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「このままじゃ日本のボクシング界はやばい」横浜光ジム会長の新たな挑戦とは

杉浦大介スポーツライター
写真提供・石井一太郎

 現役時代は日本、OPBF東洋太平洋ライト級王者になり、2009年に引退後、横浜光ジムの会長に就任した石井一太郎。現在は東日本新人王実行委員会の委員長も務める石井会長は、動画配信サイトA-SIGN.BOXING.COMを16年6月に開設したアイデアマンである。8月31日には新宿フェイスで開催する「ファーストレートPresents A-Sign BOXING」もYouTubeで生配信する。

 38歳の若さでプロモーターとしても注目を集めるようになった石井会長に、今回、ロングインタビューを行った。歯に衣着せぬ小気味良い言葉から、ボクシング界が目指すべき1つの形が見えてくるようでもあった。

 インタビュー第1回

 「タイで負けた時はショックだった…」横浜光ジム会長が明かす一番つらかった世界戦

映像を重視するワケ

ーー石井会長は所属選手を海外で日本未公認のタイトルに挑戦させたり、動画配信サイト「A-Sign Boxing」をスタートさせたり、かなり思い切ったことをやっているという印象もあります。業界内で中には反感もあるのではないかなと推測しますが、そういうことは気にならないですか?

II : 気にならないですね。例えばA-Signのチャンネルで新人王戦の生配信をするときに、「協会の事業なんだから、A-Signではなく、協会のYouTubeチャンネルを作ってやるべきでは」という人がいたそうです。そう思うなら、その人が自分でやればいい。そうやって非難する人は、たいてい何もやっていない人です。例えば大橋ジムの大橋秀行会長であるとか、自分のことをしっかりやっている人は僕のことも評価してくれています。

ーーA-SignのYouTubeチャンネルは登録者も多いですが、もともとどういった考えで開始されたんですか?

II : ボクシングの興行は後楽園ホールでだいたい年間120回くらいありますけど、映像が表に出ることってなかなかないじゃないですか。でも実際には、スポーツビジネスって映像の比重が大きい。本を読んだりして、それが一番大事だということを学んだんです。まずは横浜光ジムのチャンネルを作って、映像をどんどん発信するようになりました。赤穂亮がマニラで試合したとき、タイの世界戦のときなど、試合前の様子を映像で追ってドキュメンタリーを作ったりしていました。ただ、だんだんとうちのジムだけでやっていても仕方ないなと思うようになったんです。

ーーそう考えるようになった理由は?

II : 帝拳ジム、三迫ジムのような力のあるジムでも、良い選手がたくさん出る時期とそうではない時期がありますよね。僕たちもこの10年はいいけど、その後はわからない。自分のジムに良い選手がいるかいないか、そういう選手を育成できるかどうかにビジネスが左右されるようでは厳しいなと考えるようになったということです。そこで興行主としてできることはないかなと考え、いろいろなジムの選手にも焦点を当てるようになりました。

ーーボクシング界全体に視野を広げれば、リング外のビジネスは自分のジムの選手に左右されなくなりますね。

II : その通りです。僕が代表になってからジムに入ってきた高橋竜平はニューヨークで世界戦をやりましたし、松永寛信は日本とWBOアジア太平洋のスーパーウェルター級王者になりました。ただ、彼らもずっと現役でいるわけではないですからね。また、僕個人としても、同じことを繰り返すのではなく、新しいことに取り組んでいきたいという気持ちが強いんです。この10年はトレーナーとしてバリバリにやって来たので、今では選手たちは他のトレーナーに預けて、8月31日に八王子中屋ジムの中屋一世会長と一緒にやるA-Sign Boxingの共同プロモートイベントのようなことをどんどんやっていきたいなという思いがあります。

未来のために

ーー新しいことに挑戦し、視野を広げていきたいということですね。

II : トレーナーをやっていたら、もうボクシングだけです。でも今、プロモーターとしての仕事に力を入れてやっていると、ボクシング以外の人とも関われます。だから今はこういう活動の方にやりがいを感じますね。ただ、それでも夜6〜9時くらいの選手たちが集まってくる時間にジムにいるっていうのはやっぱり楽しいですよ。ストレス発散にもなりますしね。

ーー結局のところ、やはりボクシングが好きなんですね。

II : まあ、そうなんでしょう(笑)。ジムにいる時間は楽しいですが、それだけになったら終わりだなと思っています。それだけやっていたら、今後は食ってはいけない。僕がずっとジムだけにいて、ずっと選手のミットを持っていたら、ジムとして、会社としては成長しないですよね。

ーーまず自分の興味がありきでというのは誰でも同じ、当然だと思いますが、その一方で日本のボクシング界をより良くしていきたいという気持ちはありますか?

