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【熊本地震】情報格差が避難生活格差に直結する 被災地の外からできる適切なIT支援とは

田中森士ライター・元新聞記者
「Youth Action for Kumamoto」発起人の塚田耀太さん

熊本地震で、被災者にとって必要な情報を被災地外から発信し続けた、支援グループ「Youth Action for Kumamoto」。同グループ発起人で、慶応大商学部3年の塚田耀太さん(23歳)は、外からできる支援として「情報支援」と「コミュニティー構築支援」を挙げる。

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「いかに被災者にとって使い勝手の良い仕組みを作るかが重要」

同グループは、2016年4月14日の前震直後に立ち上がった。取り組んだのは、発災直後の被災者にとって重要な、「避難所」や「炊き出し」といった情報の発信。「行政が発表する情報」「NPOや小売店が発信する情報」「報道機関がネット上で発信する情報」など確度の高い情報を、ネット上の地図に落としていった。

ネット上の地図に落とされた避難所情報
ネット上の地図に落とされた避難所情報

当初は、専用サイトを立ち上げることも検討した。しかし、流入経路が限定的になると判断。Facebookグループを立ち上げ、そこから地図に誘導する形に落ち着いた。閉鎖した避難所は色を変えて表示。外国人向けには情報を英訳するなど、「利便性を徹底的に考えた」(塚田さん)結果、地図の閲覧回数は、延べ342万回を超えた。

ネット上の地図に落とされた炊き出し情報
ネット上の地図に落とされた炊き出し情報

塚田さんは、「被災者自身が膨大な情報の取捨選択をするのは限界がある。発災直後ならなおさらだ」と強調。外からの「情報支援」の必要性を訴える。また、熊本地震で被災者への情報発信を目的としたサイトが乱立したことを念頭に、「いかに被災者にとって使い勝手の良い仕組みを作るかが重要」と指摘する。

「被災者に届かない情報には価値がない」 情報格差の是正も外からできる支援の一つ

今回の地震では、インターネットを使いこなせる世代と、そうでない世代とで、被災者間の情報格差も問題となった。いくらITを活用した仕組みを作ったとしても、スマートフォンを持っていない層は、有益な情報を得ることができない。実際、塚田さんたちも「被災者の避難生活格差が広がっている」との批判を受けたことがある。

塚田さん自身も、「被災者に届かない情報には価値がない」と言い切る。こうした格差をなくすため、「避難所」「炊き出し」「水」など地図の種類ごとに、地図を表示させるためのQRコードの「画像リスト」を作成した。各避難所の掲示板に貼り出し、情報を共有してもらう仕組みだ。

塚田さんらが作成した、地図を表示させるためのQRコードの「画像リスト」
塚田さんらが作成した、地図を表示させるためのQRコードの「画像リスト」

「画像リスト」は、コンビニエンスストアで印刷するためのネットプリントにも対応。スマートフォンがなくても、ネットプリント用の「確認番号」で印刷できるよう工夫した。

ITを用いた「コミュニティー構築支援」

大きな地震が発生した場合、停電や、ネット回線の不通が起きることも考えられる。こうした場合、外からの支援は期待できない。塚田さんは、「地域コミュニティーの構築支援も、外からできる支援の一つ」と指摘する。

ITを活用した支援の課題について、トークイベントで解説する塚田さん
ITを活用した支援の課題について、トークイベントで解説する塚田さん

地域内での繋がりが希薄になっている昨今。平時より、こうした繋がりを強化しておくことは、ITが使えない状況に陥った際の安全網となる。このコミュニティー構築の支援を、ITの力でできないか、と塚田さんは考えている。

もちろん課題もある。それは、東京などの大都市部でいかにコミュニティーを構築するのか、という点だ。こうした地域では、地方と比較して、どうしても地域内の関係が希薄となる。塚田さんは「今の日本列島は、いつ、どんな災害が起きてもおかしくない。各機関と連携し、早急に対策を考えたい」と危機感をあらわにしている。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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