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ラグビートップチームが運営する競技歴不問のアカデミー。テクニックより「体」と「心」の成長を

多羅正崇スポーツジャーナリスト
10月のシャイニングアークスアカデミー体験会の様子。写真 ShiningArcs

「体」と「心」の成長をめざすプログラム。練習拠点は世界有数のラグビー施設「アークス浦安パーク」――。

ラグビーの国内トップチームであるシャイニングアークス東京ベイ浦安が運営する「シャイニングアークスアカデミー」。

10月開講予定の小学生以下を対象としたラグビーアカデミーで、毎週火曜日(月3回)、東京・浦安にあるシャイニングアークス東京ベイ浦安の本拠地「アークス浦安パーク」が練習拠点になる。

同施設は天然芝2面、ナイター施設、屋内練習場などを揃える世界トップクラスのラグビー施設だ。

年齢層別の2クラス計80名を募集しているが、SNSのみの告知ながら、すでに9月末時点で20名超の申込みがあるという。体験会の申込みも盛況だ。

活況の理由を探ると、そこには環境の充実だけでない「敷居の低さ」があった。

千葉・新浦安の「アークス浦安パーク」が練習場。天然芝2面にナイター設備、屋内練習場などが揃う世界トップレベルのラグビー施設だ。写真: ShiningArcs
千葉・新浦安の「アークス浦安パーク」が練習場。天然芝2面にナイター設備、屋内練習場などが揃う世界トップレベルのラグビー施設だ。写真: ShiningArcs

■子どもの心に寄り添ったコンセプト

アカデミーの準備に奔走するのは、シャイニングアークス東京ベイ浦安の高橋信孝チームディレクターだ。

センターとして活躍したチームOBで、2児の父でもある高橋チームディレクターが語ったのは、子どもの心に寄り添ったコンセプトだった。

「アカデミーのコンセプトは『体と心の両面を健康に育む』ことです。テクニックだけを教える場にはしたくない、というのがGM(内山浩文氏/アカデミー運営責任者)や私たちの想いでした」

ラグビーの競技歴は不問。運動が得意な子を集め、スポーツエリートを養成するわけではないという。

「体と心を育む」プログラムは、神奈川県横浜市で活動する「慶應キッズパフォーマンスアカデミー(慶應KPA)」が開発したプログラムがベース。

小学生を対象としたスポーツアカデミーである慶應KPAは、体と心の成長に着目した先駆者だ。

歴史がある強豪のシャイニングアークス東京ベイ浦安だが、アカデミー運営は初の取り組み。まず運営実績のある慶應KPAとの協働でスタートを切る。

■「Smart ICT × Sports」。NTTグループの強みを生かす

シャイニングアークス東京ベイ浦安の母体はNTTコミュニケーションズであり、NTTグループの強みである「Smart ICT × Sports」も生かしていく。

アカデミー生はGPS受信機を装着し、運動量や運動強度などを測定する。そうした明確なデータによる成長確認を「なにかの気付きにしてもらえれば」と高橋チームディレクターは語る。

「ICTの部分は、慶應義塾学学院のシステムデザイン・マネジメント研究科と連携して進めていきます。科学的トレーニングを積極的に採り入れるので、データを通して成長を実感してもらえたら嬉しいです」

「データを通して例えば『自分はまっすぐ走る能力に長けている』と気づいたら、陸上などいろんなスポーツに進んでもよいと思います。とにかく子ども達がいろんな“気付き”を得るような場ができたらいいなと思っています」

体の成長サイクルと同時に、スタッフとの対話を通して「試行・思考」「工夫」「実践」という心の成長サイクルも回していく。

もちろんラグビー選手として成長したい子にとっては十分な環境が整っている。

コーチ陣は慶應KPAの廣澤崇氏、田原茂行氏、齋藤千晴氏に加え、チームの浦野龍基コーチまた運営スタッフとして阿部達哉コーディネーターと川原佑普及担当も参画する。

シャイニングアークス東京ベイ浦安に所属するトップ選手たちもアシスタントコーチとして参加予定だ。

10月5日に第一回が行われたアカデミーの体験会では「走り方の基礎」など基本的な身体運動のレクチャー、実践もあった。写真: ShiningArcs
10月5日に第一回が行われたアカデミーの体験会では「走り方の基礎」など基本的な身体運動のレクチャー、実践もあった。写真: ShiningArcs

■中学生対象のU15

シャイニングアークスアカデミーの卒業生が、小学校卒業後、ラグビー選手として成長したい場合の受け皿もある。

シャイニングアークス東京ベイ浦安が全面的に支援している「浦安ラグビースクール(RS)中等部」だ。

小学生のタグラグビーで全国優勝をしたこともある浦安RSに2020年4月、中学生を対象とした中等部が創設された。

アカデミー同様、アークス浦安パークを拠点として、週3日(木曜日、週末)活動。約35人の生徒がフルコンタクトの12人制ラグビーを行っている。

ヘッドコーチは、シャイニングアークス東京ベイ浦安OBの大内和樹さん。もともと浦安RSにコーチとして携わっていた元フッカーだ。

「U12(12歳以下)はシャイニングアークスが運営し、U15(中学生)は浦安ラグビースクール中等部の強化に貢献します、という形です。練習場所はアカデミーと同じアークス浦安パークです」

「毎週木曜日の練習には選手たちが毎回5、6人参加してくれていて、現役選手の生きた知識を伝えられます。教えることで選手自身の成長にも繋がっています」

十分な環境が揃っているが、技術向上が最重要事項ではないところもアカデミーと同様だ。

大内ヘッドコーチもまた「子ども一人ひとりの成長」を重要視している。

「ラグビーの上手い子ばかりが揃ったら、それはスクールの強化としては良いと思います。もちろん今後はスクールの全国大会出場などを目標にしていきたいですが、それが一番の目的になることはないと思っています」

「一番の願いは『子どもが成長を実感する場』を作ることです。0.5しかできなかったことが、0.6になる喜びを実感してもらいたい。成長の体験が本人の喜びであり、ご家族にとっての喜びでもあるのではと思います」

チーム強化が最優先ではなく、子ども一人ひとりの成長が最優先。

それが重要な指導方針であるため、「試験前なので休みたい」「英検がある」などの理由で休む生徒を、大内ヘッドコーチは全面的に支援するという。

「中学生という時期を大切にして、いろんなことに取り組んでほしいです。むしろラグビーばかりにならないように、と話しています。『テストがあるので休みます』という理由であれば『勉強がんばれよ』と送り出しています」

浦安ラグビースクール中等部では今後、外国人選手による「英語のみのラグビー練習」も予定されている。

多岐にわたる能力を高められる場で、子ども達がどんな成長を遂げ、どんな大人になっていくのか。

大内ヘッドコーチは「卒業する子ども達には、ラグビー界にこだわらずいろいろな分野でも活躍してほしい」と語る。アークス浦安パークでの経験を生かして社会で活躍してくれたら嬉しい。

■「NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安」

・U12(アカデミー)https://www.ntt.com/rugby/team/academy/index.html

・U15(スクール)https://www.ntt.com/rugby/team/school/index.html

■浦安ラグビースクール中等部(公式ホームページ)https://www.urayasujrs.com/top

スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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