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ジャニーズ問題で注目を浴びた「記者会見」とはそもそも何か。自社主催と記者クラブ主導の違いなど

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
なぜ自社で会見を主催したのか(写真:ロイター/アフロ)

 2日に行われた旧ジャニーズ事務所(「SMILE-UP.」へ社名変更)の記者会見へ厳しい評価が相次いでいます。「NGリスト」の存在発覚が致命的でしたが、そもそも会見を自社で主催したのが妥当であったのか疑問が消えません。

 というのも多くの場合「記者会見」といえば記者クラブが主導権を握る体裁だからです。今回なぜそうしなかったのか、そもそも記者会見とは何なのかを掘り下げていきます。

会見の目的は「再発防止策等」

 最初に旧事務所の公式見解から2日の会見の目的を確認しておきます。

 先立って行われた9月7日の会見は故ジャニー喜多川氏による「性加害事案につき謝罪等を行」ったもので「終了後」「社名を変更するべきだ」などの「指摘を強く受け」たため「再発防止策」「社名変更、新会社設立、被害者補償・救済などの対応」(=「再発防止策等」)「を取りまとめ」「公表し、記者会見で説明することにした」と。

 つまり2日の会見での旧事務所における目的は「再発防止策等」であって先の「謝罪」会見で不十分とされた項目への具体的な回答と理解を得るためでした。

リスタートのお披露目との読み

 それ自体はよくいえば「満額回答」意地悪くみても「全面降伏」で、旧事務所側も自信があったのでしょう。諸悪の根源は既に鬼籍に入り、新経営陣の下で旧体制の残滓たる同族経営も完全に排除するという内容だから。いわばリスタートのお披露目に似た会見になるであろうとの読みがあったような。

 そう考えると会見を旧事務所側が主催した理由もわかります。前向きな話題中心ゆえ後に問題視される「制限時間あり」「一人一社一問」という旧事務所側による決まりも「その程度で収まるはずだ」と予測していたようです。

記者側の認識は未解決の「事件」

 しかし記者側の認識は相当に異なっていました。最大の食い違いは9月7日の会見も含めて性加害を多くがまだ解決していない「事件」ととらえていた点でしょう。

 旧事務所側も「事件」性を払拭したとまでは思っていなかったとしても一般的な企業犯罪ないしは不祥事、つまりホワイトクライムの範ちゅうで捉えていたような気がしてなりません。そうでなく性加害や児童虐待というセックスクライムを組織的に犯した法人が「古い上着よサヨウナラ」で済ませられるのかという疑念を相当数抱いていたのです。

 東山紀之代表取締役社長自身が「人類史上最も愚かな事件」「鬼畜の所業」とまで糾弾したジャニー氏の残した会社を引き継ぐ以上は当事者として「所業」そのものへ向き合いざるを得ない立場。となると旧事務所側で会見を主催すべきであったかという「そもそも論」へ向き合うべきと思われます。

記者クラブにおける会見は際どい質問が連発される

 「事件」の記者会見は捜査当局と記者との間で繰り広げられるのが通常です。本当は被疑者にインタビューしたいところ身柄を拘束されているのが常だからそうなります。

 捜査本部が置かれるほどの重大事件で被害者の性被害が疑われる場合、そうである証拠の有無や状況を極めて具体的に質問するのが当然です。2日の会見でジャニー氏の性加害行為とは「口淫や肛門性交(など)」と挙げた質問が出てギョッとした視聴者もいらしたはず。でも全容を知るためにはそうした文言が飛び交うのもまた当たり前となります。実際にはもっと際どい質問が連発されるのです。筆者もここで披露できないほど。

 会見の多くは記者クラブが取り仕切ります。加盟者の中から約2ヶ月に1回担う幹事社がまとめ役で場合によっては最初に総括的な質問も行うのです。

 回答する警察側も会見に熟達した者が対応し、いわばプロとプロの果たし合い。当然、制限時間などないに等しく、「一人一社一問」などと言い出されたら冒頭から大荒れとなりましょう。

生中継したのは大いに疑問

 クラブには放送局も加盟していてカメラが入るのもしばしばながら、先述したような生々しいやりとりがなされるために生中継など滅多にしません。録画を編集して視聴者へ配慮し、そのまま放映したら不快な個所はアナウンサーが言い換えるなど工夫するのです。

 その意味で2日の会見を生中継したのは大いに疑問。「事件」の会見はショーではありません。ダイレクトに聞いたらビックリするような(でも聞くべき)文言で質問しにくいという萎縮効果も発生します。

「他社が被せてくれる」形にならないまま質疑が散乱

 企業不祥事会見でもホワイトクライムならば先の懸念が大幅に減じるので生中継もアリかもしれません。会社側が主催して進行するケースも珍しくないものの質問が途切れるまで打ち切ったりしないのです。

 「一人一社一問」は聞き慣れないルールとはいえ「一社一人」ならば割と存在します。内閣官房長官の定例記者会見など。ただ官房長官は平日1日2回会見するから「後で聞こう」も成り立つのです。

 また「一社一問」であっても論点が集約されていれば自社で聞けなくても他社が後からだいたい質問してくれるので総合的に成立する時もしばしばあります。ただ2日の会見は加盟社以外の記者も大勢参加して(それ自体はクラブの閉鎖性打破という意味では結構ですが)「他社が被せてくれる」形にならないまま質疑が散乱する光景を呈したのです。結果、終盤に差しかかって聞くべき要素が出そろわず、指名されていない者による不規則な発言に至った側面もあったのでしょう。

「知らなかった」は最も忌避される発言

 回答する側の当事者性もまた2日の会見では混乱を呼ぶ一因となりました。東山社長と当日に副社長就任が発表された井ノ原快彦氏は最前まで事務所のタレントで経営にタッチしていません。サッカーや野球のスター選手が球団不祥事でいきなり社長に祭り上げられて会見へ放り出されたようなもの。旧経営陣の無責任さが如実に表れたのです。

 と同時に経緯はともかく代表取締役として登場する以上、会社法上の責任は負わねばならない。東山社長が過去に行ったとされる一部報道や児童福祉法違反の共犯容疑が問われるのも仕方ありません。「知らなかった」もこうした会見で最も忌避される発言です。

「経験に乏し」いとの自覚があればなおさら自社主催は危険

 会見後に発覚した「NGリスト」もまた旧事務所側が会見を主催したがゆえの不始末でしょう。意図的としか思えない指名のバラツキはさまざまな会見で往々にしておきていて「NGリストでもあるんじゃねえか」と記者間でうわさされるのもしばしば。

 でも本当に作成して生中継のさなかに映り込んでいたなど前代未聞で「ホンマに出してどないすんねん」状態。旧事務所の公式見解によると9月7日会見の時点で「このような事例の記者会見の設営・運営を行った経験に乏しかったことから」「弁護士」に「依頼」して、くだんのコンサルへ「委託」したとか。

 すなわち「経験に乏し」いという自覚は最初から存在していたのです。であればなおさら自社で主催する危険性へ思いが至らなかったのでしょうか。

メディア側の主催にできなかったのか非常に不可解

 自社主催の会見で特定の者を「NG」としたら取材拒否と同じ。いくら「経験に乏し」くても、それだけはやってはいけない禁止事項と知らないかったとしたらお粗末すぎ。

 旧事務所は多くの記者と親密でした。その中心人物たる元副社長が動くに動けなかったにせよ何らかのツテでメディア側の主催にできなかったのか非常に不可解。再出発をアピールしたければ日本記者クラブへ会見を申し込む手もありました。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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