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「有権者は本当に馬鹿なのか?」政策的な関心や意向が反映されない横浜市長選から考える

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事
(写真:ロイター/アフロ)

「カジノ反対」「給食実施」が多数を占めながらその反対の現職が勝利

横浜市長選が昨日7月30日投開票で実施された。

自分自身は横浜市民でもなく、有権者が選んだ選挙結果にとやかくいうつもりはない。

またタイトルに「有権者は本当に馬鹿なのか?」と掲げたが、これは「有権者は馬鹿だ」と言いたいわけではなく、「有権者は馬鹿だ」と言われる事があるが、本当にそんな事があるのか、という事をキッカケとして、今回の横浜市長選挙を題材に有権者は何で投票先を判断しているのか、そもそも首長選とは何なのか等と考えてみようというものだ。

考えてみようと思ったキッカケは、投開票日に放送されたテレビ神奈川で出されたという出口調査の結果である。

今回の横浜市長選挙において、現職である林文子候補は、これまでの実績を訴えると共に、幅広い政策をくまなく提示しての選挙戦となる一方で、対抗馬となった長島一由候補と伊藤大貴候補が政策の中心として位置付けたのが「カジノ反対」と「中学校給食の導入」だった。

こうした事から、対立候補が設定した「争点」ではあるが、この2つの政策に対する判断が、横浜市長選挙の「争点」であるとしてメディアなども発信していた。

こうした中、昨日提示されたテレビ神奈川による出口調査では、「カジノ含むIR誘致について」は下図のように、6割程度を「誘致すべきではない」が占める結果となった。

図表: 横浜市長選挙出口調査「カジノ含むIR誘致について」

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出展: テレビ神奈川による出口調査

図表: 横浜市長選挙出口調査「中学校給食の導入について」

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出展: テレビ神奈川による出口調査

「中学校給食の導入について」についても6割を超える人が「給食を実施するべき」と答えているのだ。

結果は、林文子氏が598,115票、長島一由氏が269,897票、伊藤大貴氏が257,665票ということになった訳だが、得票率で見れば林53.1%、長島24.0%、伊藤22.9%であり、出口調査の「誰に投票したか」ともほとんどあっており、少なくともサンプルとして偏っていたわけではない事も分かる。

今回の横浜市長選挙について言えば、結果的には「カジノ反対」と「中学校給食の導入」の候補が2人いた上、票が別れてしまったので、構造的にもギリギリだったかもしれないが、少なくともこの2点が本当に有権者が考える横浜市長選挙の争点であったとするのであれば、少なくとも林候補が過半数を得て当選するというのはおかしな気がしてならない。

図表: 横浜市長選挙出口調査「誰に投票したか」

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出展: テレビ神奈川による出口調査

なぜ有権者の政策に対する思いと、投票判断がズレるのか

争点と言われた2つの政策に対する住民の思いと、投票先としての候補者の選択はなぜここまで極端にズレてしまったのだろうか。

この原因についてはいくつかの可能性が想像はできる。

1つ目は、対立候補者たちとメディアが作ったこの「争点」は、まさに現職と対立候補との「違い」であり、対立候補者たちが争おうとしたポイントではあったが、有権者である横浜市民の方々が思っている「重要ポイント」としての政策ではなかったという可能性だ。

いみじくも林市長は選挙前の定例記者会見の際にも「カジノ誘致が争点になるとの声がある」と問われたのに対し、「一つのことを争点にするのは、あまりにも無理がある」と答えており、選挙用の自身のホームページの中では、最も上に「子育て」を掲げた上で、「高齢者福祉」、「女性活躍」「安全安心」「経済産業政策」と幅広い政策が並ぶ。

