宿泊特化型ホテルと差別化

ビジネスホテルという表現が相応しいか否かは別として、宿泊特化型ホテルというカテゴリーでいえば、ドーミーインは人気ブランドのひとつとして高い知名度を誇っています。人気の理由として筆頭にあげられるのが“天然温泉大浴場”ですが、大浴場や温泉に限らずサウナ、水風呂の完備という点からは、最近のサウナブームにあってサウナファンにも愛されるホテルチェーンであります。

宿泊特化型ホテルと先述しましたが、その意とするところはホテルの基本的な機能である宿泊サービスを提供するものの、シティホテルにあるような宴会やウエディングといったサービスはなく、供食でいえば朝食のみの提供が基本ということになります。ビジネスホテルを例とするような宿泊特化型ホテルはインバウンド活況下で競合が激化したカテゴリーとして認知されてきました。

ドーミーインPREMIUM神田では日本蕎麦の実演メニューも(筆者撮影)
ドーミーインPREMIUM神田では日本蕎麦の実演メニューも(筆者撮影)

競合が起きると差別化は必然となりますが、提供するサービスの幅は広くない業態なので差別化のポイントも限られます。ドーミーインは提供される無料サービスの多さも特徴としてあげられますが、“夜鳴きそば”という夜食ラーメンは高い支持を受ける中、こうした無料サービスは差別化という点からも提供するスタンスはよく理解できます。

さらに、差別化という点からビジネスホテルが朝食に注力するケースは多々見られます。まさにビジネスホテル朝食合戦の様相を呈してきたここ数年でしたが、数多ある大規模ホテルチェーンの中でもドーミーインの朝食人気は広く知られています。筆者もドーミーインの人気メニューといったアプローチで情報発信してきましたが、支持される秘密がメニューはもとよりそのオペレーションにもあるのではないかと考えるに至りました。

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ドーミーイン朝食とオペレーション

ドーミーイン旭川の海鮮コーナー(筆者撮影)
ドーミーイン旭川の海鮮コーナー(筆者撮影)

そんな考えを改めて深めるきっかけになったのが、今年の冬に体験したドーミーイン旭川での朝食でした。ドーミーインチェーンでの朝食体験も多い中、これほどまでに完璧なオペレーションは見たことがありませんでした。席への案内にはじまり1分毎にはチェックしている料理とその補充、スタッフ全員が瞬時も手を休めることない軽やかかつアクティブな動きは会場全体に躍動感をもたらしていました。コロナ禍の省人力でオペレーションに疑問符を抱くようなブッフェも散見される中、特筆すべき素晴らしさを感じました。

早速、ドーミーインを運営する株式会社共立メンテナンス本社を訪れました。対応いただいたのは、ドーミーインをはじめグループ全体の料飲責任者であるホテル料飲部部長の髙柳陽造さん。

ホテル料飲部部長 髙柳陽造さん(筆者撮影)
ホテル料飲部部長 髙柳陽造さん(筆者撮影)

まず、聞いたのが旭川で体験したことに端を発した、今回の取材テーマであるオペレーションの秘密について。オペレーションという点でまず挙げられるのが、社員を1名から2名を配置し日々のミーティングを行い、スタッフの接客や料理提供の改善を行っているということでした(※社員不在の事業所は支配人を中心にミーティングが行われる)。

円滑なオペレーションに向けてということでいえば、新規店舗開業計画の段階から既に工夫が詰まっています。ここに何を置くのか、提供はしやすいか、会場を見渡せる配置か、食材をチェックするルーティンか・・・などなど、豊富な経験から図面を起こすとし、当該店舗で想定されるビジネスユース、観光ユースの割合なども含めゾーニングや献立も検討されていきます。

ここまでの準備は図面上といった域を出ませんが、いよいよプレオープンが近づくと実際にスタッフのオペレーションが決められていきます。さらに開業が近づくと料理が全て並べられ、本社の事業部から現場スタッフ全員でゲストの動線を何度も確認するといいます。たとえば、5人並んだ時にはどうなるのかなど、想定される様々なケースでロールプレイングが続けられ修正がなされていきます。

オペレーションにもドーミーイン朝食人気の秘密が隠されている(筆者撮影)
オペレーションにもドーミーイン朝食人気の秘密が隠されている(筆者撮影)

実際の営業での朝食提供に際しては朝5時に準備がスタートします。まず、テーブルの拭き上げや消毒を徹底、続いて炊飯、味噌汁など進められ、オープン直前には揚げ物などが用意されていきます。準備に要する時間は1時間半ほど。ドーミーインに限らずブッフェの一般論として気になるのが残った食材についてですが、これは想定内というかドーミーインに関して言えばスタッフのまかないになるといいます。

