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伊藤雅雪「リスクは僕の方にある」 元世界王者が三代大訓との対戦を決めた理由語る

杉浦大介スポーツライター
写真:山口裕朗/アフロ

11月5日 東京・墨田区総合体育館

ライト級10回戦

元WBO世界スーパーフェザー級王者

伊藤雅雪(横浜光/29歳/26勝(14KO)2敗1分)

OPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王者

三代大訓(ワタナベ/25歳/8勝(3KO)1分)

国内注目の強豪対決が決定

――8月31日に開催された『ファーストレート presents A-SIGN BOXING』の最中に、三代選手との対戦が発表になりました。あの発表の方法はインパクトが大きかったですね。

伊藤雅雪(以下、MI) : あれは良かったですね。現場で見る以上に、SNSやYouTubeで見ることでよりいい感じに見えるようにできていたんじゃないかと思います。

――三代選手との対戦を決めた理由はすでにいろいろな媒体で話されていますが、改めて伺うと、やはり国内ボクシングを盛り上げたいという気持ちが大きかったんでしょうか?

MI : それが本当に一番ですね。実はトップランクからもラスベガスでの試合オファーをいただいていたんですが、対戦相手やファイトマネーの面から見ても、今の時期にアメリカに行ってまでやる意味を見出せない内容でした。そんな状況下で、自分にできるのは国内ボクシングを盛り上げることだなっていうのを今年6月くらいから感じるようになったんです。

――具体的に三代選手が相手に選ばれた経緯は?

MI : ライト級でやるとなると、三代、吉野修一郎(三迫/日本、OPBF、WBOアジアパシフィックのタイトルを持つライト級の3冠王者)といった選手たちが選択肢になってきます。国内がすごく盛り上がるとしたら吉野戦かなと思っていたんで、オファーは出していたんですけど、一度断られてしまったんです。向こうとしてはやりたくないというより、タイミングとかそういうのがあったんでしょうね。そんな時に三代がライト級でやりたがっているという話も聞いて、だったら戦っても面白いかなという感じになっていきました。

ーー日本のファンが盛り上がり、タイトルホルダーでもある三代選手に勝てば世界への機運も再び盛り上がるという点でも意味のある試合ですよね。

MI : 日本を盛り上げたいというのであれば、僕が軽い相手とやっても仕方ないですからね。三代はいい選手ですし、タイトルを持っていて、世界ランクも高くはないですけど入っている。僕の実力を再確認してもらえる舞台になるでしょうし、今後を考えても大事な試合になるともちろん思っています。

ーー三代選手の映像を見ましたが、ジャブが上手で、様々なパンチが打てるボクサーという印象でした。伊藤選手はどんなイメージを持っていますか?

MI : まさにそんな感じです。スパーリングもかなりやったことがあるんですけど、やりにくくて、ジャブは僕より上手いなと思いますね。ジャブの差し合いだけでは勝てないかなという感じはします。それくらい安定感のある選手だなという印象はあります。

ーーとはいえやはり総合力では伊藤選手がまだ1、2枚上かなとも感じたのですが、ただ、三代選手はサイズがありますよね?

MI : 大きいですね。フレームが大きいですし、身長177cmくらいはあるんじゃないですか。ただ、そこはあまり心配していないところではあります。三代は線が少し細く、スーパーフェザー級でもパワーには欠けるところがあったと思います。もちろん筋トレなどで仕上げてはくるんでしょうけど、僕の方が身体の幅がありますし、フィジカルやパワー的なものでは全然心配はしていないです。

ーー伊藤選手のフィジカルの強さは世界レベルでも定評ありますものね。

MI : そうですね。そこら辺に関しては僕の方が有利でしょう。だから相手は身長的に大きいな、というだけです。

ーー現時点で思い描いているファイトプランを明かせる範囲でいいので教えていただけますか?

MI : 三代はアウトボクサーのイメージですけど、打ち合う時は打ち合ってきます。僕が突っ込んでいっても簡単に打ち合ってはくれないかもしれませんが、それでもこちらから仕掛ける展開になるんでしょう。タフで、顎が強い選手なので、すぐに倒せるなんてまったく思っていないです。じりじりと差を開いていって、判定でもKOでも、結局は圧勝だったなという形に持っていきたいと思っています。

三代、吉野、そして再び世界へ

ーー最近は試合前にロサンジェルスでトレーニングするのが恒例になっていましたが、今回は日本での練習に専念することになりますか?

