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4月2日は何の日?セサミストリートにジュリア登場!エルモの神対応に学ぶ、自閉症児との上手な遊び方

竹内弓乃特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/公認心理師
(写真:アフロ)

4月2日は、何の日かご存知ですか?

平成19年の国連総会にて、カタール王国王妃の提案で決議された「世界自閉症啓発デー(World Autism Awareness Day)」が4月2日で、世界各地で自閉症の理解を促す取り組みが行われています。

わが国でも、東京タワーなどのランドマークが青色に染まり、各地で啓発イベントが開催されます。

世界自閉症啓発デー日本実行委員会公式サイト

さてそんな中、米子供向け人気番組「セサミストリート」に、ジュリアという4歳の自閉症の女の子のキャラクターが登場することが発表され、話題になっています。

米セサミストリートに自閉症の新キャラクター、来月デビューへ

自閉症啓発デーのある4月は、自閉症啓発月間と言われ、ジュリアの登場も4月中となるそうです。

子供達が幼少期から目にする番組の中で、自閉症という少し理解されにくい障害が身近なものとして扱われ、子供達も自然に障害がある子がいることを知ったり、関わり方を学んだりできることは素晴らしいですね。

番組が「自閉症」と明言することの意義

日本でも、幼児向け番組には本当に個性豊かなキャラクターがたくさん登場します。中には、少し暴れん坊だったり、恥ずかしがり屋で人と話すのが苦手だったり、特定の物事への拘りが強い不思議なキャラクターなども見かけます。障害をよく知る人から見ると、「このキャラクターは実は自閉症がモチーフになっているのかな?」と思うものもあります。しかし、「○○ちゃんは自閉症があるんだよ」などと明言する台詞は、まず出てきません。障害は何となく気まずい話題という雰囲気があるからかもしれません。いろんなお友達がいるけれど、みんなちがってみんないい!というメッセージの域を出ないものがほとんどではないでしょうか。

セサミストリートでは、エルモがジュリアを友達に紹介します。

話しかけても目を合わせず返事をしない彼女について、エルモはこう説明します。

“Julia sometimes does things differently. Because Julia has autism.”

(ジュリアは時々やり方が僕らと違うんだ。ジュリアは自閉症があるから。)

さらに、短い言葉で話しかけ、答えを少し待ってみるようにと具体的に関わり方のアドバイスをします。

まさに重要なのはこの点で、障害をきちんと扱うことは、具体的なサポートにつながるのです。有効なサポート方法というのは、障害がある当事者にとってだけでなく、彼らと関わりたいと思う周囲の人みんなにとって、世界を広げるチャンスになります。

どうやって接すればいいの?

自閉症などの発達障害については、少しずつ認知が広まり、その特徴についてはいろいろな情報が得られるようになりました。私も、こちらの記事で自閉症の基礎知識をまとめました。

誰もがその特徴を持っている?「大人の発達障害」で注目された自閉症の基礎知識

しかし、では実際にどう接すればいいのか?と言われると、具体的には分からないという人が多いのではないでしょうか。

米疾病管理予防センターによると、自閉症は68人に1人の確率で発症するといわれます。明確な診断には至らなくても、何らかの支援ニーズのある子供はもっとずっと多いので、皆さんの身近にも必ず特別な支援ニーズのあるお子さんがいるのではないでしょうか。自閉症がある子との関わり方は、私たちみんなが身につけておいてよいことだと言えます。

先の例で、エルモが友達に伝えた「短い言葉で話しかけ、答えを少し待ってみる」というのはとても基本的なことですが、エルモは実はもっとすごいスキルを持っているのです。

放送に先立ち、youtubeのセサミストリートの公式チャンネルには、既に複数の動画が公開されています。その中には、エルモとジュリアが、それぞれお気に入りのお人形で「いないいないばぁ(Peek-A-Boo!!)」をして遊ぶ動画がありますが、このエピソードの中のエルモの関わりが、非常に優れています。是非ご覧ください。

本記事では、自閉症がある子供との上手な遊び方、特に、コミュニケーションを引き出すコツを、エルモの神対応を参考に紹介していこうと思います。

遊びの中でコミュにケーションを学ぶのは、自閉症児に限ったことではありません。子供と楽しく遊びながら、コミュニケーションをとる方法を知りたい方は、ぜひ以下の4つのポイントを実践してみてください。

〜上手な遊び方その1〜

いろんな遊びをやって見せ、響かなくても挫けない

自閉症がある子は、遊びのレパートリーが少なく、自分で発展的に遊びを広げることが苦手な場合があります。でも、その子の遊びに寄り添うだけでは、基本的に一人遊びか本人の予定調和の遊びが多いので、ダイナミックなコミュニケーションには発展しません。

そこで、自閉症がある子と遊びたいときには、色々な遊びをそばでやって見せて、興味を持ってくれるのを待ちます。百聞は一見にしかずで、言葉で「あれやる?これやる?」と尋ねるよりも、視覚的にやって見せてアピールするほうが、自閉症がある子供には分かりやすいことが多いです。この作業を、「モデリング」と言います。

