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「都民ファースト」は「偽装民進党」か「偽装自民党」かそれとも「新たな第三党」か【全候補者一覧】

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

民進党予定候補等38人中14人が都民ファーストに

小池新党については、これまでも高橋亮平(一般社団法人政治教育センター代表理事・NPO法人 Rights代表理事・元中央大学特任准教授・元市川市議・元市川市長候補)ブログでは再三書いてきており、1月には、『単独候補で30議席は取れる小池新党も、自民を切って民進と組むと20議席を割る可能性』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20170126-00066989/)で、「結果だけを考えれば、民進党の内定候補者の中で小池氏の考えに近い公認内定予定の候補を民進党から引っこ抜く可能性もある。」、「「もはや民進党との仁義など……」と判断するようなことになると、都議選における民進党は大惨敗どころか、大阪同様、壊滅状況に陥る可能性まで出てくる。」、「民進党はこうした事態も想定しながら選挙戦略を構築していく必要性があるのではないかと思ったりするわけだ。」と指摘をしておいたのだが、絵を描いたように民進党はドツボにはまり、「離党ドミノ」に歯止めがかからない状況になっている。

図表: 元民進党の民進党・都民ファースト等予定候補一覧

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出典:筆者作成

民進党が都議会議員選挙に向けて公認予定候補としていたのは36人。

そのうち13人が既に都民ファーストの公認または推薦の予定候補に転じている。

都議選に向けて当初から民進党公認を得ようとしなかった2議員を合わせると民進党からの離党は15人に上る。

民進党の「離党ドミノ」や「〇〇人離党」といった報道は多いにも関わらず、具体的に誰が離党し、都民ファーストの公認と推薦を得たのはそれぞれ誰なのかという情報についてはネット上にも分かりやすく出ていないため、あえて今回はこうした部分を明確にした図を作成してみた。

民進党公認から都民ファースト公認へと華麗なる転身をしたのは、増子博樹 元都議、伊藤悠 元都議、田之上郁子 元都議の元職3人と、菅原直志 日野市議、内山真吾 昭島市議、森愛 元太田区議の元職も含めた区議市議3人を合わせた6人だ。

民進党から都民ファーストへということが大々的に報じられているが、実は民進党の現職都議はこれまで発表されている都民ファーストの第13次公認(5/3)時点で「公認」になっている予定候補は1人もいなかったりする。

一方で選挙における政党の関わりとして「公認」の次にウェートが重いものに「推薦」というものがあるが、この都民ファースト推薦には、中山寛進 都議、酒井大史 都議、小山有彦 都議、石毛茂 都議、島田幸成 都議、山下太郎 都議と、民進党の公認予定候補となっていた現職の都議会議員が6人、元職の滝口学 元都議を含めると7人、民進党の公認申請はしなかった石川良一 都議も含めると民進党関係の推薦予定候補は8人にも上る。

民進党都議の中には、民主党からの都議14人と、維新の党からの都議4人がいるが、現段階で維新の党からの合流組で都民ファーストへ行ったのは、民進党へ公認申請しなかった石川良一都議のみとなっている。

元みんなの党ということもあり、合流する可能性が高いのではなどとも言われていたが、みんなの党当時から会派構成でかがやけの3名とは別れてしまったことが影響しているのか、少なくとも現時点では、野上ゆきえ 都議、田中朝子 都議、宮瀬英治 都議は民進党公認予定候補として残っている。

