てるみくらぶ社長逮捕で振り返るメチャクチャ破産劇のてんまつ

何でホテルが予約されていないんだ!(写真:アフロ)

 今年3月、東京地方裁判所へ破産を申請し、手続中の旅行会社「てるみくらぶ」(本社:東京都渋谷区)が虚偽の書類を銀行に提出して約2億円の融資をだまし取っていたとして警視庁捜査2課が同社の山田千賀子社長などを11月、詐欺などの容疑で逮捕しました。負債総額約151億円と旅行業として戦後4位の大型倒産になった出来事へ遂に司直の手が及んだのです。改めて「てるみくらぶ」転落劇を振り返ってみました。

ITベンチャーが乗り遅れたのもITの普及

 破産とは会社が消えてなくなる状態。カネが返せなくなってつぶれた典型的な未上場(株を公開していない)企業の終わり方です。上場していれば「危ない」情報が駆け巡り株価に織り込まれるのに対して未上場の多くはそれがないので「突然死」型になりやすい。「てるみくらぶ」に顕著であったのは最終盤で「後は野となれ山となれ」式のメチャクチャをしでかした点です。

 売上は年間約150億円ほど。資本金6000万円で従業員数130人だからサービス業としては「ギリギリ大企業」。最大手JTBの売上高約1兆3500億円と比べれば1%程度の吹けば飛ぶような会社ですが零細でもありません。

 創設は1998年。主に若者向けの海外パッケージツアーを格安で提供して急成長しました。武器は「ネット販売」でしたからIT系のベンチャーといえなくもありません。WEBサイトではハワイ、中韓や台湾、東南アジアやオセアニアの実績をうたっていました。

 山田社長は3月、事業が行き詰まった理由として「航空機の小型化による余剰席減少」を記者会見で挙げました。そこにウソはなさそうです。会社創設の頃、海外旅行といえば「ジャンボジェット」に代表される大型が主流。同時に日本では大手金融機関が次々に倒産する金融危機が発生していて航空会社は景気低迷でゴッソリ消えた団体客目当ての席(余剰席)を埋めるのに必死となり、てるみくらぶのような新興企業にも安く売りました。この追い風で格安ツアーが可能となったのです。

禁断の果実「現金一括入金キャンペーン」

 その席が「減少」した理由の1つは経営環境の変化でしょう。2010年の日本航空経営破綻などで収益二の次の体質が許されなくなります。奨励金(要するにキックバック)など当然カット。もう1つは技術革新で中型機でも十分に遠く飛ばせるようになって航空各社がこぞって導入した経緯があります。機体が小さくなれば当然座席も少なくなるわけで旅行会社からすれば割り当て数の減少とイコール。まったくなくなったわけではないけれど競争が激しくなれば大手にはかないません。

 こうなると売りの「格安」は足かせへと逆回転します。そもそも旅行会社は「旅行代理店」とも呼ばれるように代理業の側面が濃く利幅は薄い。客からすれば「結構なカネを旅行会社に支払った」という印象でも実際には航空料金やホテルの宿泊代へ右から左に消えていく体質ですから。

 躍進のきっかけとなったITの一層の進歩に乗り遅れたのも痛かった。今や代理業への手数料さえ嫌がって航空会社や鉄道会社が直にネットで座席を売り出しています。事業会社も旅行業へ参入しスマホで航空券やホテルなどを自由に選ぶスタイルが増えてオンライン旅行会社が台頭してきました。2012年から国内3社が相次いで就航したLCC(格安航空会社)は名の通りコスト削減のためネットでの直接販売が原則。「てるみくらぶ」の顧客層である若者も「もうパッケージはいらない」と考え出したのです。

 そこで山田社長らは「いや、パッケージがいい」としがちなシニア層を新たな顧客としようともくろみ新聞広告に力を入れ始めたものの経費がかさんで業績がさらに悪化しました。高額ツアーで利益を上げて一発逆転を狙うも肝心のシニア富裕層は動かず惨敗したもようです。

 ここから多くの人を困らせた悪あがきが本格的にスタート。赤字が常態化したのに決算をごまかし(粉飾)て黒字企業にみせかけつつ(破産手続き開始申立書より)、他方で「現金一括入金キャンペーン」という禁断の果実に手を出したのです。いかなる産業でもカードではなく現金で、しかも一括前払いなど求め始めた時点で「資金繰りが厳しいな」と怪しまれます。

後は野となれ山となれ

 それでも「安い」に惹かれた客に悲劇が訪れました。てるみくらぶを通して海外に渡ったら支払い済みのはずのホテル代を請求されたり帰りの航空券が予約されていなかったりという被害が続出したのです。本来、旅行会社が手配しなければならなかったのに借金返済に優先されたもようで自転車操業そのものです。ついにはメールでも電話でも連絡が取れなくなって現地で立ち往生するケースも。在外公館(大使館や総領事館)はカネの立て替え払いなどはできないので観光庁が安全確保のため追加支払いには応じるよう勧めたり在外公館が日本からの送金方法を教えてくれるなどと呼びかける騒ぎに発展しました。

 旅行業法ではこうした事態に備えて代金を弁済する仕組みを設けています。日本旅行業協会に分担金を納めておき、てるみくらぶの義務は2400万円。その5倍の1億2000万円が弁済上限となりました。ただ同社の場合申し込まれた代金総額(債権)は約100億円と多大で全額弁済にはほど遠い状況です。

華やかイメージとは正反対の旅行会社勤め

 海外旅行を担う会社というと添乗員として世界を駆け巡る華やかなイメージがあり業界ナンバーワンのJTBは文系大学生の就職人気ランキングの上位常連です。しかし今やそうした商品を扱えるのは大手グループなど一握り。添乗員はおらず、いたとしても現地係員が担当するのが主流です。離職率も最大手グループを除くと高い。

 旅行は楽しいけれど旅行会社は厳しいのです。一日中チケットの発券業務に追われたり、仕事柄土日も休めません。イメージだけの就職活動で内定を取っても痛い目に遭うかも。事実、てるみくらぶの新卒内定者は破産により一時期行き場を失う災難に見舞われました。