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WBA、IBF王者ウィリアムズが地元でKO負けの大波乱 混乱するSウェルター級、真の覇者は誰か

杉浦大介スポーツライター
Photo By Stephanie Trapp/TGB Promotions

1月18日 フィラデルフィア リアコーラスセンター 

WBA、IBF世界スーパーウェルター級タイトルマッチ

挑戦者

ジェイソン・ロサリオ(ドミニカ共和国/24歳/20勝(14KO)1敗1分)

5回1分37秒TKO

王者

ジュリアン・ウィリアムズ(アメリカ/29歳/27勝(16KO)2敗1分)

悲劇の凱旋防衛戦

 試合が終わった瞬間、場内は騒然となった。地元出身の王者ウィリアムズが、圧倒的に有利と目された無名挑戦者相手の凱旋防衛戦でまさかのストップ負け。5回に連打で効かされ、最後はビッグパンチを浴び続けた上での完敗だった。

 昨年5月には無敗のジャレット・ハード(アメリカ)を下したウィリアムズは、技術面でも高く評価されていた選手。そんな背景から、ショッキングな王座交代劇ではあった。

 もっとも、2回に左目をカットして以降、王者は明らかにやりにくそうにしていただけに、もう意外な結末ではなかったのも事実である。このレベルの戦いで、傷を負った選手がこれほど明白な影響を受けたケースは珍しい。完全にディフェンス面での集中力を失ったウィリアムズに対し、パワーで上回るロサリオは勢いをつけて攻め込んでいった。

 ベンジー・エステベス・レフェリーのストップはすっきりするタイミングではなかったが、王者のダメージを考えれば適切な判断だったのだろう。あのまま続けていれば、見ているものに恐怖感を感じさせるようなKO劇が生まれた可能性も十分にあった。

 プロスペクト時代から期待の大きかったウィリアムズだが、ジャモール・チャーロ(アメリカ)に痛烈なKO負けを喫したのに続いて脆さを露呈した感もある。アッパーへの弱さ、タフネスの不安はもう拭い去れない。ロサリオが戦前に喧伝された以上に力のある挑戦者だったことを考慮した上でも、ウィリアムズに対する”エリート王者へ”との期待感はここでかなり薄れたと言わざるを得ない。

再戦はニューヨーク開催か

 敗れたウィリアムズは再戦条項を持っているとのことで、試合終了直後のリング上ですぐに行使を明言した。KO負け直後のボクサーの発言を真に受けすぎるべきではないが、前王者側には「カットさえなければ」との思いもあるだろう。だとすれば、ダイレクトリマッチの可能性は高いのかもしれない。

 試合前から自信満々だったロサリオ側のサンプソン・ラコウィッツ・プロモーターも、即座の再戦に意欲満々。「リマッチはニューヨークでの挙行が適切だ。多くのドミニカ人の前で開催したい」と述べていた。

 実際にニューヨークにはドミニカ共和国からの移民が多く、同国出身の新王者は熱くサポートされるだろう。ニューヨークはフィラデルフィアの隣町でもあるだけに、ウィリアムズ側にも異存はないのではないか。

 様々な意味で、リマッチはPBCの本拠地でもあるバークレイズセンターにぴったりのカード。そんな周囲の思惑通りに再戦挙行となるかどうか、まずはウィリアムズのダメージ回復と方針決定を待ちたいところだ。

スーパーウェルター級は大混乱

 2つのメジャータイトルを保持していたウィリアムズが敗れ、スーパーウェルター級の混乱には拍車がかかった感がある。過去約1年、同階級の戦いは予想外の結果ばかり。今ではトップ10ランキングを作るのも難しいような事態になっている。

 2018年12月にトニー・ハリソン(アメリカ)に判定負けで一度はWBC王座を失ったジャーメロ・チャーロ(アメリカ)が、昨年12月20日に11回TKO勝ちでリベンジ成功。一方、WBA、IBF王座は昨年5月以降、ハード、ウィリアムズ、そしてロサリオの手に一戦ごとに渡っている。

 ここまで挙げた5人は実力伯仲。さらに昨年11月にはハイメ・ムンギア(メキシコ)の後継王者を決めるWBO暫定王座決定戦で、パトリック・テシェイラ(ブラジル)が評判の高かったカルロス・アダメス(ドミニカ共和国)に競り勝った。テシェイラはその後、王座に昇格し、同階級のシンデレラボーイになっている。

 その他、コンテンダー勢も豊富で、ベテランのエリスランディ・ララ(キューバ)、無敗のブライアン・カスターニョ(アルゼンチン)、新鋭エリクソン・ルービン(アメリカ)といった役者揃い。テシェイラ以外のすべての有力選手がPBC傘下という幸運もあり、今後は様々な潰し合いが期待できる。1年後の今頃には誰が覇者として浮上しているか、スーパーウェルター級は2020年のPBC目玉階級の1つになる可能性を秘めている。

フィラデルフィアの時代?

 1月10日〜30日までの短期間に、フィラデルフィア出身の強豪ボクサーが次々と重要ファイトに臨んでいる。

 まずは10日、フィリーのみならず、アメリカ最大級のプロスペクトと称されるようになったジャロン・エニスが先陣を切ってリング登場。Showtimeで放送されたバクティアル・ユーボフ(カザフスタン)との10回戦で、期待通りの4回TKO勝利で強烈にアピールした。戦績を25戦全勝(23KO)に伸ばした”ブーツ”・エニスは、ハイレベルのウェルター級を震撼させるだけのポテンシャルを確かに感じさせる。

 18日にはこれまで述べてきた通りにウィリアムズが地元凱旋防衛戦を挙行し、リングサイドにはフィリーの英雄バーナード・ホプキンスの姿もあった。

 さらに今週末の25日、ブルックリンでのPBC興行にはベテランのダニー・ガルシア、スーパーバンタム級の新鋭スティーブン・フルトンがそろい踏み。30日にはIBF世界スーパーフェザー級王者テビン・ファーマーがスーパーボウル前のマイアミで実力者のジョセフ・ディアス(アメリカ)と防衛戦を行い、”フィリーの熱い1月”は大円団となる。

 フィラデルフィアは言わずと知れた映画「ロッキー」の街。ジョー・フレージャーの出身地でもあり、もともとボクシングがもっと盛んでないのが不思議なくらいの血気盛んな土地柄である。こうして同時期に好選手が続々と登場している意味は大きく、特にエニスの出現はいわゆる”ゲームチェンジャー”になり得る。

 今後、フィリーはボクシング界にとって重要なマーケットとして確立されるか。地元での大興行は難しくとも、”チャンピオンの街”と称されるようになるか。ウィリアムズが手痛い負けを喫した後で、今週末、ガルシアとフルトンが良い流れを保てるかどうかにも注目が集まる。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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