クボタの中学生向けラグビー教室が満員札止め。「ラグビー部がない」地域の受け皿に。

練習熱心な中学生が東京・千葉などから集う。(写真:多羅正崇)

 クボタスピアーズが運営している中学生向けのラグビー教室「クボタスピアーズU-15育成プログラム」が人気だ。

 ラグビー国内最高峰の「ジャパンラグビー トップリーグ」に所属するクボタは、2014年の春に中学生向けの同プログラムをスタート。

 4期目を迎えた今年度は、新1年生を中心に入会者が100名を超え、今年8月に新規入会・体験の募集をストップ。これまで無制限に希望者を受け入れてきたが、トレーニングの質を考慮し、プログラム開始以降初めてとなる“札止め”を決めた。

 人気の理由は、国内トップ選手と同等の練習環境で、質の高いトレーニングを受けられる点にある。

 今期は2017年5月から2018年2月まで、不定期で年間約30回のトレーニングおよびイベントを開催。

 毎回のトレーニングは、毎週火曜日の午後6時から、千葉県船橋市の(株)クボタ京葉工場内にあるクボタスピアーズの天然芝グラウンドで行われる。中学生が平日の放課後に、10基の夜間照明設備をそなえた天然芝でラグビーができるのだ。

 常駐コーチとして指導にあたるのは、クボタスピアーズに所属する7人のコーチ陣。プログラムのコーチングリーダーを務める栗原喬バックス(BK)コーチをはじめ、クボタのスタッフを学年ごとに2人ずつ配置。独自の練習プログラムを直接指導する。

 時には南アフリカ代表での指導経験を持つ、クボタの海外出身コーチがグラウンドに立つことも。トップリーグが中断していた11月は、多くの現役トップリーガーがポジション別にスキルを教えたという。

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■質の高いスキル練習

 取材に訪れた12月上旬は日本列島を寒気が襲い、底冷えのする寒さ。しかし船橋駅発着の専用送迎バスで約60人の中学生がやってくると、東京湾にほど近い練習グラウンドは活気に溢れた。

 午後6時過ぎにスタートした学年別の練習は、グラウンドの三カ所でテンポ良く進行した。特別ルールのタッチフット、Hポールを利用したパス&キック練習、クボタのS&Cコーチによるランニングフォームの指導……。ハイレベルな1時間強のトレーニングに中学生たちは快活だった。

 練習内容はパスやキックなどのスキル練習がメインだ。正しいタックル姿勢など、身体の使い方にも力を入れる。万が一ケガがあった場合には、クボタのチームドクターが対応にあたるという。

「戦術うんぬんではなく、それぞれのチーム(部活動やラグビースクール)に帰った時、ここで教わったスキルや考え方を発揮してもらえればと思っています」(栗原コーチングリーダー・クボタBKコーチ)

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■人気の背景に日本ラグビーの課題

 人気の背景には、日本ラグビーが抱える慢性的な課題がある。

 プログラム参加者の多くは東京、千葉、茨城などのラグビースクールに所属し、週末にラグビーボールに触れている。

 それぞれの中学校にラグビー部があれば平日もプレーできるが、日本の中学校、特に(大阪などの一部地域をのぞく)公立中学校にはラグビー部が少ない。

 ラグビーに没頭したいのに、平日にラグビーをする場所がない――そんなラグビー好きの中学生が少なくない現状がある。

 そんな中学生ラガーは、部活動を義務付ける中学校であれば、ひとまずサッカー部などに籍を置くほかない。平日はラグビー以外の競技をするか、もしくは“何もしない”。中には部活動での友達が増えるなどし、「部活動が忙しくなった」と他競技へ移ってしまう中学生もいる。

 中学生の受け皿が少ないこともあり、日本ラグビーの競技人口は12歳~15歳未満の中学生世代が少ない。

 2017年2月公表の日本ラグビー協会の資料によれば、2016年12月時点の中学生世代の登録プレイヤー数は全体の約11%(1万435人)。

 その一方で、6歳~12歳未満の小学生世代は全体の19%(1万8422人)。15歳~18歳未満の高校生世代になると全体の27%(2万5923人)におよぶ。

 こうした問題もあって、日本ラグビー協会は2012年から文科省委託事業として、平日放課後のラグビー教室「JRFU放課後ラグビープログラム」をスタートさせている。主に中学生が対象で、今年度は全国12地域で実施中。意義深い取り組みだ。

