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代表戦で盛り上がった国民民主党が自民と選挙協力したら衆院小選挙区は3人しか立候補できないという先々

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
久々に存在感を発揮(写真:つのだよしお/アフロ)

 国民民主党の代表選挙が終わって玉木雄一郎代表が前原誠司氏を破って再選されました。玉木氏の「与野党問わず政策本位で連携」が前原氏の「非自民・非共産で結集して政権交代を目指す」という主張に打ち勝ったともいえます。

 政権の相次ぐ失態で「自公にはうんざり」といって立憲は頼りないし共産・社民などもっての外という層は多くいて国民民主は「まとも」と一部で評価ているも何せ小所帯。玉木路線の継承=前原路線の否定が今後どのような影響を与えるでしょうか。

自民が欲しいのは支持母体の4労組の票

 まず玉木路線から。今の国民民主は20年の旧立憲との合流局面で参加しなかったメンバーが核となっているので立憲との「連携」は考えにくい。特に「政策本位」になると。

 国民民主を支えている大きな支持母体はUAゼンセン、電機連合、電力総連、自動車総連の4つの労働組合。うち電力総連と電機連合は一時は脱原発を鮮明にした立憲に不信感を抱き、自動車総連は中心のトヨタ労組がカーボンニュートラルへの対応などで「労使一丸」を打ち出して自民に接近しています。

 では日本維新の会はどうかというとキャッチフレーズたる「身を切る改革を実行」に労組が強い抵抗感を持っていてガッツリとは組めません。ゆえに玉木氏は単独で党勢を拡大しするのを原則と訴えたのです。

 とはいえ孤立したら埋没するだけだから与党との連携も必要と唱えます。実際に自民党幹部は「考えが多く一致する」と秋波。近く行われる内閣改造で連立するのではとの憶測も。玉木氏は否定していますが。

 自民が欲しいのはまさに支持母体の4労組の票でしょう。ただ4労組は立憲とソリが合わないにせよ自民に至っては長年の宿敵でおいそれと票田にされるつもりはありません。

前原路線否定の先はイバラの道

 次に敗北した前原氏の路線。「非自民・非共産で結集」は4労組を含む労組の中央組織「連合」のスローガンです。前原氏は地元の京都における22年参院選で維新と共闘する一方で旧民主党時代からの仲間(前原グループ)数人が立憲に在籍していてパイプがあります。現実問題として野党がバラバラでは国民民主など特に衆院総選挙では自公に一蹴されて終わりなのは目に見えているので与党に対抗する「大きな塊」を作ろうと訴えたわけです。

 この路線が否定された以上、考えられる次期総選挙の方針は

1)文字通り単独で勢力を伸ばす

2)自民党と連立までは行かぬとも選挙協力ぐらいする

あたり。どちらもイバラの道なのです。

次点以下に復活当選すら許さなかった「完勝」は3人だけ

 今の国民民主ができて最初の22年総選挙で公示前の8議席を上回る11議席を得ました。ただこの「躍進」は結党メンバーより増えたというだけです。

 では1)の単独路線で戦ったとします。

 現在も残っている結党メンバーは衆院5人、参院5人。衆院の5人は全部小選挙区で勝利しました。うち2人は共産を含む野党統一候補。

 小選挙区で落選して比例区で復活当選したのが5人。うち2人が野党統一候補で今回の代表選では前原氏の推薦人に名を連ねました。比例票は4労組の押し上げ効果が期待されるも、今後大いに伸びるとは考えにくい。

 小選挙区勝利組でも次点以下に復活当選すら許さなかった「完勝」は玉木、前原両氏の他は野党では珍しい世襲の西岡秀子氏の3人だけ。残り2人は立憲や維新が対抗馬を立てると自民が漁夫の利を得る可能性大です。

新・元の公認候補予定者14人のうち13人が自公の現職と戦うのが確実

 比例復活の5人は全部自民に選挙区を取られているため立憲・維新に共産まで出してきたら惜敗率が下がって落選濃厚となります。

 さらに今は議席を持たない新人・元職の公認候補予定者14人は深刻。実に13人が自公の現職と戦うのが確実な情勢で(残り1人は自民新人)この時点で敗色が濃い上に、他の野党が遠慮なく出馬してきたら復活当選枠を前回の5議席+αを見込んでも前回復活の5人と合わせた19人で「共食い」の運命です。

