熊本県を震源に九州中部を襲った地震では、4月14日に震度7の前震があり、その2日後に阪神・淡路大震災に匹敵する本震が起きたことで多くの家屋が倒壊しました。現在も復興への努力がつづけられていますが、今後大きな問題となるのは地震保険などで保証されない被災者の経済的損害でしょう。

東日本大震災では、津波によって跡形もなく流されていく多くの家屋を私たちは目にしました。地震国である日本では、数年ごとに全国のどこかで同様の事態が起きています。

標準的な資産運用理論では、被災者の経済的困難を「タマゴをひとつのカゴに盛っている」からだと説明します。多くの日本人は資産の大半をマイホームという名の不動産投資で運用しており、住宅ローンという信用取引によって純資産を上回る資金を不動産に投じることも珍しくありません。安全な資産運用の原則は分散投資で、(マイホームという)たったひとつの投資対象に全財産を賭けるのはきわめてハイリスクなのです。

念のために断っておくと、これは被災者の自己責任を問うているわけではありません。地震や台風など災害の多い日本で国民の多くがハイリスクな不動産投資を行なえば、どこかで必ずリスクが顕在化し、家計が破綻するひとが出ることは避けられないと、理論が予想しているという話です。

こうした悲劇を避けるにはどうすればいいのでしょうか。地震保険に強制加入させることも考えられますが、それよりずっと有効なのは、REIT(不動産投資信託)などの機関投資家に住宅を保有させ、一般のひとはそれを賃貸することでしょう。これなら地震や津波で家を失っても、自分と家族の生命が無事であれば、他の物件に引っ越すだけですぐに生活を再開できます。必要なのは最低限の家財を揃える費用くらいなので、これは保険で賄えるようにしておけばいいでしょう。

機関投資家は損害を被りますが、災害で失われるのは多数の保有物件のうちの一部で、REITであればその損失は株式を保有する世界じゅうの投資家が少しずつ負うことになります。REITはリスク耐性がきわめて高い仕組みなので、原理的にどのような災害が起きても破綻しないのです(株価が下がるだけです)。ところが現実には、リスク耐性の低い個人がマイホームというハイリスクな投資を行なっています。

マイホームは「自分の家を持ちたい」という“夢”をかなえるものです。この夢は「なわばり」という進化論的な強い基盤に支えられているものの、実際は、不動産業界のマーケティングによって人工的につくりだされた虚像です。それに加えて、政府が持ち家を優遇するさまざまな制度でこの偏向を強化し、中央銀行が未曾有の低金利政策で住宅ローンを勧誘することで、国家ぐるみの不動産ギャンブルが完成するのです。

個人に住宅を販売する業者は、マイホームの素晴らしさを滔々と説明しても、「タマゴをひとつのカゴに盛る」リスクについてはまったく触れません。今回のような災害が起きるとしばらくは宣伝を手控えますが、ほとぼりが冷めると、またいつもと同じうた(“夢”をかなえましょう)を懲りもせずに唄いはじめるのです。

『週刊プレイボーイ』2016年5月23日発売号

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