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首相の「異なる次元の少子化対策」が無理な訳。既に高齢者は多死し主要国は皆少子化。移民も子は生まない?

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
どんどん減っていく(写真:アフロ)

 岸田文雄首相は23日開催の通常国会における施政方針演説で「従来とは異なる次元の少子化対策を実現」と述べました。年頭の記者会見で示した「異次元の少子化対策」と若干ニュアンスが後退。でもまあ何だか凄い政策を掲げようという雰囲気ではあります。

 ところで、そもそも少子化はなぜ問題か。原因は何で過去にどうしてきたかなどを検証すると一筋縄ではいかないと結論できそう。今回は数字いじりを中心に検証していきます。

2065年の生産年齢人口 51%に対し「子ども+高齢者」49%

 今の日本で起きているのは「少子高齢化を伴う人口減少」です。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)などの推計によると2065年の人口は8808万人。ドイツ(約8330万人)やフランス(約6560万人)を上回っています。

 ある程度の年齢以上になると学校で「日本は資源が少ない割に人口が多い」として人口密度の国際比較などを習いました。ならば人口減少した方がいいとの考え方も可能です。

 そうならない最大の理由が「少子高齢化を伴う」から。標準的な分類である「子ども(0~14歳)、生産年齢人口(15~64歳)、高齢者(65歳以上)でみると65年の生産年齢人口と高齢者の比率は各々57%と43%と接近し、生産年齢人口約1.34人に高齢者1人という計算となるのです。

 生産年齢人口の幅が約50年。高齢者は平均寿命を40年の推計(約86.5歳)で算出すると21.5年。半分以下なのに「57%対43%」となるのは異常としかいいようがありません。生産年齢人口で高齢者を支えるとしたら「1.34人で1人」の肩車型。一応「肩車型」と表現してみましたが、実際には不可能な数字です。

 「高齢者も働けばいい」としても厚生労働省の人口動態統計などから推すに健康寿命は最大75歳ぐらい。せいぜい10年繰り上げるのがやっとといえます。

 ここに少子とはいえ「子ども」を高齢者とともに「支えられる側」にカウントして65年の推計で計算すると生産年齢人口 51%に対して「子ども+高齢者」が49%。持続可能性はほとんどありません。

毎年江戸川区や熊本市レベルの人口が既に「蒸発」している

 日本に住まう者だけで人口減少を止めるには「死なない」と「どんどん生まれる」しかない。ただし「死なない」では高齢化は解決しないわけです。ゆえに極論として「年齢順にお迎えが来るのが加速する」身もふたもなく言えば「どんどん死ぬ」ならば人口は減っても先に述べた生産年齢人口の負担は軽くなります。でも実は既に「どんどん死ぬ」は起きているのです。

 総務省の「日本の総人口」によるとは直近の1年間の減少(死去-誕生)は約64 万4000人。東京都足立区や江戸川区、政令指定都市の熊本市に匹敵する人口が1年間で「蒸発」しています。この傾向は増すばかりとみられていて多死社会はもう到来しているのです。

国際比較すると高齢者が別段優遇されてもいない

 しばしば日本は高齢者に手厚く、出産子育て予算は乏しいと指摘されます。確かに政策分野別社会支出(対GDP比)で高齢者約10%に対して家族向けは2%弱と非常に小さい。ゆえに「異なる次元の少子化対策」に力を入れるのは理にかなっています。

 ただし国際比較すると政策分野別社会支出自体が少ないアメリカを除く主要国で日本の高齢者が格別優遇されているのではないとわかるのです。つまり家族向けを増やすために高齢者向けを減らす余地は極めて小さい。としたら「異なる次元の少子化対策」実現には純粋に財源を増やさなくてはなりません。そのようなカネがどこにあるのかという話になってきます。

主要国のほとんどは出生率「2」を割り込んでいる

 子どもの数を増やすという議論で必ず使われる指標が「合計特殊出生率」。女性が一生の間に生む数の推計で日本では2.07を下回ると次世代の人口が減るとされています。0.07は若死にリスクなので本稿ではザックリ「2」で考察を進めてみましょう。

 そもそもどの国をモデルにするかという設定が難しい。というのも主要国の大半が「2」を割り込んでいるから。G7(日・米・英・独・仏・加・伊)すべてが該当。高福祉高負担の見本のように扱われるスウェーデンですら割り込んでいます。

 そこで「割り込んでいても比較的『2』に近い結果を出している主要国」を次善策として参考にするとしたら米仏とスウェーデン。でも各国の少子化政策が日本になじむかというと甚だ懐疑的にならざるを得ません。

 フランスのそれは法律婚した夫婦を前提にしないというもの。言い換えると「永遠の愛など信じない」政策です。両親が法律婚していない婚外子が占める割合が5割を超えていて日本の2%台とは雲泥の差。アメリカは徹底的に自助で国レベルの育児休業制度すらないに等しい。スウェーデンは前述の通りで「充実させたければ消費税3%ぐらい平気で上げる」となるのです。

出生率の高い国は貧しくて政情不安

 主要国が概ね少子化に突入している半面で世界は「人口爆発」に悩んでいます。今度は出生率が高い国を観察してみます。「6」超えでニジェールとソマリア、「5.5」超えでコンゴ民主共和国やマリといったアフリカ勢が上位独占。いずれもGDP順で世界100位以下(日本は3位)で紛争や治安の問題を抱えているのです。

 戦後日本で最も出生率・数が多かったのが終戦直後の1947~49年。ここから「貧しく国が不安定化していると出生率は上がる」との仮説が立てられます。

 もっともこの仮説が正しかったとしても「では貧しくなって政情不安を醸成しよう」という政策が支持されるなどあり得ません。

少子化のスタートは45年以上前で政策発動も30年以上も前

 日本が出生率「2」を割り込んだのは1975年あたり。実に45年以上前からです。ただしこの頃に危機感はなし。何しろ直前の74年までが第2次ベビーブームで子どもがウジャウジャいたから。加えて72年にローマクラブから発した「成長の限界」で人口増への危機感が醸成されて出産抑制論すら台頭していたのです。

 本格的な減少への危機感は89年の「ひのえうまショック」。人を食うなどの迷信で異常に少なかった66年の「ひのえうま」の出生率を迷信も何もないのに下回った年で翌90年に明らかとなって騒然となりました。だとしても30年以上前。

 その後94年の「エンゼルプラン」を嚆矢として、さまざまな少子化対策が計画・実施されるもめぼしい成果は上がらず今日に至っています。

移民が生産年齢人口増に貢献しても子を生むとは限らない理由

 「少子化が将来の生産年齢人口減少をもたらすからヤバい」のであれば移民政策を採るのが最も手っ取り早い。先に紹介した出生率「2」を割り込んでいる主要国も人口は増えています。ひとえに移民のお陰。

 日本の在留外国人は300万人弱で総人口の2.5%に過ぎません。増やす余地は大きいでしょう。ここで反対論として文化的・社会的あるいは財政的な指摘が多くなされます。ただ本稿は人口論に徹するので、そうした要因はスルーした上で根本的な疑念を示します。これまで述べたように日本の少子化対策に効果は薄く、本質的な原因もわかりません。としたら移民も日本に住まう時点で同一のファクターが作用して子を生まない、生めない状況に陥るはずです。

 日本人に少子の傾向があるという特有の事情はなさそう。明治以降約4倍に増やしたから。その日本人が少子化に転じた理由が移民が何人であれ働かないはずがない。つまり移民は受け入れた分だけ生産年齢人口は増やせても子を生むのに貢献するかというと別問題のはずです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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