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草津白根山噴火1カ月: 水蒸気噴火とは何か? なぜ予測が難しいのか?

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
YouTube「LIVECAMERA」草津白根山ゴンドラ雲上カメラより

 火山活動は、地球内部(日本列島では概ね30〜200km)の岩石が融けてできた「マグマ」が、地表あるいは地表近くまで上がってくることで起きる。もちろんマグマは地下深くから一気に上昇するのではなく、深さ数kmあたりで一旦「マグマ溜り」を作り、発砲などで圧力が高まると再び上昇を始める。火山活動は地球が生きている証しであるし、他の太陽系惑星と比べて圧倒的に凸凹した表面、つまり高地(大陸)と低地(海底)を創り上げた原動力でもある。

 火山活動は、マグマそのものが噴出するかどうかによって、大きく3つのタイプ(水蒸気噴火、マグマ水蒸気噴火、マグマ噴火)がある(図)。

火山噴火の種類(著者作成)
火山噴火の種類(著者作成)

 水蒸気噴火は、マグマの熱で地下水などが沸騰することが原因だ。水が水蒸気化することで体積が1700倍にもなるために急激に圧力が高まり、周囲の岩石などを巻き込んで爆発、つまり噴火が起きる。この場合、噴出物は地盤を作っていた岩石や地層の破片であり、マグマそのものは含まれない。

 もっとマグマが上昇するとマグマと地下水が直接触れることがある。この場合は水蒸気噴火よりも爆発の規模が大きくなり、水に触れて破砕されたマグマが火山灰や火山弾などとなって噴出する。これをマグマ水蒸気噴火と呼ぶ。

 一方で、マグマ自身に含まれていた水や二酸化炭素などの揮発性成分は、マグマの上昇による減圧に伴ってガス化する。そうすると、ちょうどシャンパンの栓を抜くと中身があふれ出すように、マグマが一気に噴き上げることがある。これをマグマ噴火と呼ぶ。この噴火ではマグマの性質などによって、爆発的な場合や比較的穏やかに溶岩を流すものなど、様々な噴火の様式がある。

前兆を捉えにくい水蒸気噴火の危険性

2014年御嶽山噴火

 2014年9月27日11時52分、長野・岐阜県境の御嶽山で40万トンの噴出物を放出する水蒸気爆発が起こり、登山者など63名が犠牲となった。多くの犠牲者は、火山礫・火山岩塊(噴石)の直撃を受けたものと考えられる。この噴火で、山頂剣が峰の南西側約500m離れた斜面に北西-南東方向に火口列が形成された。

 御嶽火山は、以前は有史以来の活動が認められないことから「死火山」に分類されていたが、1979年に水蒸気爆発を起こした。これが契機となって、約1万年前以降に活動した火山を「活火山」と呼ぶこととなり、休火山や死火山という呼称は廃止された。その後も1991年、2007年に小規模な水蒸気噴火を繰り返した。

 14年の噴火時には噴火警戒レベルが1(活火山であることに留意)であったために、多くの登山者が訪れていた。その結果戦後最悪の火山災害を引き起こした。噴火予測が失敗した最大の原因は、水蒸気噴火がマグマによって間接的に地下水が熱せられて起きるというメカニズムにある。水蒸気発生の活性化やその移動に伴って特有の低周波微動が発生することもある。実際2007年の噴火では、微動が始まってから噴火まで約50日の猶予があった。しかし2014年は火山性微動が発生したのは噴火開始の直前だった。

2018年草津白根山噴火

 2018年1月23日10時02分頃に草津白根山、本白根山火口列北端の三日月火口で水蒸気噴火が起こり、3万トンの火山灰などを噴出した。そして火山礫あるいは火山岩塊の直撃により1名の犠牲者が出た。

 草津白根火山では、1万数千年前から最新期の火山活動が始まった。その中で最大規模の3000〜5000年前の活動は、今回の噴火と同様本白根山付近で起きたものだ。複数の火口からマグマを噴き上げて火砕丘と呼ばれる小火山体を形成したほか、その裾からは3枚の溶岩を東と南に流した。これらの総噴出量は約5億トンに及ぶ。

 その後火山活動は「湯釜」周辺に移動し、1882年以降だけでも19回の水蒸気噴火を繰り返している。このため、火山活動の監視も湯釜周辺に重点が置かれていた。2014年以降火山活動が活発な状態となったため、レベル2(火口周辺規制)に警戒レベルが引き上げられていたが、2017年に入って活動が低下傾向に転じたため、レベル1に引き下げられていた。

1888年磐梯山噴火と山体崩壊

 水蒸気噴火は、噴火そのものは比較的小規模な場合が多いが、大災害を引き起こす危険性もある。1888年、数日前から弱い地震が続いた磐梯山では、7月15日の午前7時頃に鳴動が始まり、7:30頃から強い地震が3回発生した。そして7:45頃大音響とともに水蒸気噴火が始まり、20回近くの噴火を繰り返した。その結果、小磐梯山の大半の山体が崩壊し、15km3に及ぶ「岩屑なだれ」が発生した。この岩屑なだれは山麓の5村11集落を覆い尽くし、また、河流を堰き止めて五色沼などの多くの湖沼を作った。この一連の火山活動による死者は500名近くに及んだ。

 水蒸気爆発は、降雨量が多く地下水が豊富に存在する日本では、いつどこの火山で起きても不思議ではない。しかも、現在の監視体制ではその前兆現象を完全に把握することは極めて困難である。私たち「火山大国の民」は、このことをしっかり認識して火山とつきあってゆかねばならない。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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