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テレ朝ドラマに流れるマカロニえんぴつとMrs. GREEN APPLEに驚いた【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
金曜ナイトドラマ『波よ聞いてくれ』番組サイト

 今回は、「月刊レコード大賞」の前に「月刊ドラマ大賞」を発表したいと思います。数々の意欲作をおさえての大賞は、テレビ朝日『波よ聞いてくれ』(金曜23:15~)。

 ではここで、ストーリーのまったく分からない(褒め言葉)次回予告を見てみましょう。

 この映像から分かるように、主演の小芝風花がもう圧倒的なのです。演技というより、まるでスポーツのようなパフォーマンスを見せ付ける、彼女の芸能IQの高さ、フィジカルエリートぶりが堪能できるドラマ(追記するなら、それに負けていない平野綾も素晴らしい)。

 前置きが長くなりましたが、「月刊レコード大賞」は、このドラマの主題歌です。

 マカロニえんぴつ『愛の波』。でも、です。この映像で流れているキャッチーなサビで判断してはいけません。この曲は必ず全編を聴いてください。

 どうでしょう。この圧倒的情報量、奇想天外にめくるめく音のワンダーランド。サブスクでは3分43秒なのですが、何か10分くらいの大作を聴いた気分になりませんか?

 ここで思い出したのがユニコーン。例えば傑作アルバム『ケダモノの嵐』(90年)あたりの、聴き手の予想を裏切ったろう、びっくりさせたろう、型を破ったろうという、まさに型破りなサウンド。

 『愛の波』の楽曲について、具体的にどのパートがユニコーンかという指摘はしにくいのですが、というより、何だか全体的にユニコーンぽい空気を感じたのですよ。

 有名な話ですが、マカロニえんぴつのボーカル&ギターで、この曲の作詞・作曲を手掛けた「はっとり」氏は、ユニコーンのアルバム『服部』(89年)から命名したといいます。『音楽ナタリー』における奥田民生(ユニコーン)とはっとりの対談から(2020年4月3日)

──はっとりさんの名前は、ユニコーンのアルバム「服部」(1989年6月発売)が由来だとか。

はっとり(マカロニえんぴつ):そうなんですよ。

奥田民生:“はっとり”が芸名なの?

はっとり:はい、本名じゃないです(笑)。マカロニえんぴつを結成する前から、“はっとり”を名乗らせてもらっていて。

奥田:そうなんだ(笑)。

はっとり:去年の「FM802 30PARTY FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2019」(2019年12月に大阪・インテックス大阪で開催されたライブイベント)で初めて挨拶させてもらったときも、「どう思われてるんだろう?」とちょっと不安でした。

奥田:うれしくなくはないよ。迷惑ってこともないし。ものすごくうれしいかと言われると、ちょっとわからないけど(笑)。

 『愛の波』の「ユニコーンみ」は「『ケダモノの嵐』リアルタイム世代ホイホイ」と言えると思います。というわけでこの『愛の波』、ドラマの中で流れる部分だけではなく「波よ、全編を聞いてくれ」。

 そういえば、こちらの曲も情報量がめっちゃ多い。何ギガ? 何テラ? こちらに感じたのは「ユニコーンみ」というより「クイーンみ」なのですが。

 Mrs. GREEN APPLE『ケセラセラ』。実はこちらもテレビ朝日(朝日放送テレビ)のドラマ『日曜日の夜ぐらいは…』(日曜22:00~)の主題歌。『波よ聞いてくれ』とはまるでテイストが違って、清野菜名・岸井ゆきの・生見愛瑠の演技力頂上決戦を楽しむ作品(特に岸井ゆきのの存在感に目を見張る)。

 『愛の波』と『ケセラセラ』――聴き手に楽しんでいただく曲、カラオケで歌っていただく曲というよりは、聴き手の予想を裏切ったろう、びっくりさせたろう、型を破ったろうという曲に聴こえました。

 そんな「型破りロック」は、この「サブスク聴き流し時代」における楽曲存在感の作り方として、ひとつの方向性になっていくのかもしれません。

 最後にまたドラマの話。『波よ聞いてくれ』と『日曜日の夜くらいは…』、両方ともラジオが、ストーリーのキーになっているのです。だからこの2曲、ラジオの音楽番組で流れてほしい。「サブスク聴き流し時代」の中、「型破りロック」をフル尺で流して、ありがちなトーク、ありがちなメールに埋もれない「型破りラジオ」が求められる時代でもあると思うのです。

  • マカロニえんぴつ『愛の波』/作詞・作曲:はっとり
  • Mrs. GREEN APPLE『ケセラセラ』/作詞・作曲:大森元貴
音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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