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Vaundy「replica」の「音の引き算」「音の余白」が気持ちいい理由【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
Vaundy「replica」公式サイトより

 東京スポーツ紙の「スージー鈴木のオジサンのためのヒット曲講座」と連動して、毎月「レコード大賞」を決める連載です。

 12月度は、先月発売されたVaundyのアルバム『replica』を取り上げます。繰り返し聴きました。「なんでこんなに気持ちいいのだろう?」と思いながら。

 ですが、彼の「音」の話に入る前に、彼の「言葉」の話をしたいと思います。インタビューでの発言がやたらと面白いのです。

 いわば言葉を持っている音楽家。自らの音楽について、自信満々かつ理路整然と語るさまは、まるで若き日の山下達郎みたい。以下、雑誌『ROCKIN'ON JAPAN』(2023年12月号)より。

日本語がリズムに合わせるのが難しい言語であることは間違いないんですけど、それを意識せずに野放しにしているのは違うと思うから。

と、はっぴいえんどからの問題点をしっかりと踏まえていたり。

日本のメディアが言う『海外からの評価』って、ほぼ海外にいる日本人からのものなんです。

と、最近ありがちな「海外が認めたJポップ」的論調に疑義を唱えたり。

日本人が絶対に外しちゃいけないポップスの理論のひとつが『刹那』なんですよ。『刹那』と『切なさ』『一瞬の悲しみ』なんですね。

と、もう桑田佳祐あたりの高い視座で「Jポップ」を俯瞰していたり――。

 さて、タイトルにも記したアルバム『replica』の気持ちよさの要因は、まず私(50代)世代が聴いてきた過去の洋楽邦楽へのリスペクトがあるからだと思います。

 「いちばん若いサブスク世代の音楽家」としての23歳ということでしょう。私世代がレコードやらカセットテープやらCDやらで、少しずつ聴き重ねた音楽的遺産を、一気に大食いした健啖家の若者という感じ。

 あと、まるで8トラックや16トラックで録られた昭和のロックのような、いい意味での音の薄さ、スカスカさが気持ちいいのです。

 例えば、このアルバム収録曲の中で、いちばん驚いた『美電球』。

 特に歌い出しのスカスカさはどうでしょう。同じくアルバム収録曲で2年前に発表された『踊り子』のイントロはドラムスとベースだけ。もうスカスカ過ぎてしびれます。

 いわば「引き算サウンド」――デスクトップの無限トラックの中、足し算に足し算を重ねまくって、さらにリミッターを効かせまくって、イヤフォンから耳を圧迫しまくる「平成Jポップぱっつんぱっつんサウンド」へのアンチとしての音の余白。

 ぱっつんぱっつんサウンド競争から撤退するのは勇気がいるはずです。スカスカの音で聴き手を魅了して、聴き手の腰を揺らせる勇気、そして自信が。あと、センスも要ることでしょう。必要最低限の音を見極めるアレンジとグルーヴ作りのセンスが。

 そんな勇気とセンスを併せ持っている、恐るべき23歳――。

 というアルバム『replica』の中で、1曲選べといわれれば、デヴィッド・ボウイ・リスペクトのように聴こえるタイトルチューンを推します。この音、私世代のロックファンは、みんな気持ちよく感じるはずと信じます。

 というわけで12月の「レコード大賞」はVaundy『replica』になりました。近日中に、本連載を取りまとめた「年間ベストテン」を、こちらにてアップします。ちなみに懐かしの昨年版はこちら

『美電球』『踊り子』『replica』/作詞・作曲・編曲:Vaundy

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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