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平昌オリンピックの炎上騒動から、東京五輪を迎える私たちが学ぶべきこと

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
炎上したカナダ選手の涙の授賞式は大きな物議を呼びました。(写真:ロイター/アフロ)

日本選手の活躍により、日本でもおおいに盛り上がった平昌オリンピック。

今日からはパラリンピックも開幕しますが、ちょっとここで今回のオリンピックでとても気になったネット炎上騒動について振り返っておきたいと思います。

各種報道によると、今回の平昌オリンピックでは、様々な炎上騒動が話題になっていたようですが、やはり最も注目されたのはショートトラック女子500メートル決勝で銅メダルを獲得したカナダのキム・ブタン選手の炎上騒動でしょう。

ブタン選手と韓国の選手が決勝のレースで激しく接触し、その結果2位でゴールした韓国の選手が失格となったことで、韓国の一部ネットユーザーが猛反発。

ブタン選手はインスタグラムのアカウントを持っていたのですが、そこに1時間で1万件のコメントが殺到したそうで、ブタン選手は一時的にアカウントを非公開にせざるを得ない状況に追い込まれました。

(出典:ブタン選手のインスタグラム)
(出典:ブタン選手のインスタグラム)

これに動揺したのか、記事冒頭の写真のようにブタン選手がメダル授与式で涙を流したこともあり、この問題が世界中のメディアに注目される結果に。

カナダ側が代表選手の安全確保に動いたり、国際オリンピック委員会が選手に敬意を払うようにコメントをするという異例な事態になったようです。

参考:中傷投稿1万件、殺害予告も…カナダ選手SNS炎上問題 IOCが異例の呼び掛け

 

批判コメントの中には殺害予告に近いものまであったようで、オリンピック後には、韓国の警察が悪質な書き込みをしたユーザーの捜査を行っているという報道もなされています。

参考:カナダ選手を泣かせた韓国ネットユーザーのSNS攻撃、警察が処罰へ

幸い、ブタン選手は大会中に無事に持ち直し、見事に3つのメダルを獲得されたようですが、ある意味競技の結果にも影響を与えかねなかった非常に深刻な騒動といえます。

■こうした炎上騒動は日本にとっても他人事では無い

韓国では過去のオリンピックの際にも類似の騒動があるようですので、韓国の特殊な事例と考えるのは簡単ですが、実は2020年に東京五輪を開催する日本にとっては全く他人事では無い問題と言えます。

実際、日本のスポーツ界においても、例えば2015年にJリーグの外国人選手のツイッターに対して人種差別の投稿が行われ、大きな問題になった例があります。

この投稿をしたのは実は高校生で、自宅でテレビ観戦中に勢いで投稿してしまったそうです。

その後、学校側に本人が申告して学校側が謝罪声明を出し、選手側も謝罪を受け入れたことで騒動は収束をしましたが、騒動を起こしてしまった高校生が想像を絶する後悔に襲われたことは想像に難くありません。

参考:人種差別投稿の高校生が謝罪…パトリックも理解、クラブ処分はなし

この話を聞いて皆さんは、愚かな高校生だなと笑えるでしょうか?

自分でも似たようなことをしてしまう可能性があると感じるでしょうか?

通常、テレビで試合を観戦していて、相手選手を口汚く罵ってしまうことというのは、実は良くある話だと思います。

私自身も、サッカー日本代表の試合をツイッター観戦している際に、相手国の選手につい失礼な発言を投稿してしまうことはありますし、スタジアムで観戦しているときに、大声で相手チームを罵ってしまうことも良くあります。

まして高校生であれば、つい感情にまかせて差別発言をするということは、実は驚く話ではないはずです。

■オリンピックにおいては不用意な発言が大きな炎上に

ただ、問題は、その投稿を今回のように、相手選手のSNSに投稿すると、大きな社会問題になりえる時代であるということ。

同様のことがオリンピックの際に発生すれば、今回の平昌オリンピックの騒動と同様に、世界中のメディアで話題になってしまう可能性があるわけです。

世界中の国の選手が一カ所に集まって競技を行うオリンピックでは、どうしても国同士の価値観のギャップでトラブルが発生しやすくなります。

そういう意味で、オリンピックにおける差別発言が炎上するという事例は別に珍しい現象ではありません。

2012年のロンドン五輪では、ギリシャ代表アスリートが冗談で「ギリシァに多くのアフリカ人がやってくるから、西ナイル熱ウィルスを運ぶ蚊たちも、ふるさとの料理を楽しめるわけね」と投稿したツイートが、人種差別的であると非難され、代表チームから排除されると言う騒動がありました。

