Yahoo!ニュース

「幸せな孤独力」を高め、楽しむために。50&60代こそ海外ひとり旅へ!

寺田直子トラベルジャーナリスト 寺田直子
(写真:アフロ)

多忙な上場企業社長や放送作家が旅に出る理由

昨年、暮れも押しせまった12月29日。西日本新聞に「エイチ・アイ・エス社長 来年3月から長期の一人旅へ 上場企業トップ 極めて異例」という記事が掲載された。

旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)会長兼社長で、長崎のハウステンボス社長も務める澤田秀雄氏(66)が今年3月から3ヶ月~半年間の予定で世界旅行に出るという内容だ。視察目的だが秘書などは同行せずひとり旅だという。もともと学生時代、バックパッカーとして世界放浪をしていた澤田氏。西日本新聞の取材に対し「最近は自分の発想が豊かでなくなった。世界の変化から刺激を受けたい」と説明している。

また、放送作家・脚本家で「くまモン」の生みの親でもある小山薫堂氏(53)は50歳を契機に1ヶ月の長期休暇を取り海外旅行に出ている。

「旅は人生を豊かにする「種まき」。小山薫堂が1か月旅に出た理由」

記事の中で小山氏は「旅には、予期せぬ誰かとの出会いや体験がある。その経験の種は、すぐには芽を出さないかもしれないけど、どこか記憶の深い部分に残り、今後の人生のなかできっと発芽するんじゃないか。そのための種まきを、この時期にしておきたかったんです。」と語っている。前述の澤田氏の「世界の変化から刺激を受けたい」というコメントと重なるものを感じる。50代、60代という年齢だからこそあえて敢行するひとり旅であり、海外旅行というわけだ。

南米ペルーの世界遺産マチュピチュ(筆者撮影)
南米ペルーの世界遺産マチュピチュ(筆者撮影)

55歳で1ヶ月、南米ひとり旅

かくいう筆者も昨年12月に1ヶ月の南米ひとり旅をしてきたばかりだ。理由はいくつかある。まず、体力があるうちに行きたい場所へ行っておきたいということ。ここ数年、同年代が鬼籍に入ることも少なくない。「元気で生きているうちに」という思いが強くなってきていた。

もうひとつは海外で遭遇する経験があらたな示唆を自分に与えてくれるだろうということ。55歳といえば会社員なら定年後をそろそろ考える年齢だ。筆者はフリーランスなので定年はないが、逆に考えれば自分で辞め時を決めないといけない。さまざまな環境で暮らす異国の人たち、平和や安全、社会状況など。非日常の海外経験は人生や家族、仕事や健康など多くのことを考えるきっかけを与えてくれる。50代になり経済的にも仕事のスケジュール的にもやりくりできる余裕が多少は出てきた、というのも大きい。

そして旅を終えて実感しているのが、ひとり旅ならではの孤独と向き合うことが今後の自身の老後に役にたつのではないか、ということだ。

体力、思考、感動体験が心身に刺激を与える

ガイドにおまかせのツアーなら何も考えずに行動すればいいが、ひとり旅は要所要所で決断をせまられる。空港に着きホテルまで移動するのにタクシーにするか、バスにするか。どの現地ツアーを選ぶか。話題のレストランの予約はどうやって入れるか。楽しく観光をしているのだが、常に頭ではさまざまなことを考えている。南米はスペイン語主流なので片言のスペイン語や英語での会話も必須。場合によっては現場での交渉能力や決断力も求められる。また、旅の途中で出会った人たちとの会話、旅人への温かなもてなしなどの感動体験は海外旅行の大いなる醍醐味。心身を刺激し、活力を与えてくれる。

体力も確実につく。毎日、ホテルに戻ると歩き回った疲れと頭を使った疲れでかなりスタミナを消耗している。ただ、それは心地よい疲労感で、食事をし、ビールを飲んでシャワーを浴びベッドに入れば朝までグッスリ。東京にいるときよりもはるかに健康的な一日を過ごしていることに気づかされた。今回の南米旅行では裏テーマとしてダイエットも試みた。心肺機能を高める3000~4000m級のアンデス高地での滞在、観光による毎日の適度な運動。炭水化物をおさえ南米名物の赤身肉とスーパーフード中心の食事により体重はマイナス4キロ。日々、確実に体が軽くなることを体感した。

若い時期と違いムリをしないということも学んだ。疲れたら休む、荷物をガイドに持ってもらうなど。ときには自分を甘やかして上質なホテルに泊まったりと年齢にあった旅の選択が可能なのも若い時代にはできなかったことだ。自分の身体能力を見極めて行動することで事故も病気もなく無事、全行程を終えたことは大きな自信につながる。

「幸せな孤独力」が老後を変える

ひとり旅で最も重要なのが自分だけの時間とどう対峙するかということだろう。

移動中、食事、観光など当然だがひとりでの行動となる。この「孤独」な時間を楽しめるかどうかでひとり旅の質は大きく変わってくる。ひとりの自由さ、周辺環境とのコミットを楽しむ余裕ができること。筆者はこれを「幸せな孤独力」と呼んでいる。南米旅行中、この孤独力を高めることこそこれから自分が向き合う高齢化にとって最も大事なことではないのかと気づいた。独りでいることは恥ずかしいことではなくむしろ、自由を謳歌するものである。自分の弱さ(老い)を実感しつつ、そのなかでどう前向きに楽しむか。人生=旅 だとすればまさにひとり旅はそのシミュレーション。人生後半の胆力をつけるための有意義なレッスンだといえる。そういう意味で50代、60代という年齢でのひとり旅は意味があることだと思っている。

もちろん働き盛りであり、経済的にも海外旅行に出るなんてムリ、という人も多いだろう。いきなり長期旅行や秘境を目指す必要なはい。たとえば2泊3日で近隣アジアへ行くというのでもいい。連休など繁忙期をはずせばLCC(格安航空会社)利用なら片道数千円という料金で行くことも可能だ。最近は中東系エアラインがひんぱんにセールを行いヨーロッパ各都市へ5万円台という航空券も登場している。政府も奨励する有給休暇取得を実践する機会でもあるだろう。

老後をより自分らしく生きていくための「幸せな孤独力」。

筆者も当事者としてひとり旅を通してさらに養っていきたいと思っている。

トラベルジャーナリスト 寺田直子

観光は究極の六次産業であり、また災害・テロなどのリカバリーに欠かせない「平和産業」でもあります。トラベルジャーナリストとして旅歴35年。旅することの意義を柔らかく、ときにストレートに発信。アフターコロナ、インバウンド、民泊など日本を取り巻く観光産業も様変わりする中、最新のリゾート&ホテル情報から地方の観光活性化への気づき、人生を変えうる感動の旅など国内外の旅行事情を独自の視点で発信。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)、『フランスの美しい村を歩く』(東海教育研究所)など。

寺田直子の最近の記事