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”超人”と極めて”優れた人間” 〜WBA、WBO世界ライト級王座統一戦 ロマチェンコがペドラザを撃破

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams / Top Rank

12月8日 ニューヨーク マディソン・スクウェア・ガーデン・シアター

WBA、WBO世界ライト級王座統一戦

WBA王者 

ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ/30歳/12勝(9KO)1敗)

12回3-0判定(119-107, 117-109x2)

WBO王者

ホセ・ペドラザ(プエルトリコ/29歳/25勝(12KO)2敗)

 2:30PM(すべて米東部時間)

 長い1日はセルゲイ・デレヴャンチェンコ(ウクライナ)との昼食会からスタート。MSGからほど近いホテルのレストランにて、数人の記者と10月27日にダニエル・ジェイコブス(アメリカ)とのIBF世界ミドル級王者決定戦で惜敗したデレヴャンチェンコを囲む。今後、デレヴャンチェンコはまずジャック・クルカイ(ドイツ)とのIBFエリミネーターを戦う予定も、中継局がESPN、DAZN、Showtime/FOXのいずれになるかは未定とのこと。局側は3戦の複数戦契約を望んでおり、どれを選ぶかの判断は難しい。ともあれ、完全なTVフリーエージェントのデレヴャンチェンコはミドル級のどの強豪とも対戦可能だが、相変わらずハイリスク・ローリターンゆえにビッグファイトの実現は簡単ではなさそうだ。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

 3:00PM  

 デレヴャンチェンコとジェイコブスのマネージャーを務めるキース・コノリー氏が、出席メディアに「ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)はどの局と契約すると思うか」と逆取材。DAZN、ESPNで意見が分かれた(筆者はDAZN)。ジェイコブス、デレヴャンチェンコも、実際はゴロフキンの決断を聞いてから方向性を決めたいところなのだろう。

 3:30PM  

 ルー・ディベラ・プロモーターが傘下のスーパーバンタム級コンテンダー、エニフェル・ビセンテ(ドミニカ共和国/33勝(23KO)3敗2分)を出席メディアたちに紹介。来年中にもWBO同級王者アイザック・ドグボエ(ガーナ)に挑戦させたい意向という。統一戦を望むドグボエだが、対立王者たちの多くはDAZN傘下だけに、挑戦を熱望するビセンテとの早期対戦は十分あり得そうに思えた(注・その後のタイトル戦で少々意外な王座交代劇があったのだが)。

 4:00PM

 長いランチが終わり、レストランを出る際にセルゲイ・コバレフ(ロシア)とメインイベンツ陣営、エレイデル・アルバレス(コロンビア)とイヴォン・マイケルのグループも同じ場所で食事していたことを知る。ビッグファイトの中枢となるホテルでは、こういった鉢合わせがよくある。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

 5:00PM  

 MSGシアターに移動し、来年2月2日にテキサスで挙行されるアルバレス対コバレフ再戦のキックオフ会見開始。コバレフはこれまでHBOと密接な関係を築いてきたが、そのHBOがボクシング中継から撤退し、今戦はESPNが生中継。コバレフはボブ・アラム・プロモーターに「今回の機会を与えてもらえたことを感謝したいです」と殊勝に述べる。一方、同じカナダに本拠を置くアドニス・スティーブンソンのリング渦に心を痛めているアルバレスは、「これまで対戦を避けられてきたけど、もう関係ない。なんとか危険を乗り切って欲しい」と神妙に語った。

 5:15PM  

 この日、87歳の誕生日を迎えたボブ・アラムに「おめでとう」の声が飛ぶ。この年齢でアメリカ(&世界)中を飛び回り、延々とメディア対応を続けるバイタリティは驚異。ハッピー・バースデイ、ボブ。

Photo By Mikey Williams / Top Rank
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 5:30PM  

 ケル・ブルック(イギリス)対マイケル・ゼラファ(オーストラリア)戦がDAZNで放送開始。一部のメディアはラップトップやスマホで視聴。最近は土曜日に複数の興行が被るケースが多く、こんなシーンが現場でもよく見受けられる。

 5:35PM  

 アルバレス対コバレフの会見に続き、同じ場所でトップランクはクブラト・プーレフ(ブルガリア)との契約を発表する。アラムは「(プーレフは)欧州最高のヘビー級ファイターだ」「私が初めて契約したヘビー級選手はモハメド・アリだった。87歳になってまたヘビー級王者になる選手をプロモートすることになった」と相変わらず大げさなイントロダクション。プーレフは「クリチコ時代が終わり、今のヘビー級は興味深くなった。来年にはアメリカで世界ヘビー級王者になります」と丁寧な英語で挨拶する。

Photo By Mikey Williams / Top Rank
Photo By Mikey Williams / Top Rank

 7:15PM  

 アンダーカードが始まり、イタリア人ヘビー級の元オリンピアン、グイド・ヴィアネロがプロデヴュー。オープン気味のパンチながら右で倒し、2回ストップ勝ち。アベル・サンチェスの指導を受ける24歳。まだ未知数だが、プーレフとも契約したトップランクはヘビー級戦線食い込みへの意欲が感じられるだけに、今後にプッシュされるかも?

