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「ハロウィン宝くじ」で官僚が仮装して天下り

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
さて札束を本当に受け取っているのは誰でしょう?(ペイレスイメージズ/アフロ)

 今日は「ハロウィンジャンボ宝くじ」の抽せん会。1等(3億円)と前後賞(各1億円)合わせて5億円は誰の手に……。その陰に当たろうが外れようが喜んでいる人がいます。

 昨年までの「オータムジャンボ」の名称を改めました。近年のハロウィン人気にあやかって売上増!特に若い世代へアピールしたいのが見え見えですね。

収益金は地方税のネット払い促進?

 惹句である「ハロウィンジャンボ」のそばに小さく載っている「新市町村振興 全国自治宝くじ」というのが正体を示しています。

 まず「全国自治宝くじ」から。発売は「全国自治宝くじ事務協議会」で都道府県と政令指定都市で構成されています。「全国」といっても政府など中央の事業ではないのです。会長は慣例で都知事。事務局も都で計画などをまとめて総務省へ提出します。大臣が許可したら(必ずOKが出る)発売です。なぜ総務省かというと省庁再編前の旧自治省が地方行財政を所管していたから。協議会の役割はここまでで発売等の事務はみずほ銀行へ委託されます。というとみずほがおいしい思いをしているかと邪推したいところですが作業が煩雑で大したもうけにはならないようです。むしろ都の利権を探った方が面白そう。

 次に「市町村振興」。協議会が都道府県と政令市なので一般市町村から「我々もカネがほしい」と要望が出てきて作られました。サマージャンボが「市町村振興」でハロウィンが「新市町村振興」です。したがって政令市は発売主体から外れます。「全国市町村振興協会」なる団体へ収益金の多くが支払われる仕組みです。

 協会がそのカネで何をしてくれるかというと地方税がネットで納付できる電子納税の促進。高額納税者でない限りコンビニでいいのではないでしょうか。「住基カードの利活用」もうたっていました。あの……。他ならぬ総務省のサイトに「平成28年1月からマイナンバーカードが発行されることに伴い、住基カードの発行は平成27年12月で終了します」と書いてあるのですけど。

宝くじを博打でないとする変な理由

 ところで何で宝くじは合法なのでしょうか。刑法は「富くじ発売等」を禁じています(187条)。富くじは江戸時代に流行した宝くじの由緒正しき先輩なのに。先輩はダメだが後輩は許すとは何ごとでしょうか。論理構成として宝くじは1948年制定の「当せん金付証票法」で認められている、というところからスタート。同法は「当せん金付証票」(くじ)を発売して地方財政資金の調達に役立てるのを目的と定めました。次が刑法35条の出番で「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」とあります。つまり地方振興目的だから何故か許すという法律ができて、成立した以上は刑法で罰せないのですね。変な話です。

 「何か変だ」というのは当初からわかっていたので言い訳を用意しました。刑法が富くじを禁じているのは博打だからです。ならばその性格をなるべく小さくしようとしました。具体的には「射幸心を過度にあおらない」(閣議決定)仕組みです。収益の約4割は本来の目的である地方財政資金の調達(公共事業など)に用い当せん金(当たり)に充てるのは47%。残り約12%を経費としました。掛け金の半分以下しか配分されないから博打に必然の「偶然の利益や成功を得ようと願う心」は減退するよと。

「10億円当たる」でも射幸心はあおらない?

 ここで矛盾が生じます。どう言い募っても宝くじを買う動機は一発当てたいという射幸心しか考えられません。地方振興のために買っている方はいらっしゃいますか? そこを薄めては魅力がなくて売れなくなります。事実、2005年の約1兆1000億円をピークに下落傾向へ陥りました。

 そこで1等当せん額や1枚あたりの額面を増やして局面打開をはかりました。総務大臣の指定を受ければ上限をさらにアップできる(それでは上限じゃない!)よう法改正までしています。でもこうした試みは射幸心の増大としか思えません。今回の「前後賞合わせて5億円」まで引き上がったのが2012年2月発売のグリーンジャンボからで15年の年末ジャンボに至っては10億円まで拡大しました。額がふくらむと買い手は増えるも翌年反動減に見舞われてさらに増額と何だか麻薬みたいな展開です。

悪いのは若者。天下りはOK

 それでも右肩下がりが止まらない理由としてメディアなどがしきりに指摘するのが「若者離れ」。まるで若者が悪いみたいな言いぐさです。半分以上寺銭に持って行かれる博打に手を突っ込むほど今の若者はバカではないと素直に反省したらいいのに。

 しかも総務省や都の天下りが笑顔で宝くじ利権にありついているのだから度しがたい。2010年5月、今から振り返れば民主党政権唯一の功績に思えてくる「事業仕分け」で暴かれました。最も大きいのはみずほ銀行から普及と宣伝を委託される「日本宝くじ協会」と「自治総合センター」。いまでもしっかり総務官僚が天下っています。協議会から共同事業を行う3団体は、くじから手を引いたところもあるけど現時点で総務官僚の天下りが存在します。ハロウィンジャンボの収益を得ている全国市町村振興協会にもしっかりと天下っていました。

 宝くじ販売を許可する側の総務省の役人がカネを受け取る側へ天下っていては世話がありません。ささやかな国民の夢をあおって生き血をすするありさまは珍しくないとはいえ釈然としません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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