MI : 本当は行きたいんですけど、今回は行けないですね。アメリカに行って、2週間隔離されて、戻ってきた後にPCR検査受けてと考えると、リスクが確実に大きくなってしまいます。ただ、今、日本では一緒に練習できるパートナーは多くて、スパーリングの部分は心配しないで済みそうです。あと、大介さん(岡辺大介トレーナー)には10月には日本に来てもらおうと思っているんで、試合前の調整は一緒にやっていこうと思っています。

昨年4月、ステイプルスセンターでトップランクとの契約を発表した際の伊藤。爽やかな笑顔の好漢だ。 (杉浦大介)
昨年4月、ステイプルスセンターでトップランクとの契約を発表した際の伊藤。爽やかな笑顔の好漢だ。 (杉浦大介)

ーー2020年を少し振り返って頂きたいのですが、パンデミックによる自粛期間の調整は大変でしたか?

MI : 3、4月はボロボロでしたね。1月にケガ(左上腕部筋肉断裂)をした後、3月15日くらいに練習許可が下りて、17、18日くらいからジムに行ったんですが、2回目の練習からジムが閉まってしまいました。ちゃんと動けるようになったのは5月くらい。2、3ヶ月も動かない時期、ボクサーではなくなってしまう時期があったのはこの何年かで初めてでした。今はやっと普通に良い練習ができているという感覚がありますが、正直、実践間隔が空いたことに対する不安は少しあります。

ーー体重調整も難しかったと思いますが、今後、階級はライト級に絞る方向でしょうか?それともスーパーフェザー級も視野に入れ、両方の階級でチャンスをうかがう?

MI : もうライト級で決めました。今の僕にとってベストはライト級。スーパーフェザー級だと、試合までに体重を作ることばかりがストレスになってしまうんです。僕はすでに世界タイトルを奪っているわけだから、今後は後悔しないようにやっていきたいと思っています。

ーーそれでは三代選手に勝ったとして、先ほども名前が出た日本ライト級のトップファイターである吉野選手との対戦は十分にあり得そうですか?

MI : 僕は絶対にやりたいと思っています。すべて合わせるつもりでもいるんで、あとは相手次第ですね。今後に関しては結構いろんな意見をいただいて、国内ではなく、世界の強豪とやりなよとも言われました。ただ、まず三代と戦って、その後に吉野と対戦し、ちょっとしたトーナメントっぽくなるとしたら面白いじゃないですか。

ーー向こうに合わせるというのは、スケジュールなど相手の都合のいいようで構わないということですか?

MI : その通りです。場所に関しては、僕と吉野が戦うのであれば大きなイベントにした方がいいともいわれているので、周りに任せるつもりでいます。ただ、日程については僕は相手に委ねるくらいの気持ちで、できる限り合わせてやれる方向に持っていきたいと思っています。

ーーチャンピオンではない日々がもう1年以上になって、やはり物足りなさは感じますか?

MI : また大きな試合がしたいという気持ちが強くなっていっています。タイトル戦だろうが、何だろうが、チャレンジできる試合がしたいです。そんなチャレンジファイトの先に、世界のベルトがあるとも思っています。特に今後、ライト級で戦う上で、僕には証明しなければならないことがありますよね。僕のチャレンジファイトは三代戦じゃないし、吉野戦でもない。だからこそ、ここでは負けられないというプレッシャーはあります。もちろん吉野も三代もいい選手なので、何があるかわからないですし、彼らは挑むだけなので、どちらかといえばリスクは僕の方にあるとも思っています。今はチャンピオンだった時よりもモチベーションの持っていきかたが難しいのですが、だからこそ三代のような強い相手と試合ができるのは本当に良かったという気持ちもあります。

ーー今後の目標となると、三代、吉野、そして来年に世界戦という強豪路線となってくるでしょうか?

MI : 自分の中ではそのロードを今、思い描いてます。まず三代戦をしっかりクリアし、それを果たせば国内では吉野が一番のライバルになるのでしょう。日本をしっかり卒業するためにも、その2戦に勝ち、その後に世界の強豪とのチャレンジマッチをこなしたいですね。来年、ライト級で世界タイトルを目指せるところまで辿り着くのが今の目標であり、そこに楽しさを感じることもできています。

 後編、「ラスベガス、”バブル”でのリング登場を見送った理由」に続く

●プロフィール

伊藤雅雪(いとうまさゆき)。1991年1月19日生まれ(29歳)、東京都江東区出身。アマ経験なしでプロ入りし、全日本フェザー級新人王、WBC世界ライト級ユース王座、OPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王者などを獲得。2018年7月28日、アメリカのフロリダ州キシミーでクリストファー・ディアス(プエルトリコ)に3-0判定勝ちし、WBO世界スーパーフェザー級王座を獲得した。同タイトルは1度防衛後、2019年5月25日にジャメル・ヘリング(アメリカ)に敗れて王座陥落した。プロ戦績は26勝(14KO)2敗1分。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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