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お父さん、お母さんといっしょに暮らしたかった―外国にルーツを持つ「呼び寄せ」の子どもと家族再統合

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
実親と国をまたぎ、長期に離れて暮らした経験を持つ子どもたち。適切なケアが必要です(写真:アフロ)

先日、文部科学省が発表した、全国の公立小学校に在籍する日本語がわからない子どもたちについての最新の調査結果が話題となりました。その数、外国籍と日本国籍合わせて40,000人を超え、子どもの日本語教育の課題は、大手メディアなどでも取り上げられていました。

外国にルーツを持つ子どもたちについてメディアで取り上げられる際は、どうしても分かりやすい課題に着目されがちです。たとえば、日本語がわからないがために、勉強についていくことができず、結果として高校進学率が60%前後にとどまってしまう、というような教育上の課題は、文科省の調査発表のタイミングに合わせて注目が集まりました。

一方で、国を超えて移動する家族とその子どもたちには、言葉の壁や教育機会の不足と言った課題以外にも直面する困難があります。その困難は、家庭の中で起こることから、なかなか周囲に気づかれることがなく、支援の必要性も認識されづらいものです。

「呼び寄せ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

「呼び寄せ」とは、外国人の親御さんがわが子を親戚などに預けて来日し、その後日本での生活基盤ができたり、子どもの教育的な節目(小学校修了、中学校修了時など)で、日本で共に暮らすためにわが子を日本に呼ぶことです。

筆者の運営する現場で出会う子どもの半数以上はこの「呼び寄せ」と呼ばれる子どもたちであり、「親と同時期に、日本へやってくる」子どもの方が珍しい存在です。呼び寄せの子どもたちとは、呼び寄せられて来日した直後に出会うこともあれば、数年後に出会うこともありますが、こうした子どもたちの共通の経験は、

「実の親と国をまたいで離れ暮らした経験がある」

ということです。

離れて暮らしている間、外国人保護者の方々は日本で昼夜問わずに働き、必死に暮らしを立て、わずかな収入の中から多くを送金し、わが子を預けている親戚のみならず、母国に暮らす親族全体の生活の面倒を見ていることも少なくありません。

多忙で金銭的にギリギリの生活をしている方もおり、わが子に会うため帰国することが叶わないということも珍しくない中で、生まれてすぐに親戚に預けられた子どもが、中学生になって呼び寄せられるまで、一度も実両親と会ったことがなかったというケースもあります。

親子が離れて暮らす間に預け先の親戚から丁寧に養育され、親御さんが日本で身を削って送金するお金で十分な教育を受け、健やかに成長し来日する子どもたちもいる中で、残念ながらそういう状況にはなく、さらに親御さんと離れ寂しい思いをしてきた子どももいます。

「この子がこんな子だったなんて」

やっと共に暮らすことができるようになり、「呼び寄せ」として来日した子どもたち。その成長を、親戚から聞いてはいたものの、実際に会ってみると想像していたわが子とは違っていたことで、親御さんが驚くことがあります。

「学校にはちゃんと行っているって聞いてたんだけどね、こんなに勉強ができないなんて…」

これは南アジアのある国から十数年前に来日する際、当時親戚に託してきた我が子の学習の状況を呼び寄せ後に初めて知った母親の言葉です。このお母さんのように、成長したわが子に再会してみたら、親戚からまったく知らされていなかった事実に気づき、困惑することも珍しいことではありません。

子どもたちにとっても、戸惑いは同じ

ひさびさに実の親と再会した子どもたちにとっても、戸惑いや不安は同じです。

実両親の元に呼ばれた子どもたちであれば、それでも家庭の中で母語での会話ができ、少なくとも意思疎通をはかることは可能です。日本社会の様子がわかってきたり、日本語が上達したり、新しい学校になれたりするうちに「家族」の絆を再び深め愛情豊かに暮らしている子も少なくありません。

一方、実の父母が離婚し、日本人男性と再婚した母親に呼ばれた子どもなどは、新しい“お父さん”である日本人男性や、その人との間に生まれた父親の違う弟や妹との関係構築からスタートしなくてはなりません。

さらに、家庭内の主たる言語が日本語となっているケースでは、家庭の中ですら言葉が通じず、安心できない環境となってしまう場合もあります。親子の間に気づかない内に生まれていた溝や、新しい家族との関係構築がスムーズに行かず、家出を繰り返したり、強い反抗が見られたり、ひきこもり状態に陥る子どももいます。

ただ、子どもたちに話しを聞くと、言葉がわからなくてもお父さん、お母さんと一緒に暮らせるのを心から待ち望んでいたと言いいます。その期待と現実とのギャップは、特に思春期に入って呼び寄せられる子どもにとっては辛いものでしょう。

「やはり一緒には暮らせない」

久しぶりに会うわが子にどう接したらよいかわからず、親御さん自身が悩みを抱え込んでしまう。

再婚した日本人男性とわが子との関係作りがうまくいかない。

我が子が日本語がわからず、日本の学校生活で困難を抱えている。

そんな状況に直面した保護者の中には、共に暮らしたい気持ちはあるものの、「やはり一緒には暮らせない(暮らさない)」と決断し、子どものみを再び母国の親戚の元に帰す選択をする家庭もあります。

異国で新しい家族を築く親と、そこになじめずに再び親戚の元に送り返される子どもや、義務教育が終わるとすぐに家を出て、友人のところを転々としながらアルバイトをし、家族の元にはほとんど帰らなくなった子ども…そんなケースに出会うとき、家族の「再統合支援」の必要性を強く感じます。

日本という「外国」で迎える、家族としての”再”スタートを支えることはできないだろうか

外国にルーツを持つ呼び寄せの子どもたちと、その家族に対する再統合の支援は、実の親と離れて暮らしていた期間を経て、日本という「外国」において、スムーズにその生活をスタートさせること。そして、親子の関係が再びまたは新たに構築され、愛情を持って支えあうことができるようにすること、を目指すようなものが必要とされるでしょう。

そうした支援を専門的に行っていくためには、多様な専門家や地域の方々による関与が必要となる、繊細な領域に見えるかもしれません。実際に専門家の支援が必要なケースもあるとは思いますが、子どもたちや外国人保護者の身近に暮らす地域で、できることはないでしょうか。

たとえば、「外国人保護者は子どもの教育に関心がない」と言われることがありますが、もしかしたらそれは、離れて暮らしてきた期間、子の学習状況が把握できず、関与の糸口を見いだせないだけなのかもしれません。

あるいは、日本語がわからずに来日した児童の「お父さん」として学校が連絡を取る日本人男性は、その子どもと外国語でコミュニケーションが取れておらず、正確な状況は把握していないかもしれません。

こうした呼び寄せの子どもとその家族に関する「気づき」から、必要とされる支援を見出すことはできないでしょうか。現存する社会的資源…学校やボランティア団体、子ども家庭支援センターやソーシャルワーカーなどが「呼び寄せ家庭」に特有の課題に気づき、配慮を重ねてゆくだけでも、変化を生み出せる可能性はあります。

外国にルーツを持つ「呼び寄せ」の子どもたちが、心待ちにしていたお父さん、お母さんと共に暮らせる日々を安心して送ることができるよう、日本語教育以外や学習支援以外の取り組みが少しずつでも広がっていくけばと願っています。

(*)家族再統合は、児童虐待などの文脈において使われることが多く、その場合は必ずしも親子が離れて暮らしていた状態から、共に暮らすことを目指して行われる支援に限らず、多様な形態が存在します。この記事では、「外国にルーツを持つ呼び寄せの子どもにおける家族再統合支援」としてこの言葉を扱いました。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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