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世間で話題の「政治資金パーティー」って何で実態は? さほどにカネが必要な理由とは

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
こんな感じ(写真:アフロ)

 政治資金パーティーで派閥が裏金を作っただのキックバックしただのと政界は東京地検特捜部の動きを受けて大揺れ。国民の怒りも日に日に高まっています。

 ところでこの「政治資金パーティー」とは何で何のために開催するのでしょうか。今回はそうした「そもそも論」に加えてパーティーの風景も紹介します。

 パーティーといえばお誕生日などで庶民も開きます。結婚式や新年会も該当。幹事は「できるだけ華やかに。でも赤字だけは避けたい」でしょう。でも政治家の方は「できるだけ質素に。でも大いにもうけたい」。そんなパーティーに誰が行くかというと行くのですよ。その理由も合わせて考察します。

政治資金その1 「政党交付金」

 まずは大元の「政治資金」について。政党や政治家が「政治活動」するためのお金を指します。「選挙運動」は公職選挙法という法律で「政治活動」と区別しますが、広義の「政治活動」ではあるので本稿では含めて論じるのをご了承下さい。

 「政治資金」の代表格が「政党交付金」。国民1人あたり250円・年間総額約320億円の税金です。1994年の政党助成法成立で創設されました。受け取るのは「政党」となります。金額のごまかしは一切効きません

政治資金その2 「寄付」(政治献金)

 2つ目が「寄付」(政治献金)。その多くを占めるのが企業・団体献金。74年に発生した田中角栄元首相の「金脈問題」批判にあたって翌75年から「1企業1億5000万円まで」と初めて制限され、94年の「政党交付金」制度導入で禁止されるはずでした。

 しかし結局、禁止範囲は政治家個人に限られて「政党」をOKにしました。ここで発明されたのが「政党支部」。現在の衆議院小選挙区と参議院選挙区の支部長は同地区の候補者とほぼイコールだから実質個人献金です。

 とはいえ上限も1社1億円に下がるなど前よりも献金しにくくなったのも事実で、ここに登場するのが3つ目の「政治資金パーティー」(以下「パーティー」)です。

政治資金その3 「政治資金パーティー」

 パーティーは原則「政治団体」が催します。政党は政治団体に含まれる存在。言い換えると政党以外の政治団体でもいいわけです。後援会が代表的で、他にも所定の手続きを踏めば割と誰でも作れます。地方選挙で時々聞き慣れない「○○党」「○○を作る会」といった名称を見かけます。多くが政治団体のはずです。

 今回問題となった自民党の派閥もまた「その他の政治団体」の区分に入ります。例えば最大派閥の安倍派は清和政策研究会という名称の政治団体なのです。

直ちに金もうけと言いがたいというのがミソ

 「寄付」(政治献金)との最大の違いはバカみたいな話で恐縮ですが「パーティーを開催する」に尽きます。チケットを購入したお金はパーティーというイベントの対価であって寄付ではないと。

 主催した政治団体は購入金額の合計からイベントにかかった費用を引いた残りが集計です。赤字になる可能性もあるので直ちに金もうけと言いがたいというのがミソ。

 多くのパーティーは「励ます会」「出版記念会」「○○君を語る会」などの題名を用いるも名称は自由だし内容の規定もありません。普通のイベントとの違いといえばチケットに「この催物は、政治資金規正法第8条の2に規定する政治資金パーティーです。』と印刷されているぐらいです。

購入数を最大化し経費を最小化

 むろん政治資金パーティーの目的はお金集めに他ならないのでチケット購入数を最大化し経費を最小化しようとします。「チケット代」でなく「購入数」としたのは1枚20万円を超えたら政治資金収支報告書に載るから。1枚1万円~3万円ぐらいにしておいてたくさん販売するのです。いわば「多売」。

 でも「薄利」ではダメで経費は抑制。食事や飲み物を少なくしたりレベルを下げたりしてかなえます。「水と乾き物しかなかったぞ」「いや私の方は水しかなかった」などと複数参加者が後で悪口を言っているのを少々、政治に関わっていたり取材したりした者は聞いているはずです。

 購入者をはるかに下回るおもてなししか用意されていなかったら違法献金と同じではないかという理論も一応あり得ますが、ほとんどがビュッフェ方式だから「私の席がない」という現象自体が生じません。