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参考:ギリシャ代表アスリート、人種差別的ツイートにより代表チームから排除

リオ五輪でも、体操の日本選手を「まるでアニメを見ているみたい。そこら中に小さなピカチュウがいるようだ」と表現した解説者が批判を集め、テレビ局側が遺憾の意を表明することになっています。

参考:体操日本は「小さなピカチュウ」 フランス元代表が発言、差別的とTVに批判

おそらく似たような表現や発言は、それぞれの国の中での、その国の中の人とだけの会話であれば、実は良くある話であることも多いでしょうし、仲間内であれば冗談として許容される話である場合が多く、それほど問題になることもないことが多いかもしれません。

しかし、オリンピックという世界中のメディアが注目しているタイミングでは、こうして歴史に残る大きなニュースになってしまうわけです。

■日本においても増える、国境をまたいだ炎上

最近は日本でも、昨年末にダウンタウンの大晦日特番で、黒塗りのコスプレが問題では無いかと騒動になったり、直近ではチンギスハン肖像画の落書きに批判が集まりコロコロコミックが発売中止になるという騒動がありました。

参考:“ガキ使”問題、「時代だから…」の配慮要請に視聴者は辟易?

参考:小学館、外務省のやらかしで「チンギスハン肖像画に落書きのコロコロコミック発売中止」の不幸なやばみ

これらの騒動における表現は、多くの日本人からすると、差別かどうかと言う議論と、表現の自由の議論が混じってしまうレベルの表現ですが、海外の見る人が見れば許せない表現でもある、ということが明確になってしまった時代です。

既に、オリンピックのタイミングでなくても、こうした表現が問題になる時代になっているわけです。

今のところはこういった騒動はテレビ局や出版社という大手企業による表現が起点となっていますが、オリンピックのようなタイミングでは今回のブタン選手への殺害予告や、Jリーグにおける高校生の差別発言のように、一般人の発言が問題視されやすくなりますし、その結果警察の捜査対象になってしまうことも十分ありえるわけです。

実際に、熊本地震の際には、20歳の男性が「熊本の動物園からライオンが逃げた」とデマを投稿し、逮捕される結果になりました。

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参考:「ライオン逃げた」熊本地震のデマ情報を拡散した疑い 20歳男を逮捕

本人は冗談でやっていたのかもしれませんが、1つの冗談の投稿によって、その人の人生が狂ってしまう可能性も十分あるわけです。

2020年の東京五輪に向けて、自分達や自分の子ども達が同じようにトラブルの加害者になってしまわないように、今から国や教育機関が啓発活動を行うことは非常に重要だと感じています。

■単純なSNS禁止は解決策にならない

ちなみに、こういうことを書くと、多くの先生やお子さんをお持ちの方々は「では子どものツイッターを禁止にしよう」とか「子ども達からスマホを取り上げよう」とか思ってしまうかもしれませんが、実はその発想も危険です。

結局、前述の高校生による差別発言のようなことが起こってしまうのは、子ども達が間違った認識でネットやSNSを使ってしまっているからです。

「ネットは匿名だからばれない」とか「匿名なら何を言っても大丈夫」という勘違いこそが、ツイッターでわざわざ相手選手に直接差別発言を投げかけたり、被災地が困惑することがわかりきっているデマを投稿するような愚行につながってしまっているのです。

参考:ネットに匿名で虚偽や暴言を投稿する行為には、実はリスクしかないことを知ってますか?

本来、子ども達に理解させなければいけないのは、ネットやSNSであっても、対面の人間関係と同じように、相手に失礼なことを言ったり、相手を傷つけるような言動をしてはいけないという、当たり前のコミュニケーションの基本です。

そこを理解させずに、短期的にネットやSNSを禁止したところで、結局隠れて使ってトラブルになってしまったり、大人になってから誤解したままSNSを使ってしまい、熊本地震でデマ投稿をした会社員のように取り返しのつかない事態になってしまうリスクが高まるわけです。

そういう意味では、個人的に気になっているのは、昔バンダイナムコさんが運営していたサークルリンクのような、子ども達が子どものうちにSNSのあるべき使い方を学べるサービスをどこかが作ってくれないものか、という話なのですが。

無駄に長くなってしまいましたので、今日のところはこの辺で。

是非、日本の教育関係者の方々には、2020年の東京オリンピックに向けて、単純に生徒のSNSやスマホの利用を禁止して、見て見ぬ振りをするのではなく、生徒達の将来を一発で狂わしてしまいかねない、ネット活用の匿名性に対する誤解を解く教育もして頂きたいなと強く祈っております。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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