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立憲民主はなぜ負けたのか 敗れた候補者が強調したのは「野党共闘の方向性は間違っていない」

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:つのだよしお/アフロ)

立憲民主党の代表選は11月30日に行われる。その焦点は野党共闘をどうするか。要は共産党との関係だ。メディアは、野党共闘を支持しない人が多いと報じている。では、実際に選挙戦を戦って敗れた候補者の皮膚感覚はどうなのか。維新旋風が吹き荒れた関西の選挙区で戦った2人の女性候補は「野党共闘の方向性は間違っていない」と強調した。

兵庫7区から出た安田真理さん

「考えることはいっぱいある。複雑な心境・・・」

それが「第一声」だった。そして選挙戦を振り返った。

「今回は当選するつもりだった。選挙区での当選を目指していた」

こう続けた。

「自民党に対する不信感を口にする人は多かった。『許せない』という声を何度もきいた。『応援している』『(票を)入れたよ』と言う人から声を掛けられた」

多少サバサバした感じで安田真理さん(43)が選挙を振り返った。

安田さんは兵庫7区から出て敗れた。投開票日から1週間余り経った日に、彼女の事務所で会った。事務所はJR西ノ宮から過ごし歩いた雑居ビルの中にある。

安田さんは元フリーアナウンサー。出身は石川県金沢市。金沢大学を卒業してNHKや民放の報道番組でキャスターをし、その後、法政大学大学院で社会学を学んだ。ジャーナリスト仲間として私も知らない間柄ではない。私が取り組んでいるファクトチェックの議論に加わっていたこともある。

2019年の参議院選挙の時に立民党の候補として兵庫から出て落選。いわゆる「落下傘候補」だが、今回の選挙は、東京の家を引き払って「地元」に根を下ろして備えた。

兵庫7区の西宮・芦屋は大阪、神戸のベッドタウンだ。落下傘候補としてのハンディは有るだろうが、流動性の無い土地ではなく地元出身候補でないと勝てないという選挙区ではない。有権者数は44万人余。前回は自民党の山田賢司氏が9万5000票余を得て当選している。

この兵庫7区は自民党の候補と野党共闘の安田さん、そして日本維新の会(以後、維新)の候補が3つ巴の選挙戦を展開する選挙区として注目を浴びた。立憲も力を入れ、枝野代表、蓮舫代表代行、辻元清美副代表、泉健太政調会長ら有力議員が応援に入っている。

安田さんは、福祉の充実や格差の是正、ジェンダー平等を訴えた。外交安全保障では、国際協調に基づいた「専守防衛」の堅持、米軍基地の集中する沖縄の負担軽減などを訴えている。

その選挙結果を示そう。

安田さんは64,817票で敗れた。比例復活はできなかった。

「もうちょっと肉薄すると思っていた」

悔しさがこみあげてくるように言った。

ここで前回の2017年の総選挙の結果を見てみよう。勿論、安田さんは出ていない。

維新は「わかりやすい政党」

安田さんはこの年の共産党の得票を大きく上回る約6万5000を得ている。善戦したと言って良いだろう。しかし、安田さんの感触では「勝てる」し、もっと「肉薄」していた筈だ。気になるのは維新の三木氏の票が倍になっている点だ。なぜこういう結果になったのか?よく言われる、反自民票が維新にいったということなのか?