民進党離党の都民ファースト推薦都議は、都議選後も別会派になるのでは

図表: 都議会の会派構成の推移

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出典:筆者作成

一方で気になることがある。

民進党所属の都議会議員は18人、うち10人は民進党公認候補として残っているものの、7人は無所属とはいえ都民ファースト推薦議員になっている。

民進党を離党して、小池知事に共感して都民ファーストの推薦まで得たのだ。

普通に考えれば、会派についても民進党会派を離脱して「都民ファーストの会 東京都議団」に入るべきだろう。

こうした実質的な状況を仮に会派構成に反映したケースを表したのが上図である。

当初3人だった小池知事支持勢力はどんどんと増え、都民ファースト単独でも現状で既に13人の勢力となっているというものである。

ところが、実際には都民ファースト推薦都議たちも未だに民進党所属議員18人による「東京改革議員団」に残ったままになっているのだ。

これには「なぜだ?」と思わずにはいられない。

選挙の時だけ小池知事の人気にあやかり「都民ファースト推薦」で戦い、選挙が終わったら都民ファーストの会派に入らず、民進党会派で活動ということになっては、実質民進党都議であることに変わらないどころか、有権者を偽る大きな問題になるからだ。

今から考えると、伏線は2月からあった。

都議会における民進党所属都議は、これまで民主党所属だった都議による「都議会民進党」と維新の党所属だった都議による「民進党都議団」とに別れていた経緯があった。

それが、今年2月になって「東京改革議員団」という会派を作って合流した。

民進党所属都議の会派が1つになるのは都民からすれば分かりやすいのでいいことだと思うが、この会派を作る際に、会派名に「民進」を使わなかった理由として「幅広く会派への合流を呼びかける」ためと説明。無所属議員にも合流を呼びかけるとしていたのだが、逆に考えれば、「自分たちが民進党を離党して無所属になり、都民ファーストの推薦を得ても残れる会派」にしていたとも取れる。

「偽装都民ファースト」でないなら早急に都民に証明した方がいい

こうして考え始めると、「偽装都民ファースト」という言葉が頭に浮かんで離れない。

連合は既に民進党離党して都民ファーストに行った後も引き続き組織内候補を支援することを決めている。

民進党内では離党を認めて無所属となった候補者を都民ファーストの会とともに推薦して、民進党の議席としてカウントする案も浮上しているとまで言われる。

こうして考えていくと、色々と辻褄が合ってくるからだ。

政党からの離党は政治家にとっては大きな決断だ。

これまで長年応援してきてくれた支持者を失うかもしれない。

政治家をやってきた立場からすれば、新たな支持者を得ながらも、昔からの支持者はそのまま残しておきたいという気持ちは分からなくはない。

しかし、選挙においては立場を明確にする必要がある。

有権者が判断できるのは4年に1度しかないからだ。

無所属推薦ということではあれ、小池知事との関係性がそのまま問われるような今回の選挙において、推薦という立場で「都民ファースト」の候補者として選挙に挑むのであれば、当選後も都民ファーストの議員として活動してもらわなければ、都民ファースト側としてもそうだろうが、有権者に対しても欺くことになる。

ただ、民進党を離党して都民ファーストの公認や推薦を得た予定候補者たちも、そういうつもりでやっているわけではないだろう。

であれば、早急に都民に分かりやすい形で示す必要があり、現職の都議会議員であれば「都民ファーストの会 東京都議団」に入るべきであり、現職でない予定候補者もまた、当選後そういうことがない事をしっかりと有権者に示していく必要があるのではないかと思う。

逆に言えば、今回の都議選の一つのポイントは、仮に都民ファーストの候補者であったとしても、本当にその人は小池知事の味方なのかどうかと、一人一人の候補者を見ていくことになるのかもしれない。

民進党執行部や都連、所属都議などの今後の動きについても注目していく必要がありそうだ。

自民党からの都民ファースト候補は、都議は1人も区議市議を入れると10名に

図表: 元民進党以外の都民ファースト予定候補一覧

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出典:筆者作成

こうした中、都民ファーストの野田数代表は、民進党の「離党ドミノ」との報道が目立っているが、「民進からの移籍は4人で、自民党からは11人。「離党ドミノ」は民進ではなくむしろ自民に当てはまる。」とコメントしている。

少し前の発言であるため、現段階では既に前述のように民進党を離党しての都民ファースト公認予定候補は6人に増えているが、実際には自民党からの合流組は、まだ公認とはなっていないが「都民ファーストの会 東京都議団」の会派に所属する木村基成 都議を含め11人いるという主張だろう。

