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Jリーグ史上最年少監督に期待する理由

杉山孝フリーランス・ライター/編集者/翻訳家

サッカーをかみ砕く

 自身も元プレーヤーで、現在も選手への“目利き”を仕事とする人に尋ねたことがある。「良い選手」を見極める時に、何か特定の気になるポイントはあるのか、と。

「(競り合いや混戦で)ガチャガチャっとなった時に、自分の前にボールが来る選手かな」

 あれから数年経って、同じ話を聞いた。既視感を起こさせたのは、Jリーグ史上最年少の監督となった34歳だ。

「よくガシャンとなって、自分の目の前にボールがこぼれる選手がいるじゃないですか」

 そして、さらに掘り下げた。

「たぶんだけれども、あれは運じゃないんです。タイミングやぶつかり方、蹴り具合の強さなどで、可能性が変わってくる。サッカーって、可能性のゲームだと思うんですよ。確かに運の要素は消えなくて、ゼロにはならない。だから、サッカーは『勝率をどれだけ上げられるか』だと思うんです」

 シュタルフ悠紀リヒャルト。父の祖国ドイツで生まれ、母の母国・日本でサッカーを始めた。高校時代に1年間留学したドイツなど、11カ国でプレー。ドイツでUEFAのA級まで修めた指導者ライセンスを昨年に日本サッカー協会のS級にまで伸ばし、今季からJリーグ3部(J3)のY.S.C.C.(Yokohama Sports & Culture Club。以下、YSCC)の監督を務める。

 YSCCは、自身が高校時代にプレーしたクラブでもある。指揮官として預かることになった古巣にドイツのエッセンスを持ち込みたいと、青年監督は語る。

 その要素の一つで、シュタルフ監督が「こだわりたい」というのが選手個々による「1対1」の戦いだ。日本でも、もちろんサッカーの基本とされる。ただし、ドイツとは、とらえ方が違う。

 ピッチ上のポジションや周囲との関係など、少なくとも「8種類くらい」(シュタルフ監督)に分けられる1対1の“戦い方”を、ドイツでは少年時代から徹底して教え込むのだという。理由は個人の、ひいてはチームの勝率上昇のため。「効率化」と置き換えてもいい。これもまた、シュタルフ監督が説くドイツの要素の一つだ。

「1対1でも、戦術を理解している選手の方が勝てる確率は高くなります。もちろん技術が高い、あるいはフィジカルが強い選手にも優位性があります。でも、戦術の部分が抜けていると勝率を上げるのはなかなか厳しいのではないかな、と思うんです」

「1対1」で必要なのは「戦うこと」ではなく「戦い方」であり、それをシュタルフ監督は個人の「戦術」という言葉で説く。そのディテールが、「ガシャンとなった」場面にも表れ、勝率を上げるのだ、と。

 競技を問わず、チームを率いる監督は自分の考えを選手に言葉で明確に伝えなければならない。選手にも何かしらイメージはあるだろうが、競り合いや混戦で勝てる理由を運で片づけずに言葉で提示した監督を、少なくとも他で聞いたことはない。

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「個人の質」に逃げない

 YSCCは3月24日、リーグ戦3試合目にして今季初勝利を挙げた。「最初の3ゲームで勝ち点3を取ることが目標だったので、ギリギリで手にできてほっとした」と苦笑するが、それまでの2試合は1点差での惜敗だった。開幕戦では昨季3位のガイナーレ鳥取と、3-4と打ち合った。初勝利した前節もやはり、ヴァンラーレ八戸を相手に4-3と、なかなかに派手なスコアだった。

「攻撃に関しては、プランどおりで順調。一番のポイントにしていた切り替えとセカンドボール(の奪取)の部分は、3試合を通して大幅に改善されていると思います」

「気になるのは、守備の軽さと、最初から言い続けてきた1対1の対応。自分がイメージしていたよりも、(成長のスピードは)ゆっくりです」

 しっかり分析済みの3試合は、いずれも1点差のゲームだった。第2節のセレッソ大阪U-23戦は、シュート本数でもチャンスの数でも圧倒しながら0-1で落とした。「効率」を考えれば、より悔しい敗戦かもしれない。

 最終的に、ゴールを決める力は個人の質だ。だが、シュタルフ監督は「逃げ」をつくらない。「決定力は個人の質だけど、個人の能力アップをするのが僕の責任なので。逆算すると、決定力が足りないのは僕の責任につながります」。単にシュート練習を増やすだけではなく、ショートカウンターの場面、相手から追走される場面など、試合に即したバリエーションを提供して成長を促しているという。

 新元号発表前日、3月最後の日、YSCCはホームにガンバ大阪U-23を迎える。「1度勝たないと、連勝するチャンスはないわけですからね」。

 サッカーをかみ砕き、未来へと再構築していく若き監督の思考が、見ている側の期待をさらに高める。

フリーランス・ライター/編集者/翻訳家

1975年生まれ。新聞社で少年サッカーから高校ラグビー、決勝含む日韓W杯、中村俊輔の国外挑戦までと、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を約3年務め、同サイトの日本での人気確立・発展に尽力。現在はライター・編集者・翻訳家としてサッカーとスポーツ、その周辺を追い続ける。

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