「それは有ると思う」

そして、選挙戦を通じての維新の印象を次の様に語った。

「維新は具体的で身近な政策と言葉でアピールするのがうまい。わかりやすい政党」

今回の選挙で11議席から41議席に大きく伸ばした維新。大阪で選挙区に立てた全ての候補者が当選し、兵庫県でも選挙区で1人通った。そして北海道をのぞく全国の比例区で当選者を出した。しかし、安田さんの「わかりやすい政党」とは良い評価という意味ではない。

「維新に票が行った理由はいろいろ。とくに、維新が掲げた『ベーシックインカムと教育無償化』は有権者に響いていたと思います」

しかし、と安田さんは言う。

「では、そのための財源は?維新はそうした話を正面からはしませんでした。できない筈です。そう簡単ではない」

「立憲は自分たちが何者かを見せられなかった」

そして、そこに逆に立憲の敗因が有ったと、安田さんは見ている。

「政権をとろうとすると、いい加減なことは言えない。真面目に、誠実に、となる。やれることしか言わない」

その結果、有権者に対して維新ほどアピールできなかったという。これは選挙戦を戦った人間にしか言えない実感だろう。こうも言った。

「立憲は自分たちが何者かを見せられなかった」

遠くを見るような表情だった。そして、言葉をつなぐ。私が質問する必要は無い。次から次に言葉が出てくる。まさに、冒頭語った「考えることはいっぱいある」ということなのだろう。

「メッセージ性が選挙で問われるのだとは思います。でも、世の中って、そんなにわかりやすいものじゃないですよね。それを誠実に語ろうとすると、わかりにくくなる。維新はわかりやすい。そこは維新の巧みさ」

それは同時に、立憲の下手さということでもある。わかりにくいことを真面目に説明しようとした。それが浸透するには19日公示の31日投開票という選挙戦では短かすぎた。

立憲は「政党があってないようなもの」

しかし、それだけではない。もう1つの敗因は更に深刻かもしれない。安田さんは、「足腰の弱さ」と言い切った。

「私自身が地域を十分に回れていないし、党本部からの新人候補に対するフォローも弱い。こちらにほぼ丸投げ状態でした。」

事務所は安田さんを個人的に支援する仲間で選挙戦を戦ったという。党本部からはさばき切れない大量のメールが届き、本部の近畿担当者は何回か様子を見に来たり電話がきたりしたが「それよりも現場に人がほしかった」と安田さんは言った。

「勿論、それら(本部からのメール)は参考にはなりますが、中には『今それを言われても』という感じのものも有りました」

それは、例えば新人候補のオンライン交流会の案内や選挙アドバイスといった内容だが、厳しい現場の状況がまったく理解されていないように感じたという。

「今それ言われても」とはどれくらい「今」なのか?

そう問うと、作業をしていたスタッフの女性が、「投開票日の数日前というのも有りましたよ」と、助け舟を出した。

その助け舟に勢いを得たからだろうか、安田さんの口から衝撃的な言葉が出た。

「政党があってないようなもの・・・」

立憲は野党第一党だ。選挙前の議席は109。野党共闘によって更に票の上乗せを目指していたのではなかったのか?否、目指していたことは間違いない。しかし、目指すには党としての機能が十分に働く状況ではなかったということだろう。

敗因をきいた上で、本題に入った。共産党の存在がクローズアップされた野党共闘はどうだったのか?それに反対した連合は実際にどう動いたのか?

先ず、連合について尋ねてみた。

「連合が力になったかと言われれば、なりました。公示日当日に約1000枚のポスターを一気に公営掲示板に貼らなければならないのですが、そのポスター貼りだったり、選挙ハガキを7000枚ほど集めてくださったり・・・」

あとできくと、ハガキのノルマは5万5000枚だった。そのうちの7000枚を多いと見るか少ないと見るか問うた。

「立憲の存在感が薄い中での選挙で、労働組合さんたちの力は大きい。頼りになる人たちがいる、というのは精神衛生上も良かった」

私の問いをそうかわした。

「野党共闘は意味があった」

「共産党に何かをお願いすることはなかった」と話した。では、野党共闘は意味なかったのか?それに対しては強い言葉で答えた。

「共産党が候補者を立てなかったというのは大きかった。共産党の持つ約2万の票があります」

共産党の2万票を得られたことは大きいということだ。2017年の選挙結果を見ればわかる。共産党の候補が3万6000余とっている。そのうちの2万が共産党の基礎票ということだ。つまり安田さんはその基礎票を得て、更に4万以上の票を獲得したということだ。

