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不人気の首相を本人の意思に反して辞めさせる方法はあるのか

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
「バカヤロー」とさえ発言しなければ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 今回は世論や野党国会議員のみならず、与党(=首相の味方)議員の多くですら現首相へ公然と「辞めろ」と反旗を翻し、にも関わらず首相本人が「絶対に辞めない」としがみついた場合、という極端なケースを想定してみました。

除名されたら即辞任

 ほぼ唯一の直接的方法が国会議員からの除名です。憲法で首相は「国会議員の中から」選ばれると明記されているので、前提条件を欠けば当然に辞めさせられます。

 「除名」といってパッと思い浮かぶのがガーシー参院議員のケース。でも該当させるには「議院の秩序をみだし又は議院の品位を傷つけ、その情状が特に重い者」(衆議院規則)との条件が必要です。

 ガーシー議員のように登院しないのは論外として、一般には院内での暴行、暴言、質疑や採決の妨害といったところが除名を含む懲罰の可否を審査する懲罰委員会への付託要件。

 過去(現憲法施行以後)に現職首相が付託されたのは吉田茂氏のみ(審議未了で廃案)。予算委員会の答弁で「バカヤロー」と発言したのを問題視されました。

 首相は国会議員であると同時に内閣の長でもあるため、国会での立場は「行政府の代表」。言い換えると立法府に招かれて質される側だから元来、該当しにくいのです。

 また対象は「院内」なので院外の所業は対象外。刑事罰に問われて起訴されたとしても懲罰委員会の扱いとはなりません。時に議員辞職勧告決議が可決されても法的拘束力はなく居座りが可能です。

刑事罰は失職条件で確定するまで

 ただし院外の不祥事で禁錮以上の刑が確定、ないしは収賄罪、斡旋利得罪、公職選挙法違反、政治資金規正法違反で有罪が確定したら失職です。

 注目すべきは「確定」という点。起訴された一審で最初から事実を争わず、結果に対して検察側も含めて控訴しなければ早めに確定するとはいえ滅多にない。今回の想定は「しがみついた場合」だから当てはまる求刑が論告されたら、ないしは下級審で当てはまったら徹底的に最高裁まで争うでしょう。としたら確定まで3年ぐらいはかかります。

 日本の首相の平均在任日数は2年+α。就任と同時に起訴されたとしても、この規定で在任中に失職する可能性はほぼゼロです。

解散しなければ衆議院任期満了まで居座れる

 首相は国会の指名選挙で選ばれます。死去以外は本人が辞職すると判断しない限り指名選挙も行われません。首相に任期がないためです。

 絶対に辞めなければならないのは衆議院議員総選挙後。結果にかかわらず内閣総辞職となります。ここで今回の条件である「与党議員の多くですら反旗を翻す」を加えれば総辞職を受けての首相指名選挙で落選するでしょう。

 言い換えると解散しなければ総選挙にはなりません。衆議院議員の任期は4年なので、どのタイミングで首相へ就任したかにもよりますが、最長4年の任期満了まで「解散しない」と決めれば、その間は居座れる計算です。仮に今の岸田文雄内閣でカウントしたら直近の総選挙が21年10月31日(任期は11月4日から)だから+4年の25年10月まで我慢できます。

 なお参議院議員通常選挙は与党がボロ負けしても指名選挙と関わらないのです。

内閣不信任決議案に与党が乗るのは容易でない

 ただ1つ、解散を国会が迫れる手段が内閣不信任決議。衆議院に提出された決議案が過半数で可決されたら解散か総辞職かを選択せよと憲法は命じます。「しがみついた場合」だから総辞職はあり得ないため解散を選びます。

 ただ「与党議員の多くですら反旗を翻す」といっても野党が出した(通例)決議案に賛成する(しか可決しない)のは容易でない。首相は辞めないから不信任したボスの下で選挙を戦う羽目に陥るからです。ムチャクチャ不利。首相のクビを取る前に自らが落選したら元も子もない。

 現憲法下で可決したのは4例。うち1948年の特殊なケースを除く(※注)と53年の「バカヤロー解散」と93年の「嘘つき解散」は与党から多くの脱党者が出て成立。80年の「ハプニング解散」は与党内の首相支持と非支持派が直前までケンカしている最中に本会議が始まってしまって非支持派がすったもんだしているうちに議場が閉鎖され大量の欠席者が与党から出たために成立しました。

 つまり、実質的に与党を捨てる覚悟の議員がたくさん出ない限り成立しないのです。

7条解散はしなければいい

 しかも過去4例のうち3例は与党勝利。80年のみ選挙期間中に現職が死去したため首相が交代したものの他の2例は選挙後の総辞職を経て同じ人物が首相に選ばれています。

 圧倒的多数の7条解散は首相が「解散する」と決めて打たれる仕組みです。しがみつきたければ、この解散権を行使しなければいいだけとなります。

内閣不一致なども兼任や民間人登用でクリアできる

 憲法は行政権を「内閣」と規定。内閣とは首相と彼が任命した国務大臣で構成されるというのも憲法の要請です。では国務大臣が首相のあれこれに従わなかったらどうなるでしょうか。「しがみつく」ならば反対者を全部罷免して賛同者に入れ替えれば閣内不一致は避けられます。

 賛同者が誰もいなくても兼任という奥の手が使えるのです。極端にいえば全閣僚を首相が兼ねて「1人内閣」で臨めばいい。国務大臣の過半数は国会議員という憲法の決まりも「首相=国会議員」ゆえクリアできます。

 法律で「必ず置け」と定められている副大臣や内閣政務官の場合、民間人を登用してしのげるのです。国務大臣のような規定はありませんから。いくら国民全体から嫌悪されている首相でも副大臣・政務官の数十人ぐらい民間から集めるのは容易でしょう。

総裁選で敗北しても辞めなければならない決まりはない

 しばしば聞かれる「自民党総裁選挙」との関連はどうなるか。嫌われている首相だから総裁選で負けるであろうし、下手したら立候補に必要な推薦人すら集められないかもしれません。

 でも総裁選はそもそも国会を構成する政党の私的な決定に過ぎないので新総裁が誕生しても「私は首相を辞めない」と宣言したら、首相と総裁が別人になるだけでしがみつけます。

※注:連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の占領下で今では当たり前に行われる首相の意思による解散(7条解散)を認めない方針であったため与野党「なれあい」で予定通りの可決であった。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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