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軽量級ビッグファイト、フルトン対井上尚弥戦実現の条件とは 米テレビ局重役が語る

杉浦大介スポーツライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

 世界バンタム級、スーパーバンタム級戦線がほぼ時を同じくしてクライマックスを迎えようとしている。

 バンタム級の3団体王者・井上尚弥(大橋)は年内にWBO同級王者ポール・バトラー(英国)と対戦し、4冠統一を目論む。一方、スーパーバンタム級ではWBC、WBO王者スティーブン・フルトン(アメリカ)、WBAスーパー、IBF王者ムロジョン・“MJ”・アフマダリエフ(ウズベキスタン)がともに統一戦を希望し、近い将来の挙行が期待されている。

 2023年、この2階級の4団体統一王者が直接対決といった流れになれば、アメリカでも久しぶりに軽量級に大きな注目が注がれることになりそうだ。

 ただ、これまでに名前を挙げた王者たちは、それぞれ所属するプロモーターが異なることが今後の主要ファイト実現に向けた懸念材料として挙げられている。アフマダリエフが前戦で左手をケガしたこと、まだ指名戦が残っていることも障害となり得るが、マッチメイクを考えた際、何よりの障壁はプロモーター/テレビ局のライバル関係だろう。

 軽量級ビッグファイトの実現に向け、この難題はクリアされるのか。7月30日、これまでフルトンと深い関係を構築し、スーパーバンタム級戦線の鍵を握る米プレミアケーブル局Showtimeのエグゼクティブ、スティーブン・エスピノーザを直撃し、じっくりと話をきいた。

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 フルトン、アフマダリエフという2人の王者たちが、4団体統一戦を望んでいるのは誰もが周知のことです。PBC所属のフルトンはShowtime、マッチルーム・スポーツ傘下のアフマダリエフはDAZNと関係が深いことが最大の問題点と見られていますが、その点以外に阻む要素がなく、私はこの試合のマッチメイクは十分に可能だと思っています。

 重要なのは、両者ともに統一戦を行う以外、他に理にかなう対戦相手が存在しないこと。現実問題として、フルトンとの試合を組む以外、DAZNがアフマダリエフに他のビッグファイトを供給できるとは思いません。

 一方、フルトンには接戦を演じた相手とのリマッチ、他のランカーと対戦するといったチョイスもあります。それでも、最も論理的なカードはもちろんアフマダリエフとの統一戦なのです。

 結論がこれほど明白なのであれば、関係者は適切な判断を下すというのが私の考えです。どのような形になるかはまだはっきりとはわかりませんが、4団体統一戦こそが必然の一戦。何らかの形で成立するという自信はあり、これから実現に向けた道を探し求めていくことになります。

6月、フルトンは元王者ダニエル・ローマンに快勝し、さらに評価を上げた Esther Lin/SHOWTIME
6月、フルトンは元王者ダニエル・ローマンに快勝し、さらに評価を上げた Esther Lin/SHOWTIME

 フルトンが4団体統一戦を終えた頃、バンタム級の仕事を終えた井上がスーパーバンタム級に上がってくるのでしょう。その際には、フルトン対井上戦が当然話題になるはずです。

井上のスターダム入りに必要なこととは

 私はボクシングビジネスに関わっている人間ですが、このスポーツのファンであり、井上の大ファンでもあります。井上は本当にとてつもないボクサーですね。現役では最高級の選手であることは間違いありません。

 ただ、井上をアメリカで売り出していくのであれば、もう少し米リングで露出して欲しいというのが私の考えです。現時点での井上は、ハードコアなボクシングファンには名前を知られていますが、まだ知名度を上げられると思っています。

 正直、アメリカのスポーツファンは少々視野が狭いところがあり、国外のものよりも国内のものを好むのは周知の事実。井上の場合も、アメリカでもっと多くの試合を組み、その後に統一戦を行えば、今よりももっと多くのファンが彼の実力に感謝するようになるでしょう。それはボクシング界にとっても素晴らしいことですし、その時には井上のキャリアは別次元にまで飛翔するはずです。

 井上はアメリカではトップランク/ESPNの所属。ボブ・アラムは私のことが好きではなく、私たちはこれから先も親友にはならないでしょう。ただ、一緒に仕事をするすべての人間と友人である必要はないのです。私の仕事は最高の友人を作ることではなく、最高の試合を組むこと。ビッグファイトを行うためには、一緒に仕事をする相手が飲み友達である必要はないというのが私の考え方です。

 エロール・スペンスJr.(アメリカ)にとってテレンス・クロフォード(アメリカ)、フルトンにとってはアフマダリエフが適切な対戦経験であることは誰もが承知していることですよね。それと同様、スーパーバンタム級に上げてきたあとの井上にとって、最もロジカルな路線はアメリカで同級の王者に挑戦すること。その試合の実現のためには、放送局のライバル関係も横に押しやり、それぞれの関係者たちが実現に向けて尽力すべきなのです。

 少々具体的な話をしておくと、スーパーバンタム級の4団体統一王者になればフルトンの評価は上がるでしょうし、軽量級のビッグファイトであるフルトン対井上戦をPPVイベントにすることも可能だと思いますよ。先ほども話した通り、そのためにはフルトン戦の前に井上はもう1、2戦をアメリカ国内で行い、名を売っておいてもらわなければいけません。井上の知名度アップこそが、PPV興行のための必要条件になるでしょう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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