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【パリ】ヴェルサイユ級の新名所Hotel de la Marine ギャラリーには日本の切り札も

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
Hotel de la Marine館内の見事な装飾(写真はすべて筆者撮影)

パリの真ん中に新しくできた大注目のスポットをご紹介します。

場所はコンコルド広場。ルーヴル美術館から続くチュイルリー公園とシャンゼリゼ通りの間にあり、7月14日の革命記念日式典のメイン会場にもなる特別な場所です。

その一角を成す建物がこの夏、Hotel de la Marine(オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ)としてオープンしました。この名称は2015年まで海軍省として機能していたことによるものです。

コンコルド広場の北側に建つHotel de la Marine
コンコルド広場の北側に建つHotel de la Marine

建物の歴史を少し…。

建てられたのはルイ15世の治世、1758年からのことです。完成してほどなく、王家の調度品倉庫として使われ、王室コレクションの一部が一般にも公開されていたと言いますから、パリの王宮にして最初の美術館と言えるかもしれません。

建物の一部は、のちのルイ16世とマリーアントワネットの結婚の際、アパルトマンとして使われていたそうですが、 それからおよそ20年後、花嫁花婿の二人ともが目の前の広場でギロチンにかけられるとは、なんという運命でしょうか…。

王の首をとったこの革命の後、建物は海軍省の拠点となります。そしてナポレオンが執政官になると、国の宝物を管理する場所となり、皇帝となる戴冠の時、また甥のナポレオン3世も3000人規模の華やかな舞踏会を催したそうですから、館は常に歴史の節目となる舞台であり続けました。

広場に面したこの空間は、数々の舞踏会の舞台になった
広場に面したこの空間は、数々の舞踏会の舞台になった

歴史的モニュメントとして一般公開する計画は2007年に決定され、今年2021年のオープンとなったわけですが 、18〜19世紀のいわゆる華やかなりし時代の面影を再現するために数年間の大工事を経ています。

館内を巡れば、天井、壁、そして床まで第一級の職人さんたちが腕を振るったことが一目瞭然で、フランスが誇る手仕事、美意識がめくるめくように展開してゆきます。

ダイニングテーブルでは今まさに旺盛に生ガキを食している最中というような設定がされていたり、サロンの小テーブルにはゲームの札が置かれていたり、まるで今もそこに人が暮らしているような演出によって、往時の人々の気配まで伝わってきそうです。

食事の様子を再現したダイニングルーム
食事の様子を再現したダイニングルーム

そんな演出を可能にする調度品の数々は、もともとこの場所にあったであろう品々をヴェルサイユ宮殿、ルーヴル美術館、セーヴル陶磁器博物館などから集めたそうですから、なるほどいかにもところを得ているわけです。

家具、タペストリー、置き時計など、一つ一つの細工も見応えがある
家具、タペストリー、置き時計など、一つ一つの細工も見応えがある

豪華さの点ではヴェルサイユ宮殿と比肩すると、私には感じられますが、あちらほど遠方でも広大でもないので、パリ滞在中、ヴェルサイユまで見学する余裕がないという人にはうってつけなのではないかと思います。

※館内の様子の一部はこちらの動画からもご覧いただけます。

さて、その建物の中にもう一つ、新しいニュースがあります。

カタール国の王族であるAl Thani(アル・タニ もしくは アール・サーニ)のコレクションを常設するギャラリーが完成し、11月18日から一般公開が始まりました。

「アル・タニコレクション」ギャラリー
「アル・タニコレクション」ギャラリー

マヤ文明のペンダント
マヤ文明のペンダント

ハドリアヌス皇帝の胸像(16世紀後半)
ハドリアヌス皇帝の胸像(16世紀後半)

イスラム美術の展示室
イスラム美術の展示室

コレクションはシェイク・ハマド・ビン・アブドラ・アル・タニ殿下が6歳の時、母と訪れたフランスの美術館やシャトーに感銘を受け、18歳から収集を始めたという美術コレクションで、5000年にわたる人類の文明、文化を網羅したもの。Hotel de la Marineのギャラリーでは、そのうちの名品120点ほどが展示されています。

そして、このギャラリーの設計を手掛けたのが日本人建築家、田根剛さんです。

パリを拠点に世界中で活躍する田根さんの近況については、こちらの記事でもご紹介していますが、今回はフランスの国家遺産を舞台にしたプロジェクト。どんな思いで仕事にあたったのか、お話をうかがいました。

ギャラリーでの田根剛さん
ギャラリーでの田根剛さん

「人類史5000年以上のコレクションとルイ15世の王宮とをどうやって融合させるか。しかも21世紀の美術館を作って欲しいという要望でしたので、大きなチャレンジでした。

何千年の人類史との向き合い方と、21世紀という時代をどのようにこのフランスの歴史的中心で表現するのか…。

私たちとしては、まず考古学的なアイディアを探りました。具体的には、Hotel de la Marineの時代性、ロココ以前、バロックの始まりのような「ロカイユスタイル」というものに着目しました。館の装飾に使われている本当に繊細なモチーフを生かして、『黄金の間』と呼応させるようにレセプションスペースを作りました」

ギャラリー第1室めのレセプションスペース
ギャラリー第1室めのレセプションスペース

金の雨のような細工は、「ロカイユスタイル」と呼ばれるモチーフをつなげて構成している
金の雨のような細工は、「ロカイユスタイル」と呼ばれるモチーフをつなげて構成している

また、床はVersailles Parquet(ヴェルサイユ・パルケ)と呼ばれるパターンを採用しました。ヴェルサイユ宮殿が建てられる前の時代、宮殿の床は石だったのですが、構造上、石では耐えれられないということになり、宮殿として初めて木の床が採用され、そこで発明されたのがヴェルサイユ・パルケというパターンです。このギャラリーでは、そのパターンを今度は逆に石で表現しています。

石で「パルケ・ヴェルサイユ」を表現した床。冒頭の写真、舞踏会が催された場の床の方は木製の「パルケ・ヴェルサイユ」
石で「パルケ・ヴェルサイユ」を表現した床。冒頭の写真、舞踏会が催された場の床の方は木製の「パルケ・ヴェルサイユ」

ショーケースはオリジナルのデザインですが、外装は全部チタンです。チタンの結晶と床材の結晶とが融合するような形を意図しました。

しかもこのショーケースは日本製。まだ商品化されていないものを、オリジナルで開発して製作したのだとか。

「僕としても日本の技術を世界に出したい」

と、田根さん。

彼自身の活躍はもちろん、日本のものづくりのこれからにも大いに期待したいお話です。

ちなみに、冒頭にリンクを付けたHotel de la Marine公式サイトは8ヶ国表記で、日本語もあります。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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