Yahoo!ニュース

”外国人労働者”ー間に合わない「受け皿」担い手はどこ?

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
日本で働く親に呼ばれ来日する子どもは後を絶たず増加傾向が顕著だ(筆者撮影)

臨時国会が始まり、外国人にまつわる報道が急増しています。政府が推進しようとしている単純労働分野への外国人受け入れが可能となる、新たな在留資格創設等に対して慎重な議論を求める声も高まっています。

筆者は年間、100名前後の海外にルーツを持つ子ども・若者に対して日本語教育機会や学習支援機会を提供する専門のスクールを運営しています。新宿駅から約1時間という都内の西の端の方にありながら、毎年、東京都23区外の全域に加え、隣接する神奈川県、埼玉県などからも片道2時間近くをかけて通う子どもたちが後を絶ちません。

このことは、それだけ海外にルーツを持つ子どもや若者が日本語を学ぶ場がない、ということを示しています。外国人の増加に伴い、その家族や海外ルーツの子どもたちの教育体制の未整備は、首都圏はもとより、一部の自治体をのぞいた地方においても喫緊の課題となっています。

「帰らない」外国人

現在閣議決定された単純労働分野への新たな外国人人材受け入れのための在留資格は「特定技能1号」と「特定技能2号」に分かれています。「特定技能1号」は在留期限が通算5年間で、家族を日本へ連れてくることはできません。一方で、一定の熟練技能があると認められた場合には「特定技能2号」となり、在留期限が更新可能な上、日本へ家族を呼び寄せられるということで、事実上の移民政策であるという声も上がっています。

しかし、国際的な移民の定義を踏まえれば、ずっと以前から日本には多くの移民が暮らしてきたにもかかわらず、「見えないフリをしながら、適切な社会統合のための移民政策を欠いた状態であった」という方が、実態に近いと言えます。筆者がこれまでに支援をしてきた海外ルーツの子ども・若者、600名以上に対するアンケートでは、家族が「今後日本以外の国へ暮らすつもりはない」と答えた割合は97%に上っており、実際に「帰国」を選択するケースはごく限られたものでした。また、外国人の日本への定住・長期滞在志向の高まりは、以前からの全国的な傾向でもあります。

本来であれば、ずっと前にこうした事実と向きあい、議論を重ね、共に生きていくことを前提とした政策を採った上で、法や体制整備を進めておくべきでした。しかし、実際には今まで外国人労働者の家族や外国人生活者への対応は自治体にほぼ一任されてきたため、自治体の体力や意識によって格差が開き、おおむね固定化されている状況です。

移民政策不在のしわ寄せ―重要な日本語教育の担い手どこに

外国人の受入れに伴って、必ず必要になるのが「日本語教育」です。圧倒的な日本語社会である日本において日本語ができないことによる様々な困難は容易に想像することができます。日本語がわからない、あるいは日本語の力が十分でない場合、外国人自身が日々の生活の中で困るだけではなく、自治体窓口や病院や子どもが通う学校など、様々な社会的資源において必要なサービスをスムーズに提供できなくなります。

社会の中の「共通語」である日本語教育機会を十分に提供できないということは、それだけ社会全体のリスクとコストが増すことを意味していますが、拙記事『日本語教師の約59%がボランティアの限界―在留外国人の日本語教育担い手不足懸念』でもお伝えした通り、現在、留学生等を対象とする日本語学校以外で日本語を教える日本語教師の半数以上はボランティアが担っています。教育委員会や国際交流協会等、学校・地域で活躍する日本語教師に限定すればボランティアの割合は約70%を超えます。

特に子どもの言語(日本語および母語)教育は、成長著しい時期の心身の健全な発達を左右し得る重要な分野であり、高い専門性と技術を要します。「未来の日本の担い手」を育てるという点や移民第2世代以降の社会統合という側面からも、その質を保障し、適切に投資してゆくことが重要となるはずですが、ボランティア頼みや学校の先生が専門外に知識なく対応するような状況が各地で見られます。

さらに悪いことに、こうした草の根で真摯に活動するボランティアの高齢化がじわじわと顕在化しており、「外国人受け入れ体制整備」の担い手不足は、少子高齢化の進む小さな自治体ほど深刻です。そしてそのような地域ほど、外国人人材を必要としている傾向にあり、法や体制整備を怠ってきたしわ寄せが表面化していると言えます。

「どのように、どれだけ受け入れるか」の前に考えなくてはならないこと

筆者は2010年から一貫して、いわば「外国人支援に関わる業界」に身を置いており、一般の方々よりも海外にルーツを持つ方々の現状やそれを支える側の状況に明るいのですが、そんな筆者から見ても現在の外国人労働者拡大に伴う一連の流れはあまりにも拙速であり、不安を感じざるを得ません。

「どのように、どれだけ受け入れるか」「いかに不正を防止するか」等といった入り口と管理強化に目が向きがちですが、たとえ期間限定であったとしても、日本にやってくるのは労働力ではなく人であることを忘れてはならず、彼らの人権の保障や安心・安全に生きるための環境を最優先に議論・検討の上整備すべきではないでしょうか。その目途が立って初めて、入り口について考えるべきではないでしょうか。

今、ニュースを見ている方々の中には、どこか自分には関係のないこと、他人事と思う方もおられるかもしれません。しかし、今起きていることは日本社会の在り方そのものを大きく変え得ることであり、まさに歴史的な転換点であると言えます。

そしてその転換は、私たち1人1人の生活そのものに直結する「自分ごと」に他ならず、市民レベル、井戸端レベルでの議論を欠かせません。ぜひ今後も関連報道などに注目し、家族や友人、恋人など身近な方々と意見を交わし考えを深めていただきたいと思います。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

田中宝紀の最近の記事