一般に現職に新人が挑む場合、争点を明確にして挑む事が選挙手法として言われているが、対立候補としてはこれが機能し切らなかったというケースだ。

争点が別のところにあったという可能性の場合、「では何が争点だったのか…」という気もしないではないが、一応紹介しておく。

2つ目が、そもそも有権者は政策なんかで選んでおらず、特に地方選挙においては利権とシガラミによって投票しているケースだ。今回の横浜市長選挙の投票率は37.21%だったが、特に都市部における首長選挙は投票率も低く、その影響もあり、一般にシガラミのある有権者の投票する割合が大きくなると言われている。また、一昔前だと「とりあえず自民党に入れておけば大丈夫」みたいな事を言う人も一定数いたし、地方選挙だと現在でも「うちの会社は○○さんにお世話になっているから」、「うちの地域は○○さんだから」などと言う人がいたりもする。横浜市においてここまで顕著であることは考え難いが、一方で、有権者が政策で投票先を決めていないと考える先述の出口調査の結果も頷ける。

勝利した林候補のホームページには、各分野における政策課題について、現職らしくこれまでの実績と今後の政策が並べられていた。その意味では、「実績を評価して」と選んだ有権者の判断は、当然、「自分たちの争点に対する考え方」と「投票先」が異なるということも当然出てくるわけである。

3つ目は、争点と候補者の関係性が浸透し切らなかった可能性だ。

他の自治体の選挙でもよく見るケースだが、有権者が選挙に対する関心が薄い事もあり、候補者や支援するそれぞれの陣営は人生をかけて必死に伝えようとしているわけだが、駅頭でマイクで訴えれば「また選挙かうるさいなぁ」となり、チラシ渡そうとすると「ゴミを渡すなよ」と受け取ってもらえない…。新聞の地方面では取り上げられるが、地方面まで読まない読者も多い上に、そもそも新聞をとっていない。テレビ神奈川など地方局の番組を見ない…とやっていくと、一般市の市長選挙の選挙期間の7日間に比べ政令市の市長選は2倍の14日間あるわけだが、横浜市の面積は437.4 km2と広く、有権者数が300万人に上る事を考えれば、有権者に情報が届ききっていない可能性はある。

こうした状況の中では、まず「カジノと中学校給食が争点なんて知らなかった」という事が出てくるわけだから、当然、カジノの賛否を問われたら「反対」、中学校給食について聞かれたら「必要」、でもそんな事知らなかったので「林さんに入れちゃった」という事が起こり得るわけだ。

こういう人たちに限って、後になって「カジノの事とか学校給食の事とか知ってたら林さんになんか入れなかったのに」等と言いだしたりするわけだが、有権者が首長を選ぶ機会は4年に1回しかない。当然取り返しのつかない事になるのである。

市川市では、全国で政務活動費が問題になる中、政活費で切手大量購入換金疑惑の議員がトップ当選

こうやって文字にして見ると「こんな事が本当にあるの」と思う人もいるかもしれないが、自治体における地方選挙では似たり寄ったりの事例が意外にあるように感じられる。

先日地元市川市の市議の不祥事についてコラム『中1女子へのわいせつで市川市議逮捕、政務活動費での切手大量購入換金疑惑など不祥事が続く市川市議会…』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20170714-00073277/)を書いた。

このコラムの中でも「政務活動費を清算している際、小泉文人議員から『そんな面倒くさいことをする必要はない。切手を買って換金すればいい。みんなやっている』と言われた」といった証言も紹介したが、市川市ではこの政務活動費切手大量購入換金疑惑の中心と言われている市議がこの問題が指摘されている最中に行われた2015年の市議会議員選挙でトップ当選しているというから、「大丈夫か?」と心配になる。

実際にその市議に投票したという有権者に聞くと、「そんな切手問題があったなんて全く知らなかった。知っていたら投票しなかった」という方が多くいるが、選挙というのは当選してしまえば4年間の任期は安泰になる。その時に評価をしなければ4年間は市民の税金がそこに使われる事になってしまうのだ。

