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トランプ政権と中東(2)

高橋和夫国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

 さて、ご案内のようにイスラエル最大の都市のテルアビブというのは海岸にあって、ヨーロッパを持って来たような風情です。ディスコもあるし、バーもあるし、何でもあるというダイナミックな経済都市です。エルサレムというのは信仰の都市ですよね。各国はエルサレムを首都と認めないという立場ですから、エルサレムの立場は未確定ということです。各国の大使はエルサレムまでドライブしてイスラエル政府と付き合うということです。トランプはそういう意味で約束は守ったわけで、公約は守ったのです。では何故トランプが他の大統領、政治家がやらなかったことをやったのかということに関しては、私はやはり去年の12月というタイミングがその動機を教えてくれていると思います。トランプという人は「俺が大統領になったら、大使館をエルサレムに移すよ」と約束したわけですよね。トランプが大統領に就任したのは2017年の1月です。だったら1月にやればいいじゃないですか。2月でも3月でも4月でもいい。何故12月まで待ったのかということなのです。これを説明するのはやはりアメリカの国内政治です。12月にアラバマ州で上院議員の補欠選挙がありました。アラバマというのは、南部です。基本的に南部は非常に共和党の強いところです。ご案内のようにアメリカの政治では共和党は赤、民主党はブルーということで、Red State, Blue Stateと言います。アラバマは真っ赤っかな赤の州で、だから共和党が絶対勝つと普通は決まっているのです。アラバマで民主党が勝つというのはちょっとあり得ない。群馬県で共産党が議席を取るような話です。およそあり得ないことなのですね。実は世論調査もずっと共和党の候補が圧倒的に有利でした。このまま行くと思われていたわけです。ところが選挙が近づいてきた段階で共和党候補のロイ・ムーアというキリスト教徒の代表のような顔をして選挙を打っていたおじさんが、実はかつて複数の女性と不適切な関係を持っていたという報道が出始めました。しかも、その複数の女性は皆未成年だったということでした。それで、「何だ、あいつはキリスト教徒の代表のような顔をして」というので、民主党の候補者の支持率が高くなりムーアのが下がり始めたのです。そして支持率が、ひっくり返り始めたのです。このロイ・ムーアというのは共和党です。トランプは共和党の人ですから、この議席を当然守りたいわけですよね。今は議会で上院下院とも共和党が過半数ですが、もし民主党が両方とも過半数になってしまったらトランプ弾劾ということになるかもしれない。ニクソンみたいに追いつめられることになるかもしれない。だからトランプとしては共和党の議席を守りたい。その上、トランプにしたら、このロイ・ムーアというのは特別にかわいい人なのです。というのは、トランプが大統領選挙に出ると言った時に皆が冗談だと思ったのですよ。「あいつ、地上げ屋だろう。あいつはテレビの司会者、みのもんただろう」と。その時にロイ・ムーアは早い段階から「いや、トランプは立派な人ですよ。あれだけビジネスで成功した。ああいう人が政治をやれば、アメリカも良くなるのです」と、トランプに胡麻をすっていた人なのです。だからトランプにしたら、このロイ・ムーアはかわいいわけです。イスラエルのアメリカ大使館を動かすと発表して、選挙民に「もう一回、勝たせてくれ」と訴えたわけです。それでは、エルサレムに大使館を移すこととロイ・ムーアが勝つことと何の関係があるのでしょうか。

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国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

国際情勢をわかる言葉で、まず自分自身に語りたいと思っています。北九州で生まれ育ち、大阪とニューヨークで勉強し、クウェートでの滞在経験もあります。アメリカで中東を研究した日本人という三つの視点を大切にしています。映像メディアに深い不信感を抱きながらも、放送大学ではテレビで講義をするという矛盾した存在です。及ばないながらも努力を続け、その過程を読者の皆様と共有できればと希求しています。

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