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【フランス】マクロン大統領がユーチューバーの動画に出演。配信24時間で850万回再生

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
マクロン大統領出演、大統領府で撮影されたユーチューバー動画のひとコマ

大統領府からユーチューブ配信

今年2月、「大統領がYouTuberに挑戦状 1000万回再生でエリゼ宮へ」という記事をお届けしました。その内容は、フランスの人気ユーチューバー「Mcfly et Carlito」(マックフライとカルリト)が、マクロン大統領からの「感染防止のための動画を作ってほしい。それが1000万回再生されたら、今度はエリゼ宮で撮影をしましょう」という挑戦を見事クリアしたというものでした。

今回お届けするのはその続編。つまり、約束通りマクロン大統領はふたりのユーチューバーをエリゼ宮(大統領府)に迎え、彼らの動画シリーズのゲストとして出演したのです。その動画は5月23日日曜日に公開され、配信開始から24時間で850万回という驚異的な再生数を記録しています。

それがこちらの動画です。およそ36分の動画で、5月28日時点の再生回数は1290万回。フランス語ですが、ユーチューブ内蔵の日本語字幕がついています。翻訳の精度がよいとは言えませんが、視聴の助けにはなるはずです。

エムバペにお友達電話

「Mcfly et Carlito」の「Concours d'Anecdotes(コンクール・ダネクドット=逸話コンクール)」という動画シリーズは、毎回ゲストを招き、自分たちとそのゲストが小話(逸話)を交互に披露し、それが実話か作り話かをお互いに当てるというもの。今回のゲストはフランス大統領マクロン氏で、いつもの彼らのスタジオではなく大統領府内、豪華な内装が施されたサロンでの撮影ということになりました。

大統領からの第一話は、サッカーのスタープレイヤー、キリアン・エムバペが、所属チームをパリ・サンジェルマンからオランピック・マルセイユに移籍する予定だというもの。そしてその答えは、出題者本人が明かすのではなく、「電話で確認しましょう」と、大統領はおもむろにスマホを取り出しました。

「こんにちはキリアン。エマニュエル・マクロンです」と、電話の相手はエムバペ本人です。「いま、マックフライとカルリトと一緒にいるのだけれど…」と、ユーチューバーも参加してしばらくやりとりがあったのち、移籍の話に話題がおよぶと、電話の先からエムバペの笑いと「impossible(ありえない)」と言う声が聞こえました。

フランスを代表するサッカープレイヤー、キリアン・エムバペ
フランスを代表するサッカープレイヤー、キリアン・エムバペ写真:ロイター/アフロ

「コラボ」継続の気配

逸話対決は4ラウンドあるのですが、自分が勝ったら相手になにをしてもらうか、つまり罰ゲームをあらかじめ決めておくという設定になっています。ユーチューバーが勝ったら、7月14日の革命記念日に大統領にインタビューをするというリクエストが出され、大統領が勝てばユーチューバーが7月14日恒例のパトルイユ・ドゥ・フランス、いわゆるフランスのトップガンたちが繰り広げる航空ショーの戦闘機に乗ってG体験という提案がありました。

結果は…引き分け。つまり、どちらの罰ゲームも有効で、マクロン大統領とこのふたりのユーチューバーとの「コラボ」にはまだ続きがあるということになりました。

さて、この動画の反響はなかなかのもので、テレビ、新聞などのメディアでも早速とりあげられています。

来年は大統領選挙の年。フランスは直接選挙で大統領が選ばれますから、再選へ向けてマクロン陣営が若年層を取り込もうとしている、というのは誰もが思うことです。

ユーチューバーがエリゼ宮で動画収録、しかもサッカーのスタープレイヤーまで登場するという展開はもちろんこれまでありえなかったことで、話題性抜群ではあります。それがゆえに、政敵からは、「あまりにも逸脱した、大統領にあるまじき行為」と酷評されたり、一部メディアの論調には「下品。若者を政治に取り込むならほかの方法があるはず」というのもあります。

いっぽう、「これまでの大統領もその時代ごとに意表をつくような形でイメージ戦略、メディア対策を講じてきているので驚くにはあたらない」という見方は多く、それぞれの立場や価値観によって意見が分かれるのは自然なことでしょう。

筆者の個人的な印象をいえば、マクロン大統領はこのビデオで「sympa(サンパ)」、つまり「感じがいい」とか「親しみやすい」雰囲気、人物像を、政治にあまり関心のない若い人たちにも伝えるという点で大成功したのではないかと思います。

批判があるのは承知の上というスタンスが板についたタフなフランス人のこと。政治的なメッセージは薄め、とはいえ影響力はバカにならないこの「コラボ」が、これからもつかず離れずのバランスで続いてゆくことでしょう。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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