ここで大事なことが、やって見せて無視されても決して挫けないこと。10種類の遊び方をやって見せて、1種類見てもらえれば万々歳、ぐらいの気持ちで、構わず色んな遊びをやって見せましょう。

エルモはこの「モデリング」を完璧に実践しています。

お気に入りの人形で一人で遊んでいるジュリアのもとにエルモがやってきて、声をかけます。ジュリアは目を合わしませんが、「エルモ」と返します。エルモは、自分が持っているデイビッドという人形を使って、「こんにちは!フラッフスター!(ジュリアのお気に入りのウサギの人形)」とごっこ遊びを持ちかけますが、ジュリアは無視。自閉症がある子は、ごっこ遊びが苦手な場合があるのと、興味が湧かないことに対して、お付き合いだけで応じるようなことはあまりありません。でも、エルモはまったくめげずに、今度はお人形で楽しそうにかくれんぼを始めます。

「デイヴィッドはどこかな~?Peek-A-Boo!!」

その様子にジュリアがチラリと視線を向けます。2つ目の遊びで興味が引けるなんて、エルモはさすがです。

〜上手な遊び方その2〜

モチベーションの見極め

ジュリアがチラリと見たのを見逃さないのが、エルモの素晴らしいところです。これは自閉症に限ったことではないと思いますが、興味の持ち始めは、大体視線で分かります。この刻一刻と移り変わる子供の興味やモチベーションを、いかに的確に瞬間的に捉えて次のアクションを起こせるかが重要です。

エルモはその瞬間を逃しません。もう一度、Peek-A-Boo!!をやります。今度はジュリアは声をあげて笑います。モチベーションを掴んだと確信したエルモは、最後のだめ押しで、遊びをさらに展開させて盛り上げます。「デイヴィッドはどこかな〜?」と人形をジュリアの後ろに忍ばせ、そこからPeek-A-Boo!!

パターンを作ってから少しひねるのは、子供の気持ちをつかむ常套手段です。エルモはジュリアの気持ちを鷲掴み。

これでやっと舞台は整いました。モデリングを繰り返し、モチベーションも絶頂です。

〜上手な遊び方その3〜

子供からコミュニケーションを引き出す

コミュニケーションというのは、相互作用です。他者からの働きかけに応じたり、逆に他者に働きかけて応答を得たりする繰り返しです。これが一方通行になりがちなのが、自閉症がある子供たちの一つの特徴と言えます。ジュリアも、独り言を言ったり、相手の言葉を無視したりします。彼らはコミュニケーションをとりたくないわけではなく、そのやり方が分からなかったり、癖が付いていなかったりすることが多いのです。ですから、遊びの中でうまくモチベーションを高めて、コミュニケーションを引き出すというのは、彼らの発達にとっても非常に有意義な機会なのです。

さてエルモは、ついに決死の発信をします。「フラッフスター(ジュリアのウサギの人形)はどこかな〜?」ジュリアは少し戸惑いますが、エルモはその先を言わずに我慢強く待ちます。すると、ジュリアが「Peek-A-Boo!!」と自分の人形で答えました。コミュニケーションが成立しました。エルモの働きかけに、ちゃんと応じたのです。

この、条件を整えてその先を言わずに少し待つことを、支援の現場では「ディレイをかける」と言ったりします。ドキドキの数秒間を経て、子供が言葉を発してくれた瞬間、あるいは何かアクションを起こしてくれた瞬間は、本当にその場が幸せと安堵と感動に包まれます。

〜上手な遊び方その4〜

他者と息を合わせる経験を

ここまでくると高度すぎて、よほどセンスのいい人でないとできないと思いますが、エルモの神対応はとどまるところを知りません。

ジュリアからコミュニケーションを引き出した後、今度は「デイヴィッドとフラッフスターはどこかな〜?」と2人ともの人形の名前を言います。2人は息を合わせて、Peek-A-Boo!!と自分の人形を出し合います。

自閉症がある子は、他者の動きに自分の動きを同調させたり、空気を読んだり、息を合わせるような活動が難しいことが多いです。そのような経験を楽しむ機会を設定することがそもそも支援者のスキルとしてとても高度です。「同時に動いてね」「私のことよく見て合わせてね」など言葉で教えてもピンときませんし、楽しそうでもありません。2人の遊びがここまで発展してきた経緯があって初めて、一緒にPeek-a-Boo!!ができたのです。

いかがだったでしょうか。家族や親戚に、発達障害がある子がいる、保育園や幼稚園で、話しかけても返事をするのが難しい子がいる、ご自身のお子さんの発達が気になる・・・こんな場合には、ぜひエルモの上手な遊び方を試してみてくださいね。

可愛いジュリアのこれからの活躍からも目が離せませんね!

特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/公認心理師

慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程修了、横浜国立大学大学院学校教育臨床専攻臨床心理学コース修士課程修了。ある自閉症児とその家族との出会いをきっかけに学生セラピストの活動を始め、大学院にて臨床研究を重ねる傍ら、2009年ADDS設立。親子向け療育プログラムや支援者研修プログラム、事業者向けカリキュラム構成システムの開発などに携わる。国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発事業(JST-RISTEX)「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」プログラムアドバイザー。NHK「でこぼこポン!」番組委員。

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