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慶賀の裏で進む皇統の今ここにある危機

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
この方がイギリス女王の「王配」フィリップ殿下(写真:ロイター/アフロ)

秋篠宮さまが皇嗣となる理由

 5月1日、新天皇が即位されて「令和」の時代が始まりました。「おめでとう」一色の陰で、皇位継承順も1つずつ繰り上がったため、継承者が1人減ったという深刻な事態はあまり伝わっていないようです。

 憲法2条は「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定め、その皇室典範は1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と男性でなければならないと限定。この時点で新天皇の子である愛子さまはカウントされません。

 2条では皇位継承の順序を定めます。

1)皇長子(天皇の男児。いない)

2)皇長孫(1)がいないので当然、該当者なし)

3)その他の皇長子の子孫(同)

4)皇次子及びその子孫(同)

5)その他の皇子孫(同)

6)皇兄弟及びその子孫(秋篠宮さまが「皇兄弟」で悠仁さまが「その子」)

7)皇伯叔父及びその子孫(叔父上の常陸宮さま)

 したがって皇位継承は順に秋篠宮さま、悠仁さま、常陸宮さまとなるのです。現時点で他はおられません。

 皇位を継ぐ「皇嗣」に関しては4条で「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」と規定。政府は秋篠宮さまの正式敬称を「皇嗣殿下」と決めました。ただし「皇太子」は用いません。典範8条に「皇嗣たる皇子を皇太子という」との文言がみられ、秋篠宮さまは天皇の弟で「皇子」には当たらないからです。こうした定めは憲法および典範の条文を単に当てはめただけで誰かの差し金などではございません。

悠仁さまにかかる途方もないプレッシャー

 典範は天皇および皇族の養子を認めず、その身分を嫡出と限るので、雅子皇后(1963年生まれ)、秋篠宮妃紀子さま(66年生まれ)、常陸宮さま(35年生まれ)と華子妃(40年生まれ)の年齢を考えれば男系男子の誕生はもうないと思われます(※注1)。

 新天皇は60年生まれで秋篠宮さまが65年生まれ。男性の平均寿命は81.09歳ですから「令和」の御代は2040年代ぐらいまで。秋篠宮さまが嗣がれてもご兄弟なので大きな延長は望めません(※注2)。すると現実問題として次世代は悠仁さま(2006年生まれ)お1人で担うことになりそうです。

 この状況下で男系男子のみを継承者とする規定を変えないと悠仁さまに凄い圧力がかかります。まずお健やかに成長されて、妃をめとり、男子が1人以上生まれるというのが絶対条件。将来、天皇に即位するのが確実な男性皇族のお相手探しが難しいのは周知の通り。男子が生まれる確率は50%で、女性が一生の間に生む子どもの数が2人を大きく下回っている現代で「必ず男子誕生」を望むのは酷というものです。それをすでに中学1年生の悠仁さまに強いているのも同然といえます。

憂慮される「あと約14年後」

 さほど時間もありません。近年の初婚年齢と第1子出産時の年齢(30歳をやや超えたあたり)で推察すると14年後ぐらいには悠仁さまの「お后選び」と「男子ご出産」が期待されるのですから。妃候補側からすると男子を生むのを黙契されて結婚し、ひとときの祝賀ムードの後「いつ生まれるのか」と衆目を集める日々が続く……。尻込みされて当たり前の環境が前提ですから難航必至でしょう。

 そのため歴史上8人を数える男系女子の「女性天皇」や未だ誕生していない女系男子および女子の「女系天皇」を認めてはどうかという方向性が2005年11月24日の「皇室典範に関する有識者会議報告書」でいったんまとまっています。「男系による継承を貫こうとすることは、最も基本的な伝統としての世襲そのものを危うくする結果をもたらす」というしごくもっともな問題意識の上で「皇位継承資格については、女子や女系の皇族に拡大することが適当である」と結論づけました。

わが亡き後に洪水は来たれ

 具体的には「天皇の直系子孫を優先し、天皇の子である兄弟姉妹の間では、男女を区別せずに、年齢順に皇位継承順位を設定する長子優先の制度」と女性宮家の創設を提案しています。ところが翌06年2月に紀子妃がご懐妊、9月に悠仁さま(男系男子!)がお生まれとなり「わが亡き後に洪水は来たれ」とばかりに沙汰止み。今日に至っています。

 「どうしても男系男子」を主張する人達の理由は、つまるところ「万世一系」守護のためです。「皇統126代」はすべてそうであったから守り抜かねばならないと。

 まあここで古代の天皇が本当に実在したかとか、過去の天皇の父は絶対にすべて男系皇族の子だと証明できるのかという議論は置いておきましょう。

男系維持の一点だけならば側室制度がベストだが……

 だとしたら本来、最初に論じられるべきは側室制度(第二・第三の妻)のはず。「皇統126代」のうち、昭和天皇、上皇、現天皇が「たまたま」正妻の子(嫡出)で、歴代の多くは典侍(あるいは権典侍)と呼ばれる女官から生まれた庶子(非嫡出)でした。旧皇室典範(明治典範)も庶子の皇位継承を認めています。大正天皇が置かず、昭和天皇が摂政宮の頃から制度自体をなくす意向を示し、後に正式に廃止されました。現典範は非嫡出の皇位を認めないので側室制度が復活しても継承権はありません。

