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通常国会が閉会 どんな法案が成立した?生活に影響しそうな法案は?

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
生活への影響は?(写真:ロイター/アフロ)

 通常国会が21日に閉会します。今国会でどんな重要法案が審議され、成立したのでしょうか。今回は、それらの法律が生活にどんな影響がありそうかにポイントを絞って振り返ってみる記事を書いてみます。

防衛財源確保法

 防衛費を2027年度時点で現在より約4兆円増やすための財源を決めました。「税外収入」「決算剰余金」「歳出改革」「増税」です。税外収入で大きいのは国有財産の売却。他に主に円高に備える外国為替資金特別会計を繰り入れる予定です。

 決算剰余金は現在、コロナ禍対策などで大幅に積み上がっている予備費を主な原資とします。

 増税以外に生活へ直結しそうもなさそうですが不安もいっぱい。最大の課題は27年に目的を達成すればいいのでなく28年以降も最低でも横ばいを維持するはずで、それが可能なのかという点です。国有財産の売却は1回限りだし、余っている予備費の大半は新規国債発行つまり借金で補いました。結局は名称変更しただけで借金を元手にする形。いうまでもなく借金はいずれ国民負担となります。歳出削減は「本当にできるのか」と誰でも疑うでしょう。

 増税に関しては法人税、所得税、たばこ税を対象とするも24年以降に先送り。所得税は東日本大震災からの復興目的で上乗せされている2.1%から転用する案が有力。としたら今より金額の負担は増えません。

改正原子炉等規制法

 原子力発電所の運用期間を現在の最長60年は維持するも審査などで停止した期間を除いてもいいとし、60年より長い運用を実質的に可能としました。「脱炭素社会の実現」の文脈で論議されたのです。原発は温室効果ガスを出さないベースロード電源として政府は従来から将来の電源構成でも重要な役割を担うとの見解を示してきました。

 生活への影響として真っ先に浮かぶのが電気代。脱炭素で安価な石炭や天然ガスの使用が抑えられ、かつこうした化石燃料は輸入に頼るためウクライナ危機後の料金高騰に見舞われた経験がある我々にとって過酷事故の不安を除くと助かるのかもしれません。

 ただ脱炭素の切り札とされている再生可能エネルギー普及を結果的に阻害するおそれもあるのです。資源エネルギー庁の「2030年の電源別発電コスト試算結果」をみると再エネの太陽光や陸上風力の方が原子力より発電コストが安いというデータが出ています。

フリーランス新法

 誰にも雇われていないフリーランスは労働者を保護する法律から外れるため発注者から突然仕事を取り消されたり、報酬がなかなか支払われなかったりとのトラブルが絶えませんでした。同法はそこを手当てする法律です。

 ここでは現にフリーランス(副業を含む)で収入を得ている者の生活にどんな影響がありそうかを考えます。基本的には福音。問題になりそうなのは発注者の書面(メールでもいい)交付で法は「給付の内容、報酬の額、支払期日」などの明示を義務づけている点です。案件名、何をどのように作成するかといった業務内容、納品の予定日や方法、委託料(ライターだと何文字でいくらなど)あたり。

 現在でも口約束と信頼関係だけで成立しているフリーの仕事はたくさんあります。なかには「急ぎ」や「空いてますか」みたいなものも。制作物などは取りかかった時点で成果物のイメージしかないケースも珍しくないのです。さらに発注者は企業規模を問わない。こうした場面だと頼む・受けるの両面で仕事がしにくくなる恐れが出そうです。

 例えば急きょ写真撮影が必要になった。知り合いのフォトグラファーに片端から電話をかけてつながった人へ「すぐにお願いします」といった依頼がしにくくなるなど。結果的に仕事を得る機会が減少する可能性があります。

改正内閣法・新型インフルエンザ等対策特別措置法

 特措法は新型コロナウイルス感染症に対応する法律で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を政府が発出する根拠です。改正によって発出を待たずに首相を本部長とする対策本部が都道府県知事に「指示」(ほぼ命令)を出せるようになりました。

 以前だと緊急事態宣言は次のようです。

1)学校や保育所などの使用の停止も含む制限(要請)。応じない場合は「指示」も可能

2)大勢の人が集まる催しものの開催制限(要請)。応じなければ「指示」も可能

 この「指示」が事実上首相の意思で出せるようになるわけです。

 例えば2020年春の安倍晋三首相の「一斉休校要請」は緊急事態宣言や重点措置をともなわないものでした。法改正によってこうした「要請」さらに「指示」まで法的根拠を持つようになります。

 迅速な感染症対策につながれば国民生活にも利益がある半面で学校、飲食店、イベントなど広範囲に経済的打撃を受けた業種を中心に恣意的な運営が死活問題となる可能性が増したともみなせるのです。

LGBT理解増進法

 性的少数者のであるとの理由で「不当な差別はあってはならない」としました。努力義務で罰則もありません。

 これで良かったか悪かったかといった理念上の判断は本稿の目的でないため論じないのをお許し下さい。生活への影響は、今以上に性的少数者の人権を考える機会が増えるかもしれないというほど。

改正入管法

 主な改正点は「難民申請の3回目以降は『難民認定すべき相当の理由』を示さなければ出身国などに送還できる」や長期の施設収容から支援者らの管理のもとで社会生活を営める措置の新設など。

 そもそも難民は外国人が対象だから国民生活に影響がある話ではありません。また送還規定は現状より厳しくなったと解するのが一般的。在留外国人が増えて職が奪われるという不安を持つ方にとって脅かされる方向での改正ではまったくないのです。

 ここもまた改正の当否は本稿の趣旨ではないので控えさせていただきます。 

番外編 実は怖い昨年度補正予算

 実は今国会前半に成立した今年度当初予算より前の昨年度の補正予算で計上された電気・ガスおよび燃料油の「価格激変緩和対策事業」終了の方が生活に直接影響を与えそう。事業で抑えられてきた電気代、都市ガス代、ガソリン代などの支援が9月にも終わるのです。補正予算は当初に比べて報道も地味で国民もつい忘れがち。しかしこれらの急騰が起きれば家計ショックが発生しかねません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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