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矢井田瞳『駒沢公園』に感じた浜田省吾『I am a father』スピリット【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
矢井田瞳 official web site

9月20日放送のNHK『うたコン』は、とても充実していました。

石井竜也、横山剣、夏川りみ、三浦大知、さらには例の「きつねダンス」の曲を歌うイルヴィスがノルウェーから初来日し、ファイターズガールと一緒に、その曲『The Fox』を歌い・踊り、そして鳴いたのです(その後、石井竜也が「途中、デュランデュランぽいところがある」と指摘したのには唸りました)。

で、そんな大騒ぎの『The Fox』の後に、矢井田瞳が朗々と歌ったこの曲=『駒沢公園』(作詞・作曲:矢井田瞳)が、今月のレコード大賞。

NHKで矢井田瞳を見るのは、確か『ポップジャム』での『My Sweet Darlin'』以来だと思います。そのとき彼女は、ステージの上に裸足で立って歌っていました。調べたら「♪ダリダリー」の『My Sweet Darlin'』のリリースは2000年。あれから何と22年も経っています。

『うたコン』での矢井田瞳は、裸足ではなく上品そうな靴を履いていて、そんな足元にも22年の月日を感じたのですが、『駒沢公園』の歌詞により月日の重みを感じました。視点が「ママ目線」だったのです。

この曲、「自身の娘とのエピソードが歌詞のモチーフとなった楽曲」とのこと。ママとしての矢井田瞳と娘とのほのぼのとした光景が、歌詞として綴られていきます(歌詞は→こちら)。

「♪そっけない返事で 視線はゲームの中」――この歌い出しで、今どきのママはピンとくるでしょう。続く「♪心は 必ず私の世界に還るから」で強がりながら、「それもいつまで 続くんだろうって 考えると寂しい」と展開するあたりで、今どきママのハートはわしづかみされるのではないでしょうか。

実は、番組の中では歌われなかったのですが、MVを見ていいなと思ったのは、中盤に出てくる「♪ねぇママ どうして戦争なんてするんだろう?」に対して、矢井田ママが「♪憎しみを知り それでも誰かを愛すること選んでね」と応えるくだりです。

この連載でも繰り返していますが、私はかなりのメッセージソング好きです。ただ、直接的なメッセージよりも、例えばこの『駒沢公園』のように親子という舞台設定、親子愛という必然の中で「戦争」が語られたりすると、さらにたまりません。

想起したのは、浜田省吾の超名曲『I am a father』(作詞・作曲:浜田省吾)です。曲としても超名曲で、かつMVも超傑作です。ぜひご覧ください。

共通するのは、この曲も中盤で、「♪子供が幼く尋ねる 『何故人は殺し合うの?』」という歌詞が置かれていることです。この歌詞、このシーンが、曲全体の中でのハイライトになっています(歌詞は→こちら)。

そう言えば、『うたコン』の3日前、NHK BSプレミアムで『浜田省吾ライブスペシャル~僕と彼女と週末に~』が9年ぶりに再放送されました。浜田省吾のライブ映像を巧みに編集したこの番組の中で、『I am a father』が歌われるのですが、これがいいのです。

曲中のポイントポイントで、客席の中の親子の姿がインサートされます。そして「♪子供が幼く尋ねる」と「何故人は殺し合うの?」の間に、浜田省吾が「父さん……」というセリフをはさむのですが――。

この「父さん……」で私、9年ぶりの感涙、てか号泣――あ、すいません、書きながら、また目頭が熱くなってしまいました。失礼しました。

話を戻すと、『駒沢公園』に私は、この『I am a father』スピリット、浜田省吾スピリットを感じたのです。そして、こんな親目線の曲がもっと増えたらいいなぁ、とも。

『My Sweet Darlin'』から22年、本文とは関係ありませんが、hitomi『LOVE 2000』からも当然22年、そして浜田省吾が70歳となる2022年の日本。平均年齢がいよいよ50歳に近付いてきていると言われる日本。

そんなこの国で、ポップミュージックがもっと円熟味を増してもいいと思うのです。それが当然だと思うのです。超高齢化社会なのだとしたら、超高齢化ポップス――とまでは言わなくても、ミドルエイジがミドルエイジの共感に向けて歌うポップスが、もっと増えていい。

未来のいつか、浜田省吾が『I am a "grand"father』をライブで歌って、例のところで「じいじ……」とはさんだとしたら、そのとき私は、さらに涙腺決壊、大号泣するような気がします。涙腺制御機能は、年を取るほど、ポンコツになっていくのですから。

で、そのとき、『駒沢公園』の娘さんはいくつになっていることでしょう。

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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