 代表選で公認候補予定者13人(当時)のうち半数以上の7人が前原氏へ投票したのも危機感の現れといえます。

自公現職は絶対に国民民主に譲らない

 では与党(自公)と選挙協力つまり候補者調整ができるかというともっと難しくなります。

 小選挙区で勝ったものの自民に復活当選を許した2人ですら簡単には引っ込めますまい。まして復活当選5人は全部選挙区を自民に取られているので党中央が無理やり自民候補を引きずり下ろしても無所属で出てきましょう。勝ち目も薄い。

 公認候補予定者14人に至っては自公現職が13人なので絶対に譲らないと断言できます。

 としたら自公が候補者を立てないという候補者調整が可能なのは玉木、前原、西岡の3氏ぐらい。後は比例単独へ回ってくれと宣告されるのがオチです。小選挙区での票の掘り起こしができない分だけ比例票の上乗せは一層厳しくなり無残な大敗北を喫するでしょう。

参議院も上澄み要素が希薄

 参議院はどうでしょうか。比例区の6議席は全部4労組の組織内候補だから大丈夫そう。ただ電力総連候補が過去2回連続して落選して比例議席ゼロに陥っているのが気がかり。立憲の組織内候補(しかも同じ連合傘下)当選者より票を得ても落選していて下手すると国民民主を見限りかねません。

 選挙区当選5人のうち改選1議席で勝利した滋賀の嘉田由紀子元知事は前回無所属。「国民民主」の色がつくと却って票を減らすかも。山形の舟山康江氏は22年度予算案に国民民主が賛成してくれた見返りに「与党は出さない」方針が一時期あって「やはり出す」へ転換するも運動期間が短くなったという僥倖に多分に恵まれました。

 改選2議席の静岡の榛葉賀津也氏は立憲が対抗馬を出すという逆風にもめげず勝利するも、玉木路線を貫けば立憲はまた出してくるし、自民は2議席あれば路線云々にかかわらず必ず立候補させます。

 改選4議席の愛知は当選4回の大塚耕平代表代行が名古屋市長選へ転身。もう1人の伊藤孝恵氏は当選2回ながらいずれも最下位に滑り込み。

 要するにどこをみても上澄み要素が希薄なのです。

改選4議席以上で滑り込むのがやっと

 参議院選挙区(45)のうち改選1の32選挙区は自民がべらぼうに強く玉木路線で野党結集を退けたらまず勝ち目なし。といって自民現職がいる選挙区を譲るとも思えない。改選2議席4選挙区は与野党分け合いが常で該当する野党は今のところ維新か立憲でしょう。

 改選3の4選挙区は自公が過半数維持のため必ず2人候補を立てて残りが野党。現状の勢いだとやはり維新か立憲。改選4の4選挙区で初めて野党2議席が可能ながら大阪は維新がいるから無理。改選6の東京に国民民主は過去2回、公認または推薦候補を出すも大敗を喫しています。勝てたとしても伊藤氏のように滑り込むのがやっとのありさまです。

玉木さん以外のフォロワー数が驚きの低さ

 こう述べると玉木路線はお先真っ暗な感じですけど何しろ「政界は一寸先は闇」。ネットでは玉木氏個人の人気は比較的高く、SNSでも健闘。ただ「2人目」がいない。比較的若い世代に支持されている政党なのではっちゃけられる人材がいたら。

 というか「はっちゃけろ」と代表が命令したらどうでしょうか。特に衆院比例復活の5人や次期衆院候補の皆さん。調べてみると始めてはいてもフォロワー数が驚きの低さであったりする。市議会議員でももっと稼いでいるといった数字です。

 今回の代表選は既存メディアでも大いに露出しました。祭りは大切。であれば半年に1回やるとか、さすがに非常識ならば大型選挙(総選挙は無理なので参院選と統一地方選)の前に必ず実施するとか。

党名変更するならば公募してはいかがか

 政党名でも候補者名でも投票できる参院比例の結果をみると政党名が候補者名に比して少なめです。組織票が特定候補を支えていると推測される一方、政党名が浸透していないともみなせます。玉木さん自身が述べているように「国民」だと日本「国民」を指すのか政党名なのかわかりづらい。現に本稿でも「国民民主」と書くしかなく「自民」「立憲」「共産」「維新」と大差があります。インパクトも「れいわ」「NHK」の方が上。

 毎日新聞23年8月4日付朝刊によると「『こくみん党』などが候補にあがる見通し」とか。それじゃあダメでしょう。せめて「解決党」ぐらいは。

 いっそ公募されたらいかがか。きっとネットは大喜利状態になるし既存メディアも取り上げそうだし、何より「祭り」になる。

 どこであれ健全な野党の伸長は議会制民主主義に欠かせません。健闘を祈ります。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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