もちろんこの背景には、こうした問題を有権者に浸透しきれなかった問題もある。

その意味では単に「有権者が悪い」というだけの問題ではないようにも思うのだ。

特にこうした「地域課題」については、キー局で情報が伝えられる事もあまりなければ、新聞でも掲載されるのは地方面という事になる。市の広報で伝えられる事も、ホームページで大きく紹介される事もなければ、なかなか市民が情報を知る機会がない事も大きな問題だ。

そのためにも、こうした地域の課題については、選挙の際に限らず、問題を把握する議員たちや、この事を認識した市民たちが、さらに知り合いにと情報を伝えていく必要があるのではないかと思うのだ。

このコラムを読んだ方の知り合いにも市川市民がいれば、是非「大丈夫か?」「知っているか?」と伝えてあげて欲しい。

首長選挙の実績評価は前回の公約とその実現も評価しなければならない

林市長のホームページの政策部分で実績として一番上に書かれているのが「保育所等定員の増加」にいてである。

つまりこの待機児童対策について実績を最も有権者に伝えたかったのだろう。

今回の選挙は別だが、林市長と言って横浜市民以外の外の人たちがまず頭に浮かべるのが、「待機児童ゼロ」という発信だったのではないだろうか。

林市長は選挙公約で「待機児童ゼロ」を掲げて戦い、実際に2013年4月には「待機児童がゼロ」になった事を大々的に発信していた。

実際この対応は大きく評価されるべきものであると思う。

ただ一方で、最近は「待機児童ゼロの横浜市なのに保育園には入れない」と言った批判がされるようになってきた。

2017年4月の最新データでも横浜市の提示する数字では「待機児童2人」となっている。

ゼロではないが、極めて少ない待機児童数であり、人口規模から考えればゼロだと言っていいほどではないかと思う。

しかし一方で、横浜市で保育園に入りたいと申請した「保育所等利用申請者数」65,144人に対して、保育園に実際に入れている「利用児童数」は61,885人であり、保育園に申請しても入れなかった「保留児童数」は3,259人にも上っており、この数は、むしろ全国で最も多い数という事になる。

「待機児童ゼロ」と言ったキャチフレーズでPRされた実績を覚えていて現職の市長に投票したという人にとっては、自分たちが知らない所で、「最も保留児童が多い市にしてしまっている市長に投票」した事にもなってしまっている事になるのだ。

私の住む市川市ではさらに酷く、現職の大久保市長は1期目の8年前の市長選挙でマニフェストのトップに掲げたのが「待機児童ゼロ」だったが、その状況は横浜市以上に酷く、行政が表向きに出している「待機児童数」で全国ワースト3になっているという状況だ。

市川市の待機児童問題については『自治体別待機児童数を厚労省発表。ワーストは世田谷、那覇、市川…3位の市川市は実質1,110人で落第点』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20170417-00069997/)も参考までに。

2つ目に掲げた「小中学校の給食費無料化」は就任直後にできないと撤回する有様。3つ目に掲げた道路交通網の整備についてはその第1に掲げられていたのが「京成線の地下化」だったが、前市長が勧めてきたこの問題も「実現不可能」との結論を出したのも現市長だったりする。

つまり、主要政策のほとんどを実行できなかったわけだが、自民党、公明党、民主党、日本維新の会、社民党、連合千葉が推薦。市民ネットワークが支持をして、実質的な対抗馬と言える候補者が出ず、この大久保市長を2期目も当選させている。

こうした、有権者からすれば、「選択肢すら与えられない選挙」というものも地方選挙には数多くある。

有権者自身が、自分たちの街に関心を持ち、政策課題を共有した上で、将来の街のあるべき姿を描き、それを実行してくれる候補者が誰なのかを考えなければならないのはもちろんだが、政治の側もまた、「現職が選挙に強い」というのはもちろんだが、そうした損得だけではなく、その自治体に住む市民にとってどういう候補者が必要なのかをしっかり考え、受け皿としての選択肢をしっかりと提供していく事も重要なのではないかと思う。

多くの方々が政治不信になっていると言われている中で、政治の責任は大きい。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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