「野党共闘は意味が有った」

安田さんはそう言い切った。そして、それは単に「票だけじゃない」と加えた。

「本当の意味は、お互いに一致できるところで一緒に行動できた、ということ。意見交換し、他の野党も一緒にですが街宣活動に取り組みました。離れた票もあったでしょうが、それ以上に、日本の憲政がステップアップするための重要な結節点になったと感じます」

ただし、野党共闘を短期間で説明するのは困難だったとも感じていた。

「野党共闘によって何がなされるのか?それは、立憲主義や民主主義の回復、新自由主義の限界に向き合うこと、そうした社会を止める、そして若い人たちが希望を持てる社会を作り出す。そうしたことを焦らずに時間をかけて訴えていく必要が有る」

安田さんは、野党共闘は厳しくても進めるべきだと強調した。そして連合にも今の政治状況を寛大に受けとめてもらえたら、と願いを語った。

「勿論、連合との関係も重要です。立憲が労働者を守る立場の政党であることに変わりはありません。連合だけでなく、日本国民全員が、いま日本共産党への認識を見直していくべき時期にきていると思う」

大阪2区から出た尾辻かな子さん

「候補者調整、大事です。全てを見てはいないんですが、(野党共闘で)1本化していないところで勝ったところって有るんですかね?」

大阪2区から出て敗れた尾辻かな子(46)さんは、野党共闘についてそう語った。

尾辻さんは大阪出身。同志社大学商学部を出て大阪府議を経て参議院議員、そして衆議院議員・・・こう書くと順風満帆な政治家人生のように見えるが、実はそうではない。自らが性的マイノリティーであることを公表し、「誰も置き去りにしない社会へ」と訴えてきた。2019年には同性婚を可能にする民法一部改正案を提出。その議員活動は、挑戦に次ぐ挑戦だ。落選も経験している。社会福祉士、介護福祉士の資格は落選中に生きていくためにとった資格だ。

再選を目指す今回の選挙だった。

尾辻さんが出た大阪2区は、大阪市南部の住宅街からなる。世界陸上やJリーグの試合、人気アーチストのコンサートも開催される長居公園などがあるが、庶民的な地域と言って良いだろう。

先ず、今回の選挙結果を見ておこう。

日本維新の会(以後、維新)の新人が連続当選の自民党ベテラン議員を押さえて当選したことで注目された。維新は大阪の小選挙区19のうち、15で候補者を立てて全員が当選している。その一つが尾辻さんが敗れた大阪2区だ。

尾辻さんは自身のシンボルカラーであるピンクのコーディネートで取材に応じた。先ず、選挙区の話から入った。

「ここは都市型選挙です。加えて、選挙区内に公明党が強い地域を抱えています。自民党が強いというよりも自公の相乗効果で自民党が勝ってきたという感じです」

維新は首長をとることで「ブランド」を確立

今回は、維新は本気で勝ちにいったと尾辻さんは見ている。

「(当選した)守島正氏は維新のエースの1人ですから」

そして自民党のベテランを破る。

前回の2017年の選挙結果を見てみる。

本人も認める通り、尾辻さんは必ずしも選挙に強い候補ではない。前回は立憲の勢いで比例復活している。しかしコロナ対策で国会で尾身茂会長から言質を引き出すなどの活躍が全国ニュースで報じられている。4年間の実績は地域にも浸透している筈だと思っていた・・・実際には黒岩宇洋氏など、国会で頑張った議員が落選するケースが多かったのだが。

こうした中、尾辻さんは立憲、共産に加えて浮動票の獲得を目指した。連合の推薦候補として連合の支援は得た。しかし、連合に過去の勢いが無いのも事実だ。

公示前の予想はどうだったのか?

