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大阪北部で震度6弱の地震:なぜ大阪で起きたのか? 内陸型地震の怖さ

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

 やはりそれは突然やってきた。神戸は幸いそれほど強い揺れではなかったが、周囲の人たちは口々に、「また思い出した、怖い!」と語る。23年の時を経ても、まだあの恐怖は消えないのだ。ストップした電車から降りて線路を歩く人たちもいた。とにかく被害が広がらないことを祈ったが、死亡者・負傷者が出たことをニュースで知り、暗澹たる気分になった。

 それでも力を振り絞って、ここで伝えておかねばならないことがある。もちろん日本列島はいつどこで地震が起きても不思議ではないのだが、近畿地方はその中でもトップクラスの地震危険地帯なのだ。今後30年間の発生確率が80%に引き上げられた南海トラフ地震だけではなく、この辺りは過去に何度も「内陸型」(直下型)地震が起きてきた。

海溝型巨大地震と内陸型地震:どちらもフィリピン海プレートが元凶

 南海トラフからフィリピン海プレートが沈み込むために、海溝(トラフ)近傍には歪みが蓄積する。これが一気に解放されることで南海トラフ海溝型巨大地震が起きる(図)。あの3・11東北地方太平洋沖地震と同じようなメカニズムだ。

 ところがこのフィリピン海プレートは、太平洋プレートと比べて少々「タチが悪い」。300万年前から、西南日本に対してやや斜行して運動するようになった(図の黒矢印)。そのために、紀伊半島から四国、九州へと続く大断層「中央構造線」が境となって、その南側の地帯は西向きに引きずられる(図の青矢印)。その結果、中央構造線の北側ではまるで地盤にシワが寄るように断層が発達することになるのだ。実は2016年の熊本地震もこのような断層が活動したことで起きた。

近畿地方の主な断層帯(赤線)、過去の震源(緑丸)と今回の震源(黄色星)。これらの内陸型地震も、南海トラフ地震と同様、フィリピン海プレートの沈み込みによって引き起こされる。(著者原図)
近畿地方の主な断層帯(赤線)、過去の震源(緑丸)と今回の震源(黄色星)。これらの内陸型地震も、南海トラフ地震と同様、フィリピン海プレートの沈み込みによって引き起こされる。(著者原図)

 近畿地方にも、このような断層がいたるところに走っている。おおよそ南北方向に走る断層は「逆断層」と呼ばれるもので、断層の片側が隆起もう一方が沈降する。実は大阪湾や播磨灘などの内海はこのような沈降域に、淡路島や上町台地、それに生駒山地などは隆起域に相当するのだ。だから、淡路島と本州の間の明石海峡では潮が川のように流れ、そのおかげで日本一の鯛が上がるし、鳴門海峡では渦潮が発生する(詳しくは、「和食はなぜ美味しい:日本列島の贈り物」)。でも今は、そんな呑気な話をしている場合ではない。

 これらの断層帯では、過去幾度となく大地震が発生してきた。このような地震は、海溝域より内陸側で起きるために「内陸型地震」、または人口稠密地域の地下で起きるために「直下型地震」と呼ばれる。地震の規模は海溝型に比べると小さいが、何せ震源が近いために揺れは強烈である。阪神淡路大震災の元凶となったのは、六甲・淡路島断層帯で起きたM7.3の横ずれ断層地震だった。

 今朝の大阪北部地震は、有馬・高槻断層帯の近傍で発生した。この断層帯では、例えば1596年に伏見城天守や東寺、天龍寺などを倒壊させた慶長伏見地震も起きたのだ。現時点の情報では、今回の地震は逆断層成分が大きいようだ。この断層帯では全般的に横ずれ成分が卓越するのだが、東端付近で、しかも逆断層帯である生駒断層帯の延長上にあたるために、このような破壊が起こった可能性がある。

「災害は忘れた頃にやってくる」

 この言葉は、明治時代の随筆家であり、超一流の地球科学者でもあった寺田寅彦が残したものだ。幾度も地震や津波の試練を受けても人々はすぐにこれを忘れてしまい、その結果また惨劇が起きる。このことを寅彦は嘆いた。しかし状況は改善されたとは言い難い。阪神淡路大震災、3・11、それに熊本地震、それに戦後最悪の火山災害となった御嶽山噴火。これらの「変動帯日本列島」からの試練を度々受けてきた日本人は、目の前の「オリンピック」や「万博」、そして時には「復興」という高揚感を感じることで、災いはさっさと諦めて忘れているのではなかろうか(「災害は運命だと諦める」ことをそろそろやめませんか?)。

 日本全国のほとんどの地域で、今後30年間に震度6弱以上の揺れが起きる確率は1%を超えている。そしてこの数字は、あの阪神淡路大震災や熊本地震の発生前日における値と同じなのだ。つまり、この世界一の地震大国では、明日大地震が起きても不思議ではない。

 今朝の地震の被害がこれ以上拡大しないことを祈りつつ、今一度「変動帯に暮らす覚悟」を持っていただきたい。「覚悟」は「諦念」ではない。現実をしっかり見つめて、それに対処する心構えである。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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