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【ラグビーW杯】選手の声で振り返る”静岡の歓喜”。日本が優勝候補のアイルランドから歴史的金星

多羅正崇スポーツジャーナリスト
優勝候補のアイルンランドを破り歓喜する日本代表のSH流(左)とSO田村(右)(写真:ロイター/アフロ)

ほぼベストメンバーの優勝候補から、歴史的な初勝利を挙げた。

世界ランキング9位だったラグビー日本代表が9月28日(土)、過去9戦全敗だった同2位のアイルランド代表に19-12で逆転勝利。

2015年W杯での南アフリカ代表撃破に続き、初開催のラグビーW杯で、衝撃的な番狂わせを演じた。

開幕戦でロシアに勝利した日本は、これで開幕2連勝。

勝ち点9としてプールAの首位に立ち、悲願の決勝トーナメント進出へ前進。世界ランクは試合後に過去最高の8位に上がった。

舞台となった静岡県袋井市の小笠山総合運動公園エコパスタジアム。約5万人収容。2002FIFAワールドカップの会場になった静岡県最大の多目的競技場。(筆者撮影)
舞台となった静岡県袋井市の小笠山総合運動公園エコパスタジアム。約5万人収容。2002FIFAワールドカップの会場になった静岡県最大の多目的競技場。(筆者撮影)

「前半の20分間は私たちが良かったが、その後は勢いを失ってしまった」(アイルランド・SHマレー)

主力である18年最優秀選手のSOセクストン、CTBアキの2人を欠いたが、名将シュミットHC(ヘッドコーチ)の下、ほぼベストの布陣で臨んだW杯第2戦。

配球役である大型スクラムハーフ(SH)のマレーは、前半20分以降の苦戦をそう嘆いた。

3点を追いかけるアイルランドは前半13、20分に連続トライ。

いずれも日本がラックで反則を犯し、SOカーティによるキックの競り合いからスコアして12-3とリードした。

セクストンの代役であるSOカーティも機能し、アイルランドは安堵したかも知れない。

しかし日本に動揺はなく、むしろ自信を深めていた。

「チームで『形で獲られたトライではないので、ネガティブになることはない』と話して、その通りだと思いました。ディフェンスも通用していたので、自信を持ってやれました」(日本・FL姫野)

日本は前半30分、負傷したNO8アマナキに代わってリーチ主将を投入。

すると日本は前半33分にSO田村がペナルティーゴール(PG)を成功させ、6点差(6ー12)に追い上げる。

相手の反則位置は、ほぼゴール正面という好位置だったが、少なくとも前半17分とこの時のPG獲得は狙い通りだろう。

ラックでファイトしている相手を自陣方向へ押し倒す。そこでSH流がすかさず反則をアピールする連係プレーだ。

「僕が一番ブレイクダウン(ボール争奪局面)に近いので、レフリーにどういう状況が起きているかを伝えて、(反則を)取ってくれた部分はありました」(日本・SH流)

試合後にインタビューに応じるアイルランドの左PR(プロップ)キアン・ヒーリー。(筆者撮影)
試合後にインタビューに応じるアイルランドの左PR(プロップ)キアン・ヒーリー。(筆者撮影)

前半最後のPG機は、スクラムでのペナルティ奪取が起点。

前半34分には、相手ボールのスクラムをターンオーバーするビッグプレーが飛び出し、PR具が雄叫びを上げた。

「(アイルランドは)1番の選手がアップしながら押してくるスクラム。(試合を通して)前に出ている感覚があり、負けている感じはしなかったです」(日本・PR具)

アイルランドは大会初戦でスコットランドをスクラムで粉砕するほどだったが、1番のPRヒーリーは「日本のスクラムはとても強かった」とコメント。

力が漏れないスクラムを追求してきた日本代表の長谷川慎スクラムコーチは、静岡・磐田に本拠地を置くヤマハ発動機ジュビロの元コーチだ。

代表候補だったPR山本幸輝ら、ヤマハ発動機メンバーがスタンドから見守る中、ジャパンは強力スクラムを披露。番狂わせの土台を築いた。

(※スポーツテレビ局「ジェイスポーツ」のラグビー担当公式より。動画の前半がターンオーバーしたスクラム。後半は窮地を救ったFL姫野のジャッカル)

「今日は2人でタックルをする、コネクトの部分も良かったです」(日本・CTB中村)

