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「KO率100%」16戦全勝の新星がウェルター級に出現 それでもキャラが薄いのはなぜか

杉浦大介スポーツライター
Photo Tom Hogan/Hoganphotos-Golden Boy

7月24日 カリフォルニア州

ファンタジー・スプリングス・リゾート&カジノ

ウェルター級12回戦

バージル・オルティス(アメリカ/22歳/16勝全勝(16KO))

TKO 7回2分58秒

サミュエル・バルガス(コロンビア/31歳/31勝(14KO)6敗2分)

パワフルなコンビネーションの持ち主

 ウェルター級のスター候補は順調に階段を上がっているのだろう。

 24日、DAZN USAの再開イベントとなったファンタジー・スプリングスでの興行で、22歳のオルティスがバルガスに圧倒的なストップ勝ち。これまでエロール・スペンス・ジュニア、ダニー・ガルシア(ともにアメリカ)にしか倒されたことがなかったベテランを相手に、新鋭はその攻撃力を存分にアピールした。

 「ボディに多くのパンチを決めた。彼がなぜ倒れないのかわからなかった。8回まで続いてたら、彼はもっと傷ついていただろうね」

 オルティスの言葉通り、序盤から両者の勢いの差は明らかだった。

 パワージャブで距離を作ったオルティスは、パワフルなコンビネーションで主導権を掌握。速攻型と思われがちだが、ステップワークや上下の打ち分けなどを披露して中盤からスキルの確かさを証明したのは特に評価されていい。31歳のバルガスは確実にダメージをため込んでおり、7回にジャック・リース・レフェリーがついにストップをかけたのも遅すぎるように感じたほどだった。

大人気ガルシアの”代役”

 DAZN USAにとって2月下旬以来となった興行のメインイベンターは、本来ならばライト級のライアン・ガルシア(アメリカ)が務めるはずだった。しかし、一時は7月4日にイベントが企画されたものの、大人気のガルシアは25〜35万ドルの報酬で戦うことを拒否。米独立記念日の再開プランはたち消え、仕切り直しの興行では代わりにオルティスが顔役に起用される流れとなった。

 2018年10月、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)とDAZNが10戦3億5000万ドル(注)の巨額契約を締結した際、カネロを抱えるゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)はDAZNから1年あたり1500〜1800万ドルの予算で最大10興行を開催するサイドディールを手に入れた。単純計算で、自前の1興行あたり150〜180万ドルのバジェットがあるということ。だとすれば、コロナ対策用の追加費用を考慮した上でも、ガルシアへの提示額は確かに低いようにも思える。

 (注)契約開始前の1戦と合わせ、11戦3億6500万ドル契約とまとめられることが一般的

 GBPとガルシアの仲違いの経緯を語るのはまた別の機会にするとして、主催者側はここで方向転換を余儀なくされる。代役のオルティスは25万ドルのファイトマネーでの出場を快諾。おかげで再開興行という注目ステージで、”ショウケース”の舞台が巡ってきたのだった。

Photo By Tom Hogan/Hoganphotos-Golden Boy
Photo By Tom Hogan/Hoganphotos-Golden Boy

古き良き時代を感じさせるタイプ

 「ガルシアはモデルや俳優業にも興味があるみたい。ボクサーとしてより長持ちするのはオルティスの方ではないか」

 DAZNの解説を務めたセルジオ・モラはそう述べていたが、実際にオルティスにはいわばオールドファッションなボクサーの魅力があるのだろう。

 もっとも、ガルシア、放言の得意なテオフィモ・ロペス(アメリカ)、ソーシャルメディアでの発言が盛んなデビン・ヘイニー(アメリカ)といった同世代の選手たちと比べ、オルティスはややキャラが薄い感は否めない。好漢だが、喋り、ルックスともに目立つタイプではない。おかげで現状では商品価値が高いとはいえず、しばらくはハイリスク&ローリターンの存在に甘んじるのではないか。

 「(ダニー・ガルシア、キース・サーマンは)良い相手だし、僕なら勝てる選手たちだ。僕は最も厳しい階級に属しているから、リスクを冒していきたい。この階級でタイトルが取れたら大きな意味がある」

 オルティスはバルガス戦後にそう語り、今後の対戦相手候補として実績のある2人の元王者たちを挙げていた。ただ、現実的にガルシア、サーマンの方にオルティスと対戦するメリットはほとんど存在しない。この点をどう変えていくかが、オスカー・デラホーヤが率いるGBPの課題となっていくのだろう。

知名度アップのためにできること

 ロベルト・ガルシアの指導を受けるオルティスは、2019年はマウリシオ・エレーラ(アメリカ)、アントニオ・オロスコ(メキシコ)、ブラッド・ソロモン(アメリカ)というこれまでKO負けの経験がなかったベテランをすべて倒して名を上げた。今回、バルガスもストップしてKO記録はキープ。今も昔も派手なKOレコードには分かり易い魅力があるもので、このあたりが売り出しのポイントか。

 今後、まずは徐々に対戦相手の質を上げていくことが先決(ウェルター級の強豪の大半がPBC所属であるため、簡単ではないのだが)。それでいて連続KOも保てれば、オルティスの怪物的なイメージは増幅される。

 ピーク時で約80万人だったDAZNの加入者がパンデミック中に激減したとされるのがネックだが、“無骨な倒し屋”として継続的に売り出せれば、その名は少しずつ全国区になっていくのだろう。その時には、最近はGBPと関係の良いトップランクと契約するWBO同級王者テレンス・クロフォード(アメリカ)との対戦も見えてくるかもしれない。

 群雄割拠のウェルター級に現れた新たなタレントは、このまま順調に伸びていくか。スター候補の露出アップのためにはリング外の助けも必要になるだけに、GBPの手腕がここで再び問われることにもなる。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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