II : ボクシング界を良くしたいという気持ちははっきり言ってないです。ただ、このままじゃ日本のボクシング界はやばいなという思いはあります。まず自分の生活が安定し、お金を持っていないと、選手は育てられません。バイトしながら選手を育てれば映画にはなるのかもしれないけど、限界はあるし、現実的ではない。物理的にも、精神的にも、人は安定していないと他の人に施すことはできないんです。だからボクシング界では選手からファイトマネーを搾取したりとか、そういう行動をする人が出てきてしまう。そういった人を見て、「本当にダメなやつだ」と思うよりも、「こういう環境では誰でもやる」と思ってしまいます。自分がお金を持っていなかったら、お金が入ってくる人から取るしかないですもんね。まずは自分がそういう立場にならないようにすることが一番大事だと考えています。

ーー日本のボクシングはそういうジムばかりではないということでしょうか。

II : 全国にある200以上のジムを見ると、そうじゃないじゃないですか。だからボクシング界は厳しいなと思いますが、業界を良くしたいというのは僕1人でできることではありません。自分にできるのは、自分の興行、活動を充実させること。それをやっていけば、選手が充実したキャリアを積むことにもつながるはずです。

ーーみんながそれをやったらおそらく日本ボクシングもより良くなっていくんでしょうね。今後、個人的な目標はありますか?

II : 世界戦のプロモートはまだ経験していないので、それはやってみたいです。世界戦のプロモートまでやったら、一人前かなという気持ちはあるので。でも、それを目標に毎日頑張っているとかそういうことではなく、今、聞かれたから無理やり答えただけという感じなんですけど(笑)。僕はいつもそんな感じです。赤穂の世界戦のときだけは一緒にやっていた仲間が何人かいたので、目標を1年先に決めてやっていましたけど、それ以外は目の前のことしか考えていないんですよね。とにかく今は8月31日のA-Sign興行のことしか考えていないです。

石井一太郎

●プロフィール

東京都生まれ。前OPBF東洋太平洋ライト級王者、元日本同級王者。通算戦績は21勝(16KO)3敗1分。現役時代は横浜光ボクシングジム所属で現在は同ジム会長。

 8月31日、石井会長とともに新宿フェイスで「ファーストレートPresents A-Sign BOXING」を開催する中屋一世氏(八王子中屋ジム会長)よりメッセージ

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 8月31日(月)にYouTubeで試合を無料ライブ配信

 コロナ禍の中で準備が始まりました『ファーストレートPresents A-SIGN BOXING』もいよいよ来週となる中で、新たな試みが形となってきました。中でも出場選手達に直接激励賞が渡せる500円から始まる投げ銭システムでは、総額150万円もの支援が集まっています。

 また興行を開催するまでの裏側などを公開しているオンラインサロンも、200人を突破し盛り上がりを見せています。そして、有観客とすることになった際、”自由価格”というものを取り入れる事にしました。

 これはオンラインサロン内にいるメンバーの方々を無料で観戦にご招待をし、試合後、もし楽しんでいただけたらさらにご支援をいただくと言うクラウドファンディングを設けさせていただきました。

 その全ては8月31日(月)に新宿FACEで開催する、イベントのためです。試合観戦もYouTubeで無料の生ライブ配信でお届けします。ボクシング界で新たな試みを行ったこの興行の集大成を是非ご覧ください。

*HP:A-SIGN BOXING

 https://a-sign-box.com

*YouTube:A-SIGN.BOXING.COM(当日の配信アドレス)

 https://youtu.be/jdkocXwCvQ0

写真提供・石井一太郎
写真提供・石井一太郎
スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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