 大正天皇は1900年の結婚後、01年、02年、05年と妃との間で男子に恵まれ12年の即位後も1男子を授かっています。昭和天皇皇后両陛下の間では逆に立て続けに4人の女子が生まれた後(この時もざわつきました)、男子2人、女子1人が授かりました。結果的に男子継承を心配しなくて済んだのです。現上皇が2男1女、現天皇が1女。少子化は皇室にも及んでいるようで4人も7人も1人の女性に出産を期待するのは非現実的です。

 ただ側室制度を復活させて、その男子を皇位継承順に位置づける典範改正は「万世一系」派からも強く出されていません。「今の時代にあり得ない」という大方の声もさることながら「これまで男系が続いていたのだから続くはずだ」とか「五分五分で男子は生まれるし近年は早死にリスクも小さいから大丈夫」といった意見も発せられています。でも現に男系男子の子が期待できる皇族は悠仁さましかいらっしゃらないので希望的観測に過ぎません。

女性天皇と女系天皇

 では現在6人いらっしゃる女性皇族に継承権を認める「女性天皇」はどうでしょうか。「万世一系」派はそれ自体いいとしても次が危ういと主張します。女性天皇が皇族以外と結婚して(独身男性皇族は悠仁さまのみなのでお相手にはなり得ない)生まれた子はすべからく女系に当たるので、万一その方に皇位継承を認めたら史上例のない女系天皇となるので断固反対です。

旧宮家の皇統復帰論

 そこで持ち出されているのが戦後に皇籍を離れた11宮家の旧皇族を復帰させるというアイデア。筆者の知り得る限り(よって多少間違っているかもしれません)20代半ばより若い独身男性は6人います。その方々を復帰させれば一挙に男系が増えると。

 これもなかなか難しい。6人のうち2人は旧賀陽宮で10代で離脱した章憲王の孫。4人が旧東久邇宮で2歳で離脱した信彦王の孫(1人)とひ孫(3人)。つまり民間人生活の方が圧倒的に長かった章憲王と信彦王の更に2・3世代後です。

 復帰論の1つが文字通りで皇位継承者になるもの。確かに歴史上、臣籍降下(天皇が君主であった頃の皇籍離脱の呼び名)後に皇統に復帰して即位した天皇がお2人(59代宇多天皇、60代醍醐天皇)いらっしゃいます。でも降下期間は2・3年で宇多天皇の父は58代光孝天皇。醍醐帝に至っては生まれた時点で父の宇多天皇が臣籍にあったというだけです。環境が大きく異なります。

「皇婿」「皇配」は精子提供者?

 もう1つは未婚の女性皇族のお相手として皇室に迎える案。その場合、皇族として迎えるとして身分はどうなるのでしょうか。生まれながらの皇族である女性皇族を差し置いて即位するのは奇妙ですから「皇婿」「皇配」といった形が一部で模索されています。イギリスのエリザベス2世の夫、エジンバラ公フィリップ王配のようなイメージか。でもエジンバラ公もまた生まれながら可能性ゼロに近いとはいえイギリス国王の王位継承権を持つ身分です。

 だいたい旧皇族の末裔は日本国民ですから憲法上の権利を有しています。職業選択の自由(22条)や「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本……」(24条)などとの整合性が保てるのか。無理やり皇族にするなどできるはずがありません。しかも万世一系思想のもとでの「皇婿」「皇配」の役割は端的にいって精子を提供して男子を授けるのみ。お受けになる方がいらっしゃるでしょうか。

 考察していくと万世一系派の主張はいずれも無理があり、むしろあまり唱えない側室制度が男子を得るという一点に限っていえば最も有効という皮肉な結果に落ち着きそうです。

 要するに熱狂的に「男系男子」で万世一系を叫び現状のままに留めておくと万世一系派が最も恐れる(べきである)皇統断絶が現実味を帯びる危険性が高まっていくのです。

「総意」を考えず妃に「生んでくれ」の他力頼み

 ではどうしたらいいか。憲法は1条で天皇の地位を「主権の存する日本国民の総意に基く」と定めます。ここに尽きるでしょう。やや批判的に万世一系派の意見を取り上げましたが、この方々は少なくともアイデアを出しています。雅子さまのご懐妊に期待し、紀子さまの男子出産を能天気に喜び、悠仁さまがきっと何とかしてくれるだろうと念願するようでは「総意」でも何でもありません。

 振り返ってみれば女子ばかり生むなどと不安視された香淳皇后(昭和天皇の皇后)、つらい流産も経験された美智子上皇后、そして雅子皇后と菊の内には多くの女性の涙が秘められているでしょう。主権者として心しておかなければ、また誰かが悲しまれる運命になりかねません。

※注1:女性の年齢を特に出産と絡めて示すのは失礼と承知しておりますが、テーマの説明上欠かせないので明記しました。他意はございません。

※注2:命数を読むがごとき記載も失礼で不敬でないかとすら恐れ入るところです。また平均寿命との比較も正確とはいえません。同じくテーマの説明上欠かせないためやむを得ず使用した点をお許し下さい。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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