“12歳・女子”にコンタクトする成人男性たち。親子で話し合いたい実態『SNS-少女たちの10日間-』

実は12歳も観られるバージョンもある

チェコ発衝撃ドキュメンタリー

猥褻動画を送られたり、裸の写真を要求されたり。世界のあちこちで子供たちが、ネット上で性的搾取に遭っている。『SNS-少女たちの10日間-』は、そんな現実を赤裸々に映し出したチェコ発のドキュメンタリーだ。公開直後に緊急事態宣言が発出され、複数の上映館が休館中だが、5月7日からは宣言対象区域外での公開が順次始まる。

巨大スタジオに作られた3つの子供部屋で、幼い顔立ちの3名の女優(18歳以上)が、“12歳・女子”という設定のもとでSNSのアカウントを開設。「自分からは連絡しない」「12歳であることをハッキリ告げる」など、いくつもの厳格なルールのもとで、コンタクトを取ってきた成人男性とのやりとりが映し出されるのだが、10日間で彼女たちに接触してきた成人男性は2458人。最初は理解ある大人を装う者もいれば、初日から性的な提案をしてくる者もいる。性的搾取の赤裸々な実態を捉え、本国チェコではドキュメンタリーとしては異例の大ヒットを記録。児童への性的搾取の証拠として、チェコ警察も動かした。

題材とニセのSNSアカウントを使うという手法から、きわどさが売り物のような先入観を持たれそうだが、精神科医や弁護士が本編中にも登場するように、出演する女性たちの精神面のケアも考えられている。

とはいえ、ニセのアカウントにアクセスした男性たちのプライバシーの扱いも気になるところ。目や口以外はモザイクで隠されているが、部屋の様子や背格好から、知人にはその人物が誰なのか特定できてしまうのではという懸念はなかったのだろうか。公開後に特定されてしまった人物から抗議はなかったのか。

バーラ・パルフォヴァーと共同監督をつとめたヴィート・クルサークに、オンラインインタビューした。

3つの子供部屋と少女たちにコンタクトしてくる人物たちのやりとりを、ヴィート・クルサーク監督は同じスタジオ内でモニタリング。
3つの子供部屋と少女たちにコンタクトしてくる人物たちのやりとりを、ヴィート・クルサーク監督は同じスタジオ内でモニタリング。

「あのモザイクは4ヶ月もかけて作った非常に精巧なものなので、人物を特定することは難しいでしょう。身近な人には気付かれるかもしれませんが、私はそれでもいいと思っています。実際、公開後には“誰それに似ている”という連絡もたくさんありましたが、私たちの目的は社会的なリンチではありません。この問題を社会的議論に発展させたかったんです。

実は、映画に登場する中には富裕層の人物がいます。その人物の弁護士から、“自分のクライエントが映画に登場したら、裁判を起こす”と電話がありました。それで、逆にその人物を出すことにした。訴訟になれば、彼の行動が公になるわけですから」

チェコでは子供を持つ親や教師の反響も大きかったという。

「その反響がとてもポジティブだったことが嬉しい。学校の先生たちからは、実際のやりとりを見せるスタイルのおかげで、生徒たちが最後まで興味を失わずに観られて、ネット上の性的搾取の実態を知ることができたのは良かったと言っていただいた。チェコにもこうしたテーマを取り上げる性教育的な番組はありますが、“こういうことをしてはいけない”と大人が伝えるだけのスタイルでは響きません。授業中に観て、生徒たちと先生がこの問題について話し合ったという連絡もいくつもありました」

部屋に差し込む陽射しも、少女たちが住んでいることになっているそれぞれの地域の時間帯に合わせて演出。
部屋に差し込む陽射しも、少女たちが住んでいることになっているそれぞれの地域の時間帯に合わせて演出。

性的搾取を防ぐために重要なのは、

問題を打ち明けられる家庭の環境作り

この作品によって、社会の意識が変化したことを感じているそう。

「扉をちょっと開くきっかけになったと思います。チェコの人口は1000万人ちょっとですが、映画館で60万人が観て、テレビでは150万人が観た。オンラインでの視聴回数も、『ロード・オブ・ザ・リング』などの大作映画を上回っている。家庭内でも、この映画をきっかけに話し合ったことで、我が子がこうした危険な目に遭ったことがあるのを親が知ることになったり、その事態について話す機会になったりしています。

性的搾取を防ぐために最も大切なのは、親子の関係だと思います。何かあったときに全部打ち明けられるような家庭の環境作り。そして、いつも包んでくれる親の存在。たとえば、成績が悪かったときに、親に成績表を見せられないと思い詰めて、命を絶ってしまう子供もいる。そのような事態を防ぐためには、この問題についても話し合える環境づくりが最も有効だと考えています」

本作は、日本ではR-15指定。危険にさらされている当事者である子供たちが、観ることができない。作品の序盤には出演者を選ぶオーディション風景も映し出されるが、そこで語られる応募者たちの実体験も、いかに子供たちが危険にさらされているかを浮かび上がらせる。この部分だけでも、日本の子供たちが観られればいいのにと思うほどだ。

「実はこの映画には3つのバージョンがあります。学校でも観てもらえるようにきわどい映像をカットしてあるソフトバージョンもあって、12歳から観られます。要望があれば、日本でも公開したい。私の娘もこの作品を観たのですが、観賞後には興味深いディスカッションがありました。娘も、性的搾取が目的の男性にインタグラムでコンタクトされたことがあるとわかったんです。“私の父親は、子供を狙う大人について映画を撮っているから気をつけろ”と言って撃退したそうですよ(笑)」

ヴィート・クルサーク(中央)。チェコ生まれ。2006年、FAMUのドキュメンタリー映画学科を卒業。
ヴィート・クルサーク(中央)。チェコ生まれ。2006年、FAMUのドキュメンタリー映画学科を卒業。

大きな話題を呼んだ作品に出演した3人の女性のその後も気になるところ。出演者の1人、テレザ・チェジュカーは映画学校の生徒だが、この作品がその後のキャリアを開くきっかけになったのだろうか。

「本当の女優はテレザしかいませんので、女優としてのキャリアにおいてはどこまでプラスになっているかはちょっとわかりません。でも、ひとつ言えるのは、この作品を経て、彼女たちはこのテーマについてアンバサダー的な存在になり、トークショーに出たり、取材を受けたりしています。年齢的にも子供たちに非常に近い存在だけに、彼女たちの語ることにはとても説得力があるんですね」

2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

『SNS-少女たちの10日間-』(原題:V siti /2020年/チェコ)

監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク 原案:ヴィート・クルサーク

池袋シネマロサ、キネカ大森にて公開中。全国順次公開。

(緊急事態宣言発令中につき上映日程の変更の可能性も有り)

※緊急事態宣言発令に伴う休館劇場【4/27~5/11】 ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田(緊急事態宣言明けに改めて上映予定)