実際に都民ファーストの公認になっている議員は、都議会議員現職の山内晃 都議、本橋弘隆 豊島区議、保坂真宏 台東区議、尾島紘平 練馬区議、村松一希 練馬区議、馬場信男 足立区議、米川大二郎 葛飾区議、佐野郁夫 小平市議、細谷祥子 東久留米市議、山下崇元 八丈町議など10名いる。

推薦を含めれば民進党の方が現職の都議会議員は少ないが、公認に限定すれば現職の都議は、知事選当初から小池知事を応援している音喜多駿 都議、上田令子 都議、両角穣 都議の3議員を除くと、自民党を離党した山内晃 都議しかいない。

このことから見ても、民進党離党組の現職都議を公認ではなく推薦にしかしないのは、都民ファースト側も思惑からバランスを見ながらやっている可能性はある。

ただ、都民ファースト側が思っていた以上に、自民党側からの現職都議の離党が少ないのではないだろうか。

都連だけでなく、党本部が引き締めも含めあらゆる手を打っているのに対して、都民ファースト側が手を打ちきれていないのではないかと推測する。

こうした状況がどう進んでくるかもまた、差し迫った都議選を大きく左右するポイントと言えそうだ。

「都民ファーストは民進党系」とのレッテルばりしたい自民党都連との情報戦か

都民ファースト側からすれば、民進党に近い政党であるかのような報道をされる事を避けたいのだろう。

小池知事や都民ファーストとしては、今回の選挙は元々、圧倒的多数である都議会自民党の議席を減らし、都民ファーストの圧勝と共に、小池知事の支持勢力を過半数以上にしていくという事がある。

そのためには都議選において、都民ファーストが圧勝すると共に、自民党が議席を大幅に減らしてくれなければならない。

ただ現状だけで言えば、都民ファーストが議席を奪う対象はむしろ民進党になりつつあり、民進党は大幅に議席を減らし、状況によっては壊滅に近い状況になりそうではあるが、一方でそのおかげもあって自民党が千代田区長選で小池知事側が圧勝した際に言われたような惨敗まではなくなりつつあると言えるのではないだろうか。

自民党側からすれば、「都民ファーストは民進党系」というレッテルばりができればこんなにやりやすいことはない。

一方で都民ファースト側からすれば、民進党や連合にクリンチされながらこれ以上にそっちの色を強くしたくはない。

こうした中で打たれたのが、先日の小池知事の都民ファーストの会特別顧問就任にもなったのではないかと思うのだ。

今回のコラムは、こうしたよくわからない状況になりつつある中で、「都民ファーストってどういう政党なの?」という有権者に客観的なデータで分かりやすく説明するために書いてみた。

現状の都民ファーストの第13次公認及び推薦までの状況で言えば、民進党系の予定候補が14人、自民党系の予定候補が11人、維新系1人、無所属3人、元みんな系3人といった政治家たちと、これまで政治に関わってこなかった希望の塾の塾生17人によって成り立っている状況だ。

内部でそれぞれの主導権争いなど、様々な動きもあるようだが、今回の紹介はここまでとした。

現段階での各党の離党状況や都民ファーストの構成状況について理解する参考にしてもらえればと思う。

いずれにせよ、今回の都知事選に限らずだが、単に「小池知事支持」「小池知事不支持」と言った二項対立による選択ではなく、選挙区の候補者一人一人のこれまでの経歴や政策、人物像などしっかり見極めて投票していくことが大事なのではないだろうか。

選挙が終わってから「ガラガラポン」という状況になっても、「自信を持ってこの候補者を選んだ」と言えるような選択をしてもらいたいものだと思う。

図表:都民ファースト予定候補の出身政党等の割合

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出典:筆者作成

図表:都民ファースト予定候補の出身政党等一覧

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出典:筆者作成

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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