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10万円給付金を逆手にとろう!

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
(写真:ロイター/アフロ)

 安倍晋三首相は、先の4月7日午後5時43分、新型コロナウイルスが首都圏を中心に感染が広がっているのを受けて、法律に基づき、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象とする「緊急事態」を宣言した。また同首相は、同新型コロナウイルスの感染のさらなる拡大を受けて、また感染防止のための「最低7割、極力8割」という接触削減がいまだ目標に達していず、大型連休を控える中、人の流入を防止し、各地域が緊急事態措置を講ぜられるようにするために、先の宣言からたった9日後の16日に急遽、「緊急事態宣言」を全国に拡大したのである。

 このような状況において、4月6日頃には減収世帯への30万円給付という案でほぼ合意ができていたものが、同案への世論の根強い不満、他の与党からの強い要望および自民党内の権力関係などのさまざまな動きなどから、安倍首相は、16日同当初案をこれまた急遽見直し、所得制限を設けず国民に一律10万円給付する考えを表明し、その方向で給付が成されることになった。

 麻生太郎財務相は、記者会見で、この給付金に関して、「手を上げた方に1人10万円ということになる」と述べ、自己申告制の給付との見方を示すと共に、「富裕層の方々、こういった非常時に受け取らない人もいるんじゃないか」とも語った。

 今回の新型コロナウイルスのあまりに急速な拡大は、パンデミックはこれまでの人類の歴史においても何度か起きているが、これほど短期間に全世界的に広まったのは、20世紀の終わり頃から急速に進展したグローバライゼーションの急激な拡大の結果であり、人類にとっても正に「はじめての体験」ともいるものである。世界中の多くの国や地域そして多数の人々が、この状況に戸惑い、困惑し、それと並行する形で、いまだ先行きが不透明な中、外食・観光産業を中心とした中小零細企業などの収入の激減や廃業・倒産などで、経済や社会は危機的状況近づきつつあうといえよう。さらにそれらの企業等に勤務する方々の収入源や失業なども生まれてきており、社会における不安や混乱も生まれている。

 このような状況においては、給付金の額にはいろいろな意見や議論もあるが、短期間に給付されれば、急場しのぎになる面もあろう。そのような方々には、給付金を少しでも有効に活用して、次につなげてほしいところだ。

 他方、裕福な方や当座収入がこれまでと変わらない方々にとっては、困っていないし、申請が面倒なので、麻生財務相が指摘するように「受け取らない」方も出てくる可能性があろう。

 だが、筆者は、金銭的に当座困っていない方にも、ぜひそのような行為をとらないでいただきたいと考えている。それには、例えば主に次のようないくつかの理由があるからだ。

・まず、今の政府の政策や予算執行などに満足し、信頼できているのか。必ずしも満足していないし、どこか信頼できないと思っていないだろうか。

・給付金の原資は基本税金であり、元々は国民・納税者のお金である(注)。

・政府は、どうしても現場からは距離があり、刻々と変化する現場の状況に即した対応は取りにくい。

・日本は政府や行政への依存度が高いが、それは別のいい方をすれば、あるアプローチがうまくいかない時に、他のアプローチやオールタナティブもちにくいということを意味するのである。

 

 以上のようなことであれば、その10万円給付金を逆手にとってはどうだろうか。

 それはつまり、全国民が今回の給付金を受け取り、金銭的に余裕のある方々は、その給

付金をぜひ、今回の件で生活困窮されている方々にペイフォワード(ある方から受けた親切をまた別の方に新しい親切でつないでいくこと)的に差し上げたり、現場に近く政府とは異なったアプローチで社会的に貢献するNPOやNGOなどの非営利組織、あるいは現在の政府の政策の代替案などをつくるシンクタンク・政策研究機関や市民団代などに寄付したりすることで、日本社会に多様な可能性やアプローチを生み出してみてはどうだろうか。もちろん、その際には、その資金を集約したり、配分する仕組み作りも必要だろう。

 今回の給付金は、国民一人当たり10万円であり、日本の人口は1億2千万人強であるので、総額は12兆円程度の額になる。その寄付等が1%なら1200億円、10%なら1兆2000万円にもなるのである。

 その金額は、日本政府の予算(現在約100兆円程度)からほんの一部に過ぎない。しかし、筆者は、非営利セクターで長らく活動した経験があるが、その経験からすれば、これだけのお金があれば、非営利組織などでは実に大きな活動ができるし、現在の日本社会を大きく変えることができると断言できる。

 ぜひ、今回の給付金との関係において、この観点での議論や新しい動きが生まれてくることを期待している。このことは、日本に新しい社会を創出していくことに確実に貢献できるだろう。

(注)当座、給付金などのために、国債が発行され、賄われることになろうが、国債は飽くまでも借金などで、最終的には税金で返済される必要がある。国の財政上、歳入では「国債」は収入のように計上されているが、実は収入ではなく、単なる借金である。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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