来賓の大物との怒濤の握手&撮影会と化す

 でも何万も出して水と乾き物だけで納得するかという疑問もわきましょう。実は納得ずくでチケットを購入しているのが大半だから大丈夫なのです。最初から期待していません。

 購入者の動機を推測してみましょう。1つはお付き合い。親密な、ないしは懇意にしておきたい国会議員自身および周辺の政治団体が主催していたら買っておくかとなります。でないと陳情へ参じた際などに気まずいし。

 また1枚の値段は安いので数枚買っておくと後々何かとやりやすいというケースも多々。結果として売った枚数よりずっと少ない来場しかなく、それを見越した経費削減もできるというウィンウィンな関係が成立するのです。

 あるいは飲食物などどうでもよくて滅多に会えない大物議員と話せたり名刺を交換したりするのが主目的という場合もあります。だから開会とともにアッという間にテーブルの皿がきれいになって残り時間が議員や来賓の大物との怒濤の握手&撮影会と化すのも珍しくないのです。

「失言」もまたリップサービスの行き過ぎ

 主催側もこうした来場者のニーズはわかっていてなけなしのサービスも場面によって変わります。

 例えば「新人△△君を励ます会」だと△△君自身は議員でないから旨みはさほどありません。その時に威力を発揮するのが来賓です。しばしば大物議員の失言が地方発で報道されますが、その多くがこうした場面でのリップサービスが行き過ぎ(=暴走?)した結果。要するに支持者受けする話で盛り上げようとして羽目を外すのです。

過去には1つのパーティーで20億円集めた剛の者も

 とか何とか体裁を繕ってもパーティー=集金である実態に変わりはなく「さすがにヤバいぞ」というレベルは規制する方向で今日に至っています。

 75年の寄付「1企業1億5000万円まで」の規定ができた時点でパーティー収支の政治資金収支報告を義務づけていませんでした。ゆえに目をむくような「巨大パーティー」が現出。最初は懐寂しい若手の便法であったのを次第に大物が威力をみせつけるようになります。1つのパーティーで10億円、20億円集めた剛の者も登場し、批判にさらされて上限規定や報告義務が生まれたのです。

国会議員とは中小企業の経営者とほぼ同じ

 「選良」のはずが裏金まで作る我利我利亡者に落ちぶれるとはと呆れ返っている方も多いでしょう。議員側の声に出せない反論は「いや、それだけカネがかかるのだ」のはず。

 国会議員がその地位にいるために絶対必要なのは選挙での勝利。「サルは木から落ちてもサルだが、国会議員が選挙に落ちたらタダの人」なのです。

 国政選挙でチラシを作って巻くだけで多分何百万単位のお金が出ていきます。選挙を除いた日常の政治活動(俗称「田の草取り」)も疎かにはできません。事務所を構えて私設秘書(公費で賄える公設は3人まで)を10人も雇えば簡単に億単位が消えていくのです。

 国会議員とは本社維持費と正社員10人ぐらいを抱える中小企業の経営者とほぼ同じ。しかも「社員」(秘書など)の仕事も選挙区の冠婚葬祭やら行事やらお金を使う(=出る)ばかりです。だから「入る」工夫を別途講じなければ。

求められる堂々と収支を公表する気概

 しばしば高すぎると非難される歳費(給料)年約2200万円と調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)年間1200万円に会派へ入る立法事務費を加えても到底足らない。政党助成金は「政党」に入るのであって個人へいくら回ってくるか覚束ない。

 では中堅・ベテランで選挙が強ければ裕福かというと一匹狼ならばともかく大臣や首相を目指す野望があれば味方の国会議員を増やして(これが「派閥」)新人の面倒も見なければ「(政界では)人望がない」と呼ばれる運命が待っています。

 今月、自民党二階派の桜田義孝元五輪担当大臣が「パーティー券の販売ノルマが大変だった」と述べて退会しました。桜田さんは当選8回の73歳。18年に大臣を1回務め、もう上がり目はなく野望も失せたのに幹部級のノルマは間尺に合わないと悟られたのでしょうか。

 解決策としては旧態依然とした選挙のあり方を抜本的に変えるしかなさそうです。また国民の怒りが「隠す」にあると知れば堂々と収支を公表する気概も求められましょう。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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