食材廃棄の問題にも取り組む

食材の廃棄については共立メンテナンス全体でかなりアグレッシブに取り組まれているようです。日々の朝食でいえば、喫食予定のゲスト数はリアルタイムで計算できるため、提供時間終了へ近づくにつれて残りの食数が共有され、過去の膨大なデータ分析からメニュー毎に算出されたピックアップ予定数を鑑み対応するといいます。

廃棄率を減らすことはSDGsという点はもとより、コストという点からもより質の高い朝食を提供するきっかけにもなるわけで、徹底したデータ蓄積が続けられているのは納得できます。さらに驚くのは、前記したピックアップされる想定数から、メニュー毎にどのくらい出しておくと“見た目もキレイなのか”という点まで研究されているという点。

こうした料理の出し方、盛り付け、ディスプレイなどにはどのような工夫があるのかについては、器と料理の見た目を意識しつつ、ライティングも料理の見栄えが良くなるように設置するのは当然として、熱い物は熱く、冷たい物は冷たく、なるべく出来立ての提供と、和食、洋食のラインを分けゲストに分かりやすさと取りやすい配置もかなり配慮されています。

メニューの決め方

ここまで、オペレーションやディスプレイなどについて見てきましたが、肝心のメニューについてはどうでしょうか。髙柳さんによると、まず本社のフーズ開発にてベースを作り、オンシーズン・オフシーズンといった年間を通してのメニュー提案がなされるとし、女性が多い店舗ではデザートを増やし、ビジネスユースの場合はがっつり系を充実させるといった点にも気遣い、旬の食材を使用した季節メニュー、イベントメニューの提供などフレキシブルかつスピーディーに実現されていくとのこと。

季節のデザートも人気(筆者撮影)
季節のデザートも人気(筆者撮影)

また、年に数回現地からのプレゼン機会(社内イベント)もあり、こういうメニューを出したいといった声が反映されます。現地の主婦の方々など朝食スタッフとして入っている場合もあり、ご当地ならではの提案が試される貴重な機会といいます。コロナ禍はホテルに大打撃を与え続けた一方で、新たなアイディアや工夫を生み出してきましたが、ドーミーインの朝食でいえば、各店で見られる“小鉢横町”は飛沫感染防止という観点からスタートした提供方法でいまや人気となっています。

お客様に残念な思いをさせないように・・・

とにかく最重視しているのが「お客様に残念な思いをさせないよう心がけている」ことと髙柳さんは話します。朝食付きプランというように、朝食付き宿泊料金がホテル料金の指標という人もいるかもしれません。ドーミーインも他のチェーン同様、繁閑で宿泊料金は変動するところ、ADR(平均客室単価)が高い時は朝食の内容を充実させるなど、ゲストが支払う宿泊料金と満足度向上のコントロールも気遣うとします。

ホテル運営的にみた場合に、朝食の手を抜かずにクオリティーを高める努力を続けていくことにより、長期的にみた場合にADRも上昇していく傾向になるというのは、ドーミーインに限らず人気朝食を提供する宿泊特化型ホテルでよく耳にする話です。とはいえ完璧な答えというものはなく、価格に見合った内容を提供すべく日々のサービスチェックはテーマといいます。

人気の“味めぐり小鉢横町”はコロナ禍で誕生したアイディア(筆者撮影)
人気の“味めぐり小鉢横町”はコロナ禍で誕生したアイディア(筆者撮影)

運営という話に戻りますが、ビジネスホテルの朝食でいえば、専門業者への外部委託というケースが割と多くとみられます。ドーミーインではごく一部を除き直営でやっていますが、マルチジョブという考えもあり、ひとりのスタッフがフロントもやり朝食もやることで、フロントで朝食のことを聞かれても対応できるというような情報共有のメリットがあるとします。

冒頭で宿泊特化型ホテルの供食は基本的に朝食のみと記しましたが、ドーミーインでは既述のような夜鳴きそばという無料夜食ラーメンも提供しています。これもまたマルチジョブによるものですが、ドーミーインのオペレーションを見るに、夜鳴きそばはある意味で朝食から派生した供食とも捉えることができそうです。

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ホテルには様々なチェーンブランドがあり、その店舗数も膨大であることから、さらに数多ある朝食メニューを取材し広く取り上げることは困難という点はあるものの、今後、有名チェーンやキラリと光る独立・小規模系を中心として、そのオペレーションなどについても取材を広げられればと考えています。