「自民、維新と私で、8万票で団子になって三つ巴になることを目指していた」

ところが結果は維新の圧勝。

「予想以上に維新が強かった」

尾辻さんは淡々と語った。淡々と語るしか・・・ないのかもしれない。それだけ大阪で維新は強かった。前回取材した安田さんは、維新と立憲の結果は選挙戦の進め方も表裏だったと語った。尾辻さんは違う観点から同じことを言った。

「私たちは政党よりも人の選挙です。例えば、個々の選挙活動で候補者はそれぞれの色で戦っています。私はピンク。安田さんは確か黄色だったと思います。立憲はブルーですが、みんなそれぞれのカラーで戦いました」

維新は違ったと言う。

「維新は人より政党です。維新というブランドで戦っていた。維新の黄緑で戦っていました」

維新はブランドを確立していた?

「それは首長をとっているからです。コロナ対策で大阪府知事の吉村さんは連日テレビに出るわけです」

吉村知事は維新の代表ではない。テレビにはあくまでも大阪府の知事として出ている。番組も、私が出ている情報報道番組も含めて、大阪府のかじ取り役として出ている。しかし、その人物が個々の維新の候補者の応援に登場する。それが維新のブランドを確立する。特に露出の多い大阪で維新が圧勝した要因の大きな部分を占めていると言っても良いだろう。

「与野党1対1の構図を作らないと勝てない」

そうした中で野党共闘は機能したのか、しなかったのか?

「参議院選挙(2019年)の1人区では野党共闘がうまくいったわけです」

そして、次の様に言った。

「今回の選挙でも接戦区が多かったのも事実です。比例票がのびなかった点は考えないといけませんが、選挙区では最後に競り負けたところが多かった。与野党1対1の構図を作らないと勝てないと思います」

そして冒頭の言葉だ。

「(野党共闘で)1本化していないところで勝ったところって有るんですかね?」

勿論、例外は有る。しかし調べたところ立憲と共産の双方が出て立憲が議席を得たのは2選挙区だけだった。そのうちの1つは東京3区の松原仁氏なので共産党がのれなかったのも無理ないといったところか。他の選挙区では軒並み負けている。いくつかの選挙区では立憲と共産の票を足すと当選した自民党候補者を上回っている。

尾辻さんの選挙での連合はどうだったのか?

「私は連合推薦ですし、選挙運動の母体となってくれたのは間違いない」

どうしても言葉が少なくなる。維新の強さを見せつけられたショックの大きさなのだろうか。

では、党本部からの指示はどうだったのか?安田さんは「(立憲は)政党があってないようなもの・・・」と話した。尾辻さんも状況は同じだったようだ。

「公示前に(選挙区の)情勢が届けられた程度でしたが、基本的にはそういうものだという認識でした」

それでは選挙で勝つのは難しいのではないかと問うてみた。

「4年前にできた政党ですから、自民党のような組織力はないんです」

枝野氏の辞任について問うと、言葉を選んだ。

「誰かが責任をとらねばならない・・・代表が責任をとるのは致し方ないという感じです」

立憲は負けた。しかし、野党共闘は負けたのか?

「実際には接戦に持ち込んで負けたケースも多い」・・・尾辻さんは何度かそれを口にした。そして少し強い口調で言った。

「選挙結果を冷静に分析する必要が有ります」

今後について問うた。野党共闘はどうあるべきか?

「野党共闘の在り方を考える必要は有るが、野党共闘でないと勝てないのは間違いない。それをどう進めるのかの具体的な議論が必要です。参議院選挙に向けて、地域によって状況が違う中で野党共闘をそれぞれの場所に合わせて、その在り方を工夫することが大事ではないか」

敢えて尋ねた。

「その野党共闘は共産党をふくむということか?」

「そのとおりです」

そう言って繰り返した。

「与野党1対1の構図を作らないと勝てません」

【お詫び】大阪2区から出ていた自民党の左藤候補の御名前を当初「佐藤」と表記しており修正しています。誠に失礼しました。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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