発端はゼネラルマネージャーの想い

 U15プログラムの発起人であるクボタの石川充ゼネラルマネージャー(GM)を動かしたのも、こうした中学ラグビー界の現状に対する問題意識だった。

「私の次男が中学1年生の途中からラグビーを始め、中学校ではサッカー部に入っていました。サッカー部に入りながら、土日だけラグビーをやり始めたのですが、平日にラグビーのための練習ができない。周りにも同じような子たちがたくさんいました」(クボタ・石川GM)

 自身は中学ラグビーの盛んな大阪府出身で、中学校の部活動でラグビーに出会っている。

 30歳の時にクボタで現役生活を終え、チームスタッフとして現場に戻っていた石川GMは決断をした。

「平日にラグビーの練習ができないのであれば――ウチ(クボタ)がラグビーをやっているので、ラグビーをやっている中学生のためにスキル練習ができる場をもうけてあげたい。そう思ったのが最初です」

 ひとまずはチームを編成せず、週1回のスキル練習に特化すると決めた。

 プログラムは初年度から盛況。平日もラグビーに熱中したい――ごく普通の願いを叶えられずにいた子ども達が集った。

 初年度の参加者の中には、都内の難関私立中学のラグビー部員も数人いた。彼らはラグビー部に所属はしているものの、部員数が少なく、質の高い練習をできずにいた子ども達だった。ラグビー部に所属する中学生からのニーズもあると分かった。

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■クボタ側にもメリット

 U15プログラムはクボタにとってもメリットがある。

 ひとつはコーチ陣にとっての学びの場になっていることだ。

「伝え方が難しくて勉強になります。大人を相手にするのとは、話し方も伝え方も変わります。また、ここでキーポイントをおさらいして(トップチームで)コーチングして、ということは多々あります」(栗原コーチングリーダー)

 同志社大学の元キャプテンで、同プログラムでは中学1年生を指導している前川泰慶広報・普及担当は、現在トップチームコーチ資格(トップリーグ指導資格)を取得中。

 週1回のコーチングで、貴重な経験を積んでいるという。

「勉強になります。メニューを楽しくやってくれない時もあるので、そんな時は二の手、三の手を用意しておくと、子ども達も楽しく練習してくれます」(前川広報・普及担当)

 指導内容に責任を持つようになるなど、現役選手にとっても良い影響がある。コーチを志している現役選手にとっては下積みにもなる。プログラムを継続していくことで、草の根的にクボタのファンが増えるかもしれない。

 発起人である石川GMにとっては、いまプログラムから巣立った子ども達の活躍が楽しい。

 第1期に中学3年生だったプログラム卒業生は、高校3年生になった。

 今年度の「花園」出場をかけた千葉県予選決勝は、5年連続で流経大柏×専大松戸のカード。その決勝戦で、専大松戸の先発メンバーの「半分くらい」(石川GM)がプログラム経験者。優勝した流経大柏にも卒業生の姿があった。

 他県でも、12月27日開幕の「花園」へ出場する桐蔭学園(神奈川)、國學院栃木(栃木)、花園初出場の昌平(埼玉)にも見知った顔がある。

 同じトップリーグに所属するヤマハ発動機ジュビロは今春、下部組織「ヤマハ発動機ラグビースクール」出身の廣川翔也を大卒新人選手として迎えた。U15プログラムからも、いつかトップリーガーとしてクボタへ戻ってきてくれたら――。石川GMの夢は膨らむ。

■根底にある「日本ラグビーへの貢献」

 チームにメリットはあるが、根底にある想いは日本ラグビーへの貢献だ。

 だから他のトップリーグチームからの問い合わせにも応じている。実際にトップリーグの或るチームへ「ノウハウを渡しました」(石川GM)。現場でコーチ陣をまとめる立場である栗原コーチングリーダーも「裾野を広げるという意味では、(ノウハウ提供は)どうぞどうぞという感じです」とキッパリ。中学生世代の競技人口をもっと増やしたい――。U15プログラムの年会費がわずか5000円であることからも、クボタのそんな志が窺える。

 

 トップリーグが2020年度から地域密着型の新リーグに変わる計画が進んでいる。

 各トップリーグチームが、より積極的に地元ファン獲得に乗り出す時代がやってくれば、こうした地域に根差した取り組みの重要性はより高まっていくのだろう。〈了〉

 

●「クボタスピアーズU-15育成プログラム」

 http://www.kubota-spears.com/u-15/outline.html

●(公財)日本ラグビーフットボール協会が事業主体者となってスタートした中学生向け(会場によっては小学5年生・6年生も含む)の放課後ラグビー教室「JRFU放課後ラグビープログラム2017」

 https://www.houkagorugby.info/

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