 9:30PM  

 ESPNの放送が開始。トップランクが期待をかけるライト級プロスペクト、テオフィモ・ロペス(アメリカ)が登場。37戦のキャリアを誇るメイソン・メナード(アメリカ)を相手に、ロペスは初回44秒TKO勝ちでファンの度肝を抜く。右フックを浴びたメナードは顔面からリングにダイブする強烈なKOシーンで、場内のどよめきはしばらく収まらなかった。ESPN生中継の大舞台での鮮烈なKO劇で、ロペスの知名度はさらに上がるはず。まだ試されていない部分は多いので、現状で過大評価は禁物。ただ、今後もロペスが期待通りに育ち、ロマチェンコがライト級に残った場合、ブルックリン出身のロペスとロマチェンコの直接対決は2年以内にNYのビッグファイトになる可能性がある。

Photo By Mikey Williams / Top Rank
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 10:55PM  

 セミファイナルが終わり、エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)が3-0判定でドグボエを下してWBO世界スーパーバンタム級新王者に。ドグボエはナバレッテのフィジカルの強さとパワーに苦しみ、下がる展開だと戦力が半減する弱点も露呈。ダメージを積み重ねた終盤ラウンドは身体が心配になる打たれ方だった。ダンクを跳ね返してジェシー・マグダレノ(アメリカ)を終盤KOした戴冠戦で多くを証明したように見えたドグボエが、ここで早くも落城とは。ただ、ナバレッテをよく知るメディアからは「大番狂わせとは言えない」という声も。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

 11:05PM  

 元2階級制覇王者ザブ・ジュダー(アメリカ)がリングサイドに登場。顔見知りの記者に挨拶。元気そう。41歳だが、まだ試合をするつもりのようで。

 11:25PM  

 メインイベントに登場するペドラザ、ロマチェンコがリング登場。両国のナショナルカラーをあつらえたレーザーを駆使した華やかな演出。光の壁が美しい。WBSSからヒントを得たか。

 11:35PM  

 試合開始のゴング。観衆5312人(ソールドアウト)の大半はロマチェンコの支持者の様子。NYの興行でプエルトリカンがブーイングされるのは珍しい。

Photo By Mikey Williams / Top Rank
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 12:30AM  

 WBA王者ロマチェンコがWBO王者ペドラザから11回に2度のダウンを奪い、3-0(119-107, 117-109x2)の判定でライト級王座統一に成功。ポイントはほぼ問題なくロマチェンコ(筆者がペドラザに振ったのは2〜3ラウンド)。ただ、サイズで上回るペドラザが相手をよく研究して臨んだため、さすがのロマチェンコもダウンのあった11回以外のラウンドは支配的ではなかった。それゆえに、ポイント差以上に拮抗した印象を与えたファイト。ライト級に上げて以降のロマは、”超人”ではなく”極めて優れた人間”に見える。それでも十分凄いのだが。

 1:30AM

 試合後の会見開始。ロマチェンコとジャーボンタ・デービス(アメリカ)のパンチ力の比較を訊かれたペドラザは「ロマは少しずつ崩していくタイプ。一方でデービスは一発で倒す」。総合力でどちらが上かと訊かれ、「間違いなくロマチェンコだよ」と苦笑いで答えた。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

 1:35AM

 ロマチェンコも会見の席に登場。「ペドラザとの再戦はどうか」と訊かれ、「リマッチ?なんのために?接戦ですらなかったのに」と半ギレ。(2度のダウンを奪った)11回に何が起こったのかという質問に「あなたは試合を観なかったのか?」と返答するなど、少々不機嫌な印象。その理由は試合内容なのか、質問内容ゆえか、判断できなかったが。今後、トップランクは来年2月2日に予定されるIBF同級王座決定戦リチャード・カミー(ガーナ)対イサ・チャニエフ(ロシア)の勝者とロマチェンコの3団体統一戦を組みたいという。その後は1階級下の実力派王者ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)の挑戦を受ける予定。ロマチェンコ本人がどれだけ望もうと、トップランクが根深い確執を引きずるマイキー・ガルシア(アメリカ)との近未来の対戦はまずあり得ないのが残念ではある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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