喜びのお裾分けを感じることができます。

 これこそが、スポーツにおけるSNS活用のあるべき一つの姿だと思うわけです。

 もちろん、誰でも情報発信できることもSNS活用の魅力の一つであり。

 本音を歯に衣着せずに好き勝手言えるのもネットらしい特徴とは言えます。

 この記事自体も、そんなネット的なカオスの現象の一つですし、この声が御本人に届くとは正直思っていませんが。

 やはり、私たちはスポーツ選手やスポーツ関係者の方々には、スポーツならではのスポーツ業界らしいスポーツマンシップにのっとったSNSの使い方を期待してしまうわけで。

 是非、川淵会長やスポーツ関係者の皆さまにおかれましては、このスポーツにとっての新しい可能性を秘めたツールで、ダークサイド的な方向の安易な使い方に走るのではなく、スポーツマンシップにのっとった形での新しい可能性を模索して頂きたいと、心の底から願う次第です。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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