日本は後半、アイルランドを無得点に抑える鉄壁のディフェンスを見せる。

日本のLOムーアは両チーム最多の24タックル。38歳のLOトンプソンはチーム2位の19タックル。

しかも2人ともミスタックルがなく、MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)受賞のHO堀江も、ライン参加やスクラムをしながら17タックル。超人的な働きを見せた。

「今週の焦点はタックルだった。とても厳しいアイルランドのアタックを持ちこたえることができた。選手を誇りに思います」(日本・ジョセフHC)

日本は後半28分に途中出場のWTB福岡がトライを決めて、ついに14ー12と逆転に成功。

ティア1(ラグビー界の伝統10か国)の優勝候補・アイルランドは、いよいよ追い詰められた。

しかし10フェーズ以上の攻撃も弾き返される。強みであるラインアウトモールも止められている。

突破口を開きたいが、こんな時に頼りになる欧州最高の司令塔、セクストンはいない。

フォワードとバックスの連携が薄くなり、強みであるフォワード一辺倒のアタックになるが、日本の堅守はやはり崩れない。

「(アイルランドは)バテていました。前半30分くらいからしんどかったと思います」(SH流)

日本には今年6月の“地獄の宮崎合宿”で鍛え抜いたスタミナがあった。

ブレイクダウンで2人でファイトし、球出しを遅らせ、素早く防御を整備する。そしてまた2人がかりのタックル、ブレイクダウンでファイトする――

豊富なスタミナと連携により、防御の好循環を生み出し、視野の狭くなったアイルランドを追い込んだ。

日本は後半31分にPGを追加し、リードはついに7点差(19-12)に。

最終盤、WTB福岡のインターセプトにより自陣へ後退したアイルランド。

最後は苦渋の決断だった。7点差以内の負けによるボーナスポイント「1」を確保するため、みずからボールを外へ蹴り出した。あのアイルランドが、日本の防御に白旗を上げた瞬間だった。

試合後、W杯4大会出場のアイルランド・HOベスト主将は、落ち着いた様子で日本選手と握手を交わしていた。

(※スポーツテレビ局「ジェイスポーツ」のラグビー担当公式より。アイルランド戦初勝利を決めた歴史的瞬間)

日本の社会人ラグビー・国内1部「トップリーグ」。

今季はW杯開催のため、2020年1月に開幕がずれている。通常ならシーズン中のトップリーグ選手たちは目下、自主トレなどに取り組んでいる。

彼らの代表であるジャパンがまたやってくれた。前回大会に続いて大きなムーブメントを起こそうとしている。

歴史的な金星を受け、次は自分たちの番だと奮起するトップリーガーも多いはず。

W杯後には日本初のプロラグビー・リーグの構想(詳細)が発表される予定。

あなたの街にプロラグビー・チームが誕生し、あなたの街で、ラグビーの楽しさ、素晴らしさを体感できるようになるかもしれないのだ。

7月28日、都内で開かれたスポーツシンポジウム「SPORTS X Conference2019」でプロリーグ創設が公表された。(筆者撮影)
7月28日、都内で開かれたスポーツシンポジウム「SPORTS X Conference2019」でプロリーグ創設が公表された。(筆者撮影)

ラグビー人気の盛り上がりがもたらす展望の想像は尽きないが――

大会を総括するには、もちろん早すぎる。

「(やるべきことは)次の試合に100%備えるということです」(日本・SH田中)

“ジェイミー・ジャパン”の目標、日本ラグビー史上初の決勝トーナメント進出は、まだ決定したわけではない。

2015年W杯では、南アフリカを撃破したのち、チームの雰囲気が弛緩したという。

中3日で迎えたスコットランド戦は完敗(10ー45)した。31人中10人いる前回大会メンバーの役割は重要だろう。

ただ外野に言われずとも、チーム・選手は理解している。

「ロッカーでも勝利に対する喜びはみんなで共有しましたが、選手やスタッフから出た言葉は、次の試合に向けてフォーカスが大事ということ、次の試合に勝たないとこの勝利の価値も上がらないということです」

「明日(日)になれば今日のレビュー、プレビューを始めて、良い準備にとりかかろうと思っています」(日本・SH流)

2勝の日本は、10月5日にサモア代表と、13日にはスコットランドと対戦する。

目指している頂きは、まだまだ先にある。 (了)

※【試合ハイライト】スポーツテレビ局「J SPORTS」日本×アイルランド

スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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