TOKIO山口達也「メンバー」の呼称や昨年の刑法改正が与えた影響

謝罪会見する山口「メンバー」(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 ジャニーズ事務所に所属する人気アイドルグループ「TOKIO」の山口達也「メンバー」が未成年の女性へキスを強要するなどして警視庁が強制わいせつ容疑で書類送検した事実が判明して大騒ぎになっています。「メンバー」なる珍妙な呼称を使う理由や、呼び捨て原則の例外といったマスコミの慣習に加えて昨年の刑法改正という問題の裏にある重大事、示談の意味などを考えてみました。

なぜ「容疑者」ではないのか

 事件が発生したのは今年2月、被害者が被害届を出したのを受けて翌月頃から山口メンバーに事情聴取を行い、4月20日に送検しました。25日にNHKがスクープして露見。この間に被害者とは和解が成立して被害届も取り下げられていたので検察が不起訴処分(裁判にかけない)とするのはほぼ確実でした。

 マスコミの習い性として逮捕(身柄拘束)されれば原則として実名を公表して「容疑者」の呼称を用います。「容疑者」もまたマスコミ用語で、警察や検察の独自捜査で逮捕された者の氏名の後につけるようになったのは1990年代に入った頃から。それまでは呼び捨てでした。「まだ犯行が確定したわけではない」との意を込めて人権に配慮した変更でしたが、当初は現場も戸惑い気味でした。わざわざ「疑われている者」という意味の語を使ったら人権擁護になるのかと。

 山口メンバーの場合は逮捕されていません。書類送検のみで身柄は取られず起訴される可能性も低いとなれば通常は報じないか、報じても「46歳の男性」あたりで実名は出さないでしょう。警察も記者クラブに伝えていなかったのでNHKが打ってこなければ知られなかった可能性もあるのです。

 それをあえて実名報道したのは山口メンバーが有名人だから。マスコミは公職にある者や有名人のようにニュースバリューが認められれば報道します。警察署に電話をかけて事件事故の有無を訪ねる際、「有名人や公務員がらみはありませんか」と念を押すクセがあるくらいです。「仕事が終わってバイクを運転して帰路についたところ木にぶつかって軽いケガをした」に何らニュース性はありませんが主語が有名人(総理大臣とか)だとにわかに価値が生じるのです。

該当する肩書きがない

 ここで呼称をどうしようかという問題が生じます。「容疑者」だと重すぎる感じなので何らかの工夫をするのです。一番楽なのは「肩書き」でかわすという技。「社長」「理事長」「議員」「省課長補佐」など。元職でも構いません。

 ところが山口メンバーの場合、それに該当する何かがありません。ゆえに「メンバー」という苦肉の策を用いたのでしょう。ジャニーズ事務所といえば元所属タレントの稲垣吾郎さんが逮捕された際も「メンバー」と紹介され物議を醸しました。先に述べた慣習では逮捕者は「容疑者」でよかったわけで今でいう「忖度」が働いたのかもしれません。山口メンバーと大きく異なるのは逮捕されていないという点です。

 なおこうした使い方に絶対はありません。朝日、読売、毎日で比較しても読売は逮捕だろうが書類送検だけだろうが、結果が不起訴だろうが在宅起訴だろうが「容疑者」を使う傾向が強いです。公職選挙法違反あたりでも読売のみ「容疑者」で他は肩書き使用というケースが目立ちます。

芸能人の呼び捨てを止める基準

 さて芸能人やスポーツ選手の場合、本職での活動ならば本名であれ芸名であれ敬称を付けず呼び捨てます。おそらく商標と同じ意味をもつからでしょう。TOKIOの一員としてステージでパフォーマンスしている時は「山口達也」でいいのです。今回の事件でも一部スポーツ紙は呼び捨てていました。普段と同じ感覚なのでしょう。

 多くの地方新聞やテレビ局にニュースを配信する共同通信社の『記者ハンドブック』のルールでは「死亡記事や事件、事故、善行などの場合は一般の人と同じ扱いにする」です。いつも呼び捨ての芸能人が人助けをしたり(善行)、海におぼれそうになったり(事故)したら「一般の人と同じ扱い」つまり「さん」付けをします。ただ今回の出来事はそれをストレートに当てはめられません。前述のように「一般の人と同じ扱い」であれば実名報道しないので。

 こうした四苦八苦は今までの報道でも例があります。03年11月19日、アメリカの捜査当局が歌手の故マイケル・ジャクソンを児童性的虐待の容疑で逮捕状を出したと発表した時です。翌20日に保安官事務所に自ら出頭して逮捕されましたが、約45分後に300万ドルの保釈金で釈放されました。この時は逮捕状を出したとの発表から逮捕まで「マイケル・ジャクソンさん」で、逮捕後は「マイケル・ジャクソン容疑者」と報道されました。日米の司法制度の差もあって、明白に逮捕されるまでは「さん」付けだったのです。当時の彼はソロ歌手なので「メンバー」も使えません。どうやらいよいよとなったら(?)「さん」で行くしかないようです。「マイケルさん」とファーストネームで報じていた社もありました。

被害者なのに「さん」付けされないケースとは

 反対に、悪事でなくても「氏」「さん」を使いたくないという面倒な存在も。例えば暴力団の構成員同士で修羅場に陥り、片方が殺されたとします。純粋な被害者であれば「氏」「さん」付けが普通なのでしょうけど書いている方に違和感が生じます。警察の隠語でいう「汚れ同士」のケースです。おおむね「殺された○○組員」と「組員」を肩書きのようにして用いるでしょう。

 今回話題となった「メンバー」もかつて極左暴力集団(過激派)にしばしば用いられてきました。「日本赤軍メンバー」とか「よど号ハイジャックメンバー」とか。往事をよく覚えている60代以上はそちらの方が肌感覚にマッチする方も多いようです。

強制わいせつ罪と刑法改正

 今回の事件の背景で見逃せないのが昨年の刑法改正で強制わいせつ罪が非親告罪化したという点です。仮に改正されていなかったら捜査そのものが行われなかったかもしれないので。

 強制わいせつ罪は「暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する」(刑法176条)と最高刑はかなりの重罪です。ここでいう「わいせつ」とは1951年の最高裁判決で「徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とされています。

 ただしこの罪は改正まで被害者の告訴を前提とした親告罪でした。告訴とは被害事実を申告し処罰を求める意思を警察など捜査機関に表示する行為を指し、法律(刑事訴訟法)に明記されています。対して今回の事件で被害女性が出したのは「被害届」。国会が定める法律に明示されておらず、あくまでも警察内の書類。被害届から何らかの事件性を見出し、端緒として捜査するかもしれませんが「本命」の強制わいせつ罪は告訴でない限り裁判を起こせないので、その限りにおいては無効でした。

 親告罪としていた理由はその性質上、裁判(公開が原則)で表沙汰にしたくないと願う被害者の意思を尊重するというものでした。半面で被害に遭った時点で苦しんでいる女性に「告訴するかしないか」の判断まで委ねるのは酷であるとの反論もあったのです。そうした精神的負担をなくすのが非親告罪化の狙いとされています。だからこそ今回、警察は被害届からスタートして書類送検までこぎ着けたのです。

示談成立と被害届取り下げの意味

 非親告罪化したならば被害届があれば、いや、なくても形式的には起訴に持ち込めます。ただし刑法改正論議でも挙がったように実際には示談が成立し、届けも下げたら検察はまず起訴しません。

 というのも親告罪にする、しないはいずれも被害者感情を重んじた結果だからです。25日の初報道時点でそこまで進んでいたため不起訴は既に確実でした。

 刑事事件で起訴されるかされないかは運命の分かれ道。日本の有罪率は99%ですから裁判にかけられたらまず有罪です。不起訴ならば罪そのものが問われません。ただ今回、東京地検が山口メンバーに下した起訴猶予は不起訴処分のなかで最もグレー。「被疑事実が明白」まで検察は認めた上で被疑者(容疑者)の性格などや情状(事情)、犯罪後の情況により「訴追(裁判にかける)を必要としない」と判断した結果ですから。時代劇風にいえば「お上の情け」に相当します。

事件の真相は?

 蛇足ですが多少。「関係者情報」が飛び交うなか、文字通りの真相はわかりません。一部に「キスぐらいで」という声もあるようですが「キス」に至った状況や範囲によっては、あるいは単純に思い浮かべる程度のキスであっても強制わいせつ罪は成立し得ます。自らが酔っ払っていて相手女性が未成年、しかも日がすっかり暮れた時間帯の密室というだけで相当まずいでしょう。

 捜査主体が泣く子も黙る警視庁捜査1課に移っているとか、嫌疑不十分でなく起訴猶予(被疑事実は明白)であるといった点を勘案すると少なくとも捜査が一時期、極めて緊張した瞬間を迎